第15話 報復
「以上が、子会社Z社の株式譲渡スキームです」
私は、元出向先であったZ社の株式譲渡案の説明を行った。
金川社長からのこの会社を切れという指示は、会社を解散して潰してしまえという意図があった。たしかに、Z社は固定費削減が限界までにきており、数年前から売上は右肩下がりになっている。とてもじゃないが、短期間での黒字化の目処は立ちそうにない。
実際に出向という立場で、会社の内情を知るものとしては、妥当な経営判断だ。
ただ、会社を解散し潰してしまうことは、私をどん底から救ってくれた社員達への裏切りだ。しいては、愛する彼ら一人一人の生活を奪うことになってしまう。それを考えると胸が締め付けられる。明らかに私情を挟んでいるとはいえ、それはどうしても避けたかった。
私は、開発部長時代のコネを最大限に利用して、M&A仲介業者に何とかして欲しいと頼み込んだ。ただ、Z社は赤字垂れ流し企業であることから、とてもじゃないが、買い手は見つからないだろうと厳しい反応であった。
結局、東京にはこんな赤字会社を引き取ってくれる物好きな買い手は見つからなかった。それでも諦めきれず、私が近くの会社をいくつも駆けずり回って交渉した。この会社には、素晴らしい人材が沢山いますと。なんとか地元の同業他社が候補先として手を上げてくれた。
だが、Z社の売値は付かず、ただ同然の条件ではあった。ただ、私が唯一こだわった従業員全員の雇用維持の確約は取り付けることができた。
正直、会社の利益はどうでもよかった。これで、当面の彼らの生活をなんとか守ってやれる……。その分、経済合理性に欠けると役員達から批判されることは覚悟の上だ。
現在、買い手側のデューデリジェンス中であり、早期の譲渡を目指す。
これが、私が取締役会へ提出したZ社株式譲渡スキームだ。
「そんな面倒くさいことをしなくても、解散させてしまえばいいのではないか? そのほうが早い。M&Aの仲介手数料という無駄な経費も払わなくてもいいだろう」
「今期は、それなりに会社全体の利益が出そうだから、あえて解散にして、清算損失を上げればいいのではないか? 節税にも使えるだろう」
「対応が甘すぎる。そんなもの、バッサリ処理をすれば良いのだ」
想定通りの反対意見が出てきた。
「確かに、解散をして特別損失を上げてしまうことは楽です。ただ、Z社は、当社が10年前に買収した会社であり、従業員は53名在籍しております。我々にとっては田舎の子会社の一つにすぎないかもしれませんが、地元経済の影響、従業員の雇用を最優先に考えるべきだと思います。幸いにも、買収に前向きな企業も出ております。なにとぞ、このスキームで進めさせていただくことをご了承賜りたいと存じます」
私は10名いる役員に、深々と頭を下げた。正直、損得での説明では弱く、心情的なもので訴えるしかない。あなた達も生活があるように、向こうのみんなにも大切な生活があるんだ。なんとか、これで折れてくれ。
「たしか……このZ社というのは、花城くんが前に出向していた会社だよね。向こうで情が移ってしまったのではないかね。こんなちっぽけな会社、さっさと切ればいいんじゃないかな……」
雨池が、さほど興味もないのに、嫌味な言い方をした。そう、いつものように、私を見下した物言いだ。
「雨池専務。あくまで、私は客観的かつ合理的な案として申し上げているまでです。そこに私情はありません」
それは、嘘だ。だが、それを覆い隠すように、冷静なトーンで言った。
「そうかなぁ。お前の話を聞いても、ただの無駄としか言えないんだけど。ひょっとして、向こうで気になる女子でもできたんじゃないの? 花城さんは、愛人でも守っているのかな。はっきり言ってやる。時間の無駄、金の無駄、人の無駄!!」
なんて、ゲスな奴なんだろう。この取締役会の場をなんて思ってんだ。飲み屋ではないぞ。
この男は、自分の考えとは違うものをただ排除したいだけなのだろう。私に対する悪意も含んでおり、これを反論し説得するには、時間がかかりそうだ。
「もういい。この議案に対して、ほかに意見のあるものはいないか? 私の個人的な意見は、花城執行役員の案で良いと思う。それでは、採決に移る」
長引きそうな不毛な議論を、金川社長が打ち切った。
取締役会の議長である金川社長の発言はこの会社では絶対である。この時点で、雨池をはじめ、異論を唱えるものはいなくなった。
Z社の売却スキームは、全員一致で可決された。みんなから貰ったネクタイを強く握りしめた。
みんなの会社を切り捨てて申し訳ない。だけど、花ちゃん部長は、全力でみんなのことを守ったぞ。これで、許して欲しいと。
「ほかの議案はないか? 」
金川社長がそう言うと、私に対して強い目線を送ってきた。
「Z社の売却については、役員達の反対を押し切って、お前の言う通りにしてやったぞ。これからが本番だ!」という強い眼差しだった。
荒ぶる気持ちを落ち着かせるために、一呼吸をおいた。自然と気持ちが穏やかな海のように落ち着く。覚悟を決めたら、なにも怖くはなかった。手を挙げた。
本日の取締役会は終了したと思い、役員達はすでに書類を片付け始めていた。新米の執行役員の挙手に、一斉に視線が集まった。
「議長、もう一つ諮りたい議案がございます。この場で雨池専務取締役の解任動議を提出します!!」
会議室が一瞬静まった。
「な、なんだと。花城、貴様!! 気でも触れたのか? なぜ、おれがやめなくてはいけないんだ。言ってみろ!!」
想像もしなかった解任動機に対して、雨池が机を思いっきり叩き、凄い勢いで立ち上がって恫喝した。今まで見たことのない血相で、怒りをぶちまけている。
周りの役員たちも、雨池の口調に怯え、なにが起こったのかわからない様子で動揺している。それに対して、何故だろう。私には雨池の恫喝が一向に響いてこない。
「雨池専務、今から、ゆっくりとご説明しますよ。なぜ、あなたがこの会社をやめなければいけないかを。そんなに、デカイ声を出さんでも、とりあえず、座ってください。まずは、こちらの資料をよくご覧ください。」
雨池の怒りと睨みをいなして、淡々と答えた。
会議室が静寂に包まれる中、告発状の写しを、総務部の部下たちが手の震えを抑えながら、丁寧に配った。
「な、な、なんだ、これは? 」
雨池が絶句しながら、渡された書類を凝視している。他の役員達も穴が空くほど、くいるように読んでいる。その様は、まるで赤点を回避しようとする学期末の試験会場のようで、笑える。あなた達もしっかり、落第しないように読めよ。
「これは、私のところに届いた告発状です。会社の人間しか知らないことをここまで詳しく書かれた内容をみれば、社内の誰かが書いたものと推察されます。幸いにも、この告発状は外には漏れていません。ただ、ここに記載してあるように、経営の判断次第では、全部をマスコミに公表すると書かれています。経営の判断とは、雨池専務の処分をどうするかです。皆様の公正で清明な判断をよろしくお願いします」
「雨池専務。ここに書かれている内容は、真実か? 」
金川社長が、雨池専務に問うた。社長は、雨池に最後のチャンスを与えたのである。昨日のうちに、金川社長にはすべての調査結果を報告してある。
雨池は、手渡された告発状を呆然と見返していたが、ハッと我にかえり顔を上げた。
「社長、まったく身に覚えがありません。これは、ただの怪文書です。みなさん、いいですか。 こんな下らないものに振り回されてはいけませんよ。それにしても、こんなものが平然と出るなんて怖い世の中ですな。まるでドラマの世界ですよ……」
そういうと、雨池は告発状を机に放りつけて、大笑いをした。会議室の誰もが事の深刻さに、愛想笑いをするどころか言葉が出ない。意見を求められないように、下を向いている。
「そうか。雨池専務は全面否定をするということか。では、花城、お前の調査結果を報告してくれ!」
金川社長は、表情をかえずに、取締役会の議長として進行しようとした。
雨池は、金川社長が最終的には守ってくれると思っていたのだろうか。なぜなら、専務取締役だから、縁戚だから。社長の意外な対応に、余裕のある顔から笑みが一瞬にして消えた。
「分かりました。私の調査報告書をご覧ください。順にご説明をさせて頂きます。まずは、パワハラ、セクハラについてです。ここに書かれております内容のセクハラ、パワハラに関しては、多数の社員からヒアリングすることができました。詳細はここに記載の通りに、生々しく書かれています。これだけの証言があれば、事実として、客観的に該当すると考えられます」
「そんなもの……私だって、そりゃ厳しく指導したことも確かにある。俺たちの時代と最近の若いやつらとの、コミュニケーションに対する考え方の違いに過ぎないだろう。そりゃ、上に立つものとして、好かれるだけにはいかん。嫌われることも、反発もあるだろう。甘ったるい社員の一人一人の戯言を聞いてどうなる」
まわりの役員に対して、もっともらしい言い訳をした。専務と同年代、彼の派閥と思われる役員達は、雨池の発言に同情するそぶりを見せた。ただ、解任動議がでて、どっちの立場に立てばいいのか、迷っているのがわかる。この人たちは、パワハラやセクハラは受ける側がどう捉えるかが大事だということを知らないのか。
「甘ったるい社員ですか……。ならば、具体的な事案で検証しましょうか?専務、私の元部下である秋谷を知っていますか? 」
「営業第一部のものだろう。目に入れてもいいくらいのかわいい部下だよ。彼の成長のために、指導もしたし、よく飲みに連れて行ったなぁ……」
そう、酒の飲めない秋谷を、何度も何度も。
「そのかわいい彼はもう4ヶ月ちかく、会社にでてきてません……雨池専務はなにかご存知ですか? 」
「あいつは、もともと体が弱くて、だな。自分の成績が伸びないことを、いろいろと悩んでいたなぁ。それも、家族のことでも色々あったらしい……。とても、残念だ。私も心の底から心配してるんだよ」
「人事部は把握しているのか?」
金川社長が、私の調査報告書に目を向けたままで、人事担当役員に聞いた。
急に発言を求められた男は、慌てふためいている。この男は雨池と繋がっていると、私はみてる。そう、雨池のパワハラを知りながら、秋谷を見殺しにした共犯者だ。
「はい。たしかに、彼は体調を崩しており……休みを取っています」
「ちがう。休んでいるのかと聞いたのではない。その原因が、雨池専務のパワハラが原因かと聞いておるのだ」
苛立ちながら、金川社長が質問を続ける。
「あ、あっ、違います。人事部が直接、自宅にいって本人に話を聞きました。パワハラは一切ございませんでした。先程、専務がお話されていた通り、自分の実績が伸びないことに悩んで、体調を崩したものと人事部は結論づけてます。もちろん、雨池専務が原因などとは到底考えられません……」
「人事部の見解はわかった。花城はいまの発言をうけて反論はあるか? 」
「本当に、人事部は秋谷に話をちゃんと聞いたのですか? 彼の心の叫びを聞いたのですか? 先月、私は彼の家に訪問しました……。秋谷はほとんどまともに話もできない状況でしたよ。奥様も苦労されていました。本当に心が痛みました。彼は勇気をだして、すべてを話してくれました。これが、彼が私に託した事実確認書です。人事のあなたも、よくご覧下さい。あなた達が、大切な社員を見殺しにしたんだ!!」
秋谷の自署が入った事実確認書を突きつけた。
彼も、この事実確認書を書くのに、葛藤と勇気が必要だったのだろうか。秋谷という名前の文字が、微妙に揺れている。病と闘いながら、よくここまで赤裸々に自分の想いを書いてくれた。この場にはいないが、彼も一緒に戦っているのだ。
「パワハラかどうかの判断基準に、第三者からの客観的な目による判断も重要だとのことです。秋谷が嘘をついている可能性もあります。それを、皆さんで確認しようじゃないですか?続いて、こちらの映像もご覧下さい。」
部下に指示をし、監視カメラの映像を流した。
雨池をはじめ、役員達は呆然としながら映像を眺めた。誰の目でも、雨池のパワハラは明らかで、見るのも耐えないものが流れた。その映像を見ながら、私自身も再び心が痛んだ。
「みなさん、どうでしょうか? これでも雨池専務にパワハラがなかったと言えるでしょうか? 周りの社員も見て見ぬふりだ。やはり、こんな会社は異常です。人事部もこの問題を放置せずに、真摯に向き合えば、わかったはずだ!!あなた達も同罪だ」
秋谷の無念を、人事担当役員にぶつけようとした。このままでは、秋谷が可哀想すぎる。なにが、従業員も守れずに、偉そうに人事だ。その様子をみて、金川社長が割り込むように人事担当役員に対して言い放った。
「わかった。うちの人事部は、まじめにパワハラを調査したが、全く見抜けなかったポンコツ集団だったということか。それとも、真実を分かっていたが、専務が怖くてもみ消したということか。それとも、今、流行りの忖度か。貴様!! この責任は人事担当役員として極めて重いぞ。お前の処分も考える。首を洗って、覚悟をしとけ!!」
もともと、小柄な人事担当役員は、居場所をなくし、下を向くしかできなかった。彼の様子を見ると、雨池から隠蔽の指示があったのだろう。なにか、言いたそうな顔だが、雨池が怖くてなにも言えない様子だ。
「この件に関して、雨池は、なんか申し開きはあるのか? 」
「今の映像を見て、私もやりすぎたと反省しました。私としては、彼を一人前に鍛えようとしたのですが、結果として、過度なプレッシャーを彼に与えてしまったようです。秋谷くんに、直接お詫びをしたいと考えています。皆様にご心配とご迷惑をかけまして、申し訳ありませんでした。今後は、下の人間にも気を配りながら、業務に励みたいと思います」
さすがに社内政治家だと思った。決定的な証拠を突きつけられて、比較的に逃げ道のあるパワハラを素直に認めた。
「雨池専務はパワハラについては、お認めになられるのですね。キックバックについてはどうですか? 今のうちにすべてを白状された方が身のためだと思いますが……」
例の武器は、最後の手段として取っておきたい。畦地から送られてきた証拠は、何しろ出所が怪しいうえに、非常にグレーなものだ。出来るだけ、雨池の自白で処理をしたい。
「パワハラについては、私に非があったのかもしれない。だが、この怪文書に書かれているキックバックについては、事実無根、私は清廉潔白だ。これ以上、嘘八百を並べると、花城。貴様を名誉毀損で訴えるぞ!」
パワハラを認めたかと思ったが、一転、金の問題については、高圧的は態度で睨んできた。
「名誉毀損? 雨池専務、あなたは大きな勘違いをされてる。あなたは、会社では専務取締役という肩書きを与えられて、デカイ顔をしているが、所詮は会社の中の役割に過ぎないのです。生まれ持った身分でもなければ、特権でもない。あなたは、それを利用して、人の生活をめちゃくちゃにしたうえに、私利私欲に走った。あなたがやった行為は、決して許されるべき行為ではない!!」
「なんだと。偉そうに。貴様から、偉そうに説教をうける筋合いなど無い。そこまでいうなら、私がキックバックをしていたという証拠はあるのか? 俺の懐をコソコソ調べたようだが、そんなものはどこを探してもない。事実ではないのだからな。お前の拠り所は、この三流雑誌のような怪文書だけだろう。そんな出所も分からないようなものを根拠に、犯罪者扱いするとは。後から間違いましたなんて、絶対、許さないぞ!」
雨池は、キックバックについては、絶対にバレないという相当な自信があるのだろう。そして、私にも確たる証拠がないと思っているのだろう。この牙城を落とすには、大砲で撃ち落とすしかない。やむを得ない。畦地が注いだ毒を飲む覚悟を決めた。
「わかりました。それにしても、すごい自信ですね。この場で全てを自白したならば、いくらかは、罪が軽くなると思ったのですが。あなたが絶対に認めないと言うのならば、いいでしょう。お見せします。雨池専務、あなたはこれまで相当な資産を積み上げていらっしゃる。しかも、巧妙に資産をばらして、自分自身の全容を見えなくしている。誰の入り知恵ですか?資産管理会社という名目で、沢山の合同会社をお持ちだ。真面目にコツコツと働いている我々には、到底真似はできない。羨ましい限りです。ここまで細工をしたあなたは、絶対に汚い金の出所はバレないという自信をお持ちなのでしょう。」
「まわりくどいわ。貴様、私を愚弄するつもりか?だから、なんだ。それとこれとは関係ないじゃないか?」
「合同会社 レインポンド。自分のお名前をもじったオシャレな名前の会社ですね。」
そのオシャレで悪趣味の名前の会社を出した途端、雨池の顔色が一瞬にして曇った。明らかに動揺が隠せず、いつもの大きな声が嘘のようになりを潜めた。
「……ただのアパート投資用の資産管理会社だ。不動産投資をして、なにが悪い。誰でもやっていることではないか。もちろん、会社とは何の関係もない。後ろめたいことも全くない。」
畦地からバイク便で届けられた「合同会社 レインポンドの2年分の口座移動明細」を突きつけた。これが、私の武器だ。畦地との怪しい取引の見返りで手に入れた猛毒である。コピーしたものを他の役員にも配られている。
「おかしいですね。本当にそうでしょうか? 皆様にお配りした書類をご覧ください。これは、雨池専務が代表権をもつ合同会社 レインポンドの口座の動きです。その中に、1年半前、S社という会社から2,000万円の入金があります。これは何の資金でしょうか? 」
「なぜ、こんなものがここにあるんだ。なにかの間違いだ!!花城、貴様、どんな手を使ったんだ。」
明らかに雨池は狼狽し、預金の移動明細を破り捨てようとした。
「雨池。お前は清廉潔白なんだろ。隠すことがないなら、花城の問いにしっかり答えろ!!」
腕を組み、目をつぶっていた金川社長が沈黙を破った。これまでに見たことのない厳しい口調で言った。あの雨池までもが怯えている。
「えーー。たしか、不動産のリフォーム会社にアパートの工事を頼もうとしたのですが、キャセルをしたため、戻ってきた金だと思います。そうです。リフォーム代金の返還金だ。間違いない。」
「では、S社というのはリフォーム会社だと言うことでしょうか? 」
「そうだ……くどい。もういい加減にしてくれ」
ここまできて、まだ嘘をつく。最後の最後まで、見苦しい男だと思った。最後の武器を使ってトドメを刺すことにした。これでおしまいだ。
「あなたは、明らかに嘘をついている。雨池専務がリフォーム会社と言ったこのS社の調査報告書をご覧ください。この報告書によれば、このS社は、リフォーム会社ではなく、ソフトウェア開発業となっていますが、実質の営業実態はありません。実際は、ある会社のダミー会社なのです。そのある会社は、1年半前にすでに倒産しています。みなさん、この倒産した会社に見覚えはありませんか? ……そうです。1年半前に当社が共同開発の提携を組み、着手金2億を支払った直後、自己破産をした会社です。私がこの会社の責任をとって出向したと言った方が早いでしょうかね……」
「……………」
雨池は、ぐうの音もあげることができない。
「みなさん、よく聞いてください。事の顛末はこうです。雨池専務は、新規事業の提携先として、ある会社を連れてきた。共同開発の着手金として、我が社に2億を着手金として出させた。裏では、ダミー会社をつかって、2千万を自分の資産管理会社にキックバックさせた。その後、皆さんがご存知のとおり、その会社は破産し、会社に2億の損失を与えた。そして、責任を転嫁するため、私を出向として飛ばした。隠蔽するために、この案件の担当だった秋谷を精神的に追い込み、会社の中で抹殺しようとした。そうだな。こんなバカなことが許されるわけがない!!」
自然と涙がでてきた。
こんな男のために、いろんな人が振り回され、犠牲となった。
私も秋谷も。
会社とは、仕事とは、一体なんなんだろうかと思った。
「社長、こんなバカな話……すべてデタラメの作り話です。花城が、出向になった恨みを私にぶつけているだけです。みなさんもそう思いませんか? きっと、花城と秋谷が私を陥れるために、この茶番を仕込んだんだ。そうだ、告発状はお前らが書いたんだろ。それに、役員の皆さん、どれだけ、創業以来、私が我が社に貢献したのか? よく考えてみてください。私はこの会社に必要な人間だ。」
「ふざけるな! 私と秋谷が茶番を仕込んだだと。お前の保身と私欲のために、秋谷は死をも覚悟したのだぞ。あいつの気持ち、あいつの家族の気持ちを考えたことがあるか。あんたは、この会社に必要はない。雨池、人間として恥をしれ!!」
「花城、もういい。我が社への貢献? 雨池、お前は、いま、そう言ったのか? お前のいう我が社への貢献というのがこのざまか。ほんと、笑えるな。ここで、勝負あったな。」
金川社長はそういうと、席を立った。
「この会社を代表するものとして、このような男を専務という重職につけたことを、役員皆様にお詫びをする。雨池、お前はもうこの会社にはいらん。正式な処分は、改めて言い渡す。雨池専務の解任に賛成のものは、起立をお願いしたい。」
役員全員が、一斉に起立した。
人とは争わない。もめない。戦わない。これが私の生き方だった。人生で初めて、正義のために戦った。ただし、毒に塗れた武器をもって。
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