花に嵐 - 米津玄師
皆さん、名前は耳にしたことはあるであろう米津さん。僕とは生まれた年が同じなので、同世代の才能に溢れたアーティストとして応援しています。どんどん若いのが出てくるのが芸術の世界。流行りに乗るだけでなく、波を起こし続けるには途方もない困難の連続でしょう。だからこそ、頑張ってもらいたいです。
今日は米津玄師の「花に嵐」をとりあげます。
花に嵐。
“好事を「花」に見立て、「嵐」はそれを散らして吹く激しい風の意。花がきれいに咲くと、激しい風が吹いて撒き散らしてしまうことから、良いことにはとかく邪魔が入りやすいことをいう” (故事ことわざ辞典)
美しい日本語の語感。日本人の心とも言える花と、それを散らす激しい嵐。三文字でここまで情景が浮かんでくる古語は美しいですよね。普段はあまり使いませんが、雅な言葉はたくさんあります。忘れてはいけませんね。
さて、曲の舞台は激しい嵐に吹き付けられてぽつりと孤立した無人の駅。そこで、女性が一人ぼんやりと待合室の中で風が吹きすさぶ外を眺めています。
―――――
雨と風の吹く 嵐の途中で
駅は水面に浮かんでいる
ひとりで眺めて歌っては
そうだあなたはこの待合室
土砂降りに濡れやってくるだろう
そのときはきっと笑顔でいようか
もう二度と忘れぬように
―――――
嵐の中にやってくる一人の人間。びしゃびしゃになってもこの待合室を訪れます。これはどんなメタファーなのだろう。嵐と笑顔。相容れない二つの現象。この時点で、何かがねじれていますよね。
全天を覆うどす黒い雲と、飛沫を散らす白い雨ががたがたと待合室のドアをけたたましく叩いている。そんな風景が目の前に迫ります。
―――――
わたしにくれた 不細工な花
気に入らず突き返したのにな
あなたはどうして何も言わないで
ひたすらに謝るのだろう
―――――
ここは待合室で思い出す過去の情景でしょう。不細工な花をよこした。気に入らずに突き返した。あなたは(少し寂しい顔をして)ごめんと呟く。一連のやりとり。後悔。
―――――
悪戯にあって 笑われていた
バラバラにされた荷物を眺め
一つ一つ 拾い集める
思い浮かぶあなたの姿
―――――
そして、もう一つの思い出。もしくは、現在進行形の悪夢か。ここまで来て、やっと全体像がつかめてきましたね。人間の社会にはよくあることです。よくあることですが、当人にとってはたまったものじゃない。僕たちは雨の中をずっと走り続けれるほど強い人ばかりでない。待合室のドアがひとりでにがばっと開いて、全身を冷たい風と雨が打ち付けても、またドアを閉めれば良い。雨が止むか、電車が来るか、それだけを考えてこの場所で何かを待ち続ける。
そんな人が大勢だと思うんですよ。
―――――
はにかんで笑うその顔が
とてもさびしくていけないな
この嵐がいなくなった頃に
全てあなたへと伝えたいんだ
苦しいとか悲しいとか 恥ずかしくて言えなくて
曖昧に笑うのをやめられなくなって
じっと ただじっと蹲ったままで
嵐の中あなたを待ってる
―――――
だから、あなたは雲の隙間に射した薄明光線のようなもの。私はただ、そんな瞬間がまた訪れるのを、後悔を引きずったまま待ち続けるのです。
全てが黒と白のモノクロに染まる空間で、あの時の花の色と匂いはずっと残っているのでしょう。
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