After Data.39 弓おじさん、雲海の怪魚

 まずは【ガトリング・トライデントアロー】で相手の出方を見る。

 雲海は透明度が皆無で、海面から出ている背ビレ以外は何も見えない。

 この背ビレの下にどういう体がくっついているのかわからない以上、奥義を使うのはまだ早い。

 スキルでダメージを与えて、たまらず海から飛び出してくることに期待しよう。


 キリリリ……シュッ! シュッ! シュッ!


 連射される三叉の矢が背ビレ周辺の海に吸い込まれていくが、特に変化はない。

 背ビレは変わらず俺のスカイシップに向かって直進を続けている。

 ダメージが入っていないのか……?

 HPゲージが見えないタイプの敵だから判断がつかない。

 矢は水の中で弱体化するといっても、地上から海のごく浅いところに撃つ場合はそこまで大きく弱体化しない。

 それに【トライデントアロー】は水属性のスキルだ。

 他のスキルと比べて、海との相性は抜群のはずなのに……。


「もしかして背ビレが本体……いや、背ビレだけのモンスターなのか?」


 俺は背ビレの下にあるであろう本体ばかり気にしていたから、背ビレ自体に矢を当てていない。

 背ビレこそが本体だとすると、攻撃がまったく当たっていないわけだから反応がないのも納得だ。

 海から背ビレが突き出ているだけでサメと判断する人間の心理を利用した背ビレモンスター……。

 NSOならそういうモンスターを実装していてもおかしくはない!


「海弓術、八の型奥義……鯨!」


 雲海も海ならば、海弓術が使える!

 八の型【鯨】は唯一地上でも発動出来る特殊な技だ。

 放った矢は一度海中深くまで潜り、その後真上に向かって加速を開始する。

 最後にはその勢いのままに海面から飛び出し、アッパーのように敵をかち上げる!

 クジラのエフェクトをまとった矢の攻撃判定は大きく、威力も非常に高い。

 これならば相手がサメだろうがヒレだろうが大ダメージを狙える!


 バッシャアアアアアアアアアアアアッ!!


 雲の飛沫を上げながら【鯨】が海面におどり出る!


「よしっ! 確実に当たって……なにっ!?」


 舞い上がった雲の飛沫がいつまで経っても消えないと思いきや、その飛沫は一箇所に集まり、まるで入道雲のよう巨大な雲の塊になった!

 そして、その雲のてっぺんには……サメの顔!?


 シャアアアアアアアアアアアアアッ!!


 咆哮と同時に表示されるHPゲージとモンスターの名前!

 あの背ビレの正体は『入道鮫』というサメ型モンスターだった!

 ……いうほどサメ型か?

 確かにサメの頭と背ビレはついているが、体の9割は雲だろう。

 どちらかと言えば、こいつは雲のモンスターのはず……。


 いや、サメに理屈を求めるのはやめておこう。

 もはや近頃のサメは、何と混ぜてもいい万能素材か何かだと思われている。

 サメをわずかでも混ぜた時点で、それはサメになるのだ。

 泥水が一滴でも混ざったワインが、すべて泥水になるように……。

 まあ、サメを泥水扱いはかわいそうだが、言葉の意味としては間違っていない。

 サメを混ぜればサメになるのだ……!


 それにしても、安易に船を上昇させて逃げようとしなくてよかった。

 入道鮫が今の巨大な姿になるまでのスピードは、船の上昇スピードを軽く超えていた。

 上に逃げていたら、あの背ビレで船の底にでっかい穴を開けられていたことだろう……!

 だが、巨大化出来ることがわかってしまえば、後はそれを警戒しつつ倒せばいいだけだ!


「ツインジェットスチームアロー!」


 火山の力を宿した新たなる弓『Vイフリートシューター』の武器奥義!

 その効果で『Vイフリートシューター』が分解され2つの小さな弓となり、俺の両手の甲に1つずつ装着される!

 1つは紅色、もう1つは白色だ!


 そして、その2つの弓からは蒸気の力で矢が発射される!

 それも30秒間、好きなだけ、好きなタイミングで撃ち放題だ!

 さらにはここへ水属性に特効がある【トライデントアロー】を融合し、撃ちまくる!


 シュゥゥゥゥゥゥ……シャッ! シャッ! シャッ!

 シュゥゥゥゥゥゥ……シャッ! シャッ! シャッ!


 狙いは入道鮫の体の中でもサメ要素が強い部分だ。

 というのも、入道鮫はてっぺんにある頭部と背ビレ以外ほぼほぼ白い雲で出来ている。

 あの夏の暑さを思い出させる白くて大きな入道雲に、サメの頭と背ビレが生えている姿を想像するとわかりやすいだろう。

 なぜそんなモンスターを作ったのかはわからなくても……だ。


 そして、この手のモンスターは実体のハッキリした部分以外に当たり判定がないのがお約束。

 だから、これだけ巨大な体をしていても狙う部分は頭だけだ!

 【ツインジェットスチームアロー】はいろいろ特殊な奥義だが、撃ち心地は悪くない。

 目標を外すことも……ない!


 シャアアアアアアアアアアアアアッ!!


 サメが吼え、その白い雲の体から無数のサメ型ミサイルを放つ。

 ツッコミどころ満載の光景だが、これはなかなか厳しい攻撃だ!


「ガー坊は攻撃よりも迎撃を優先! ミサイルを撃ち落とせ!」


「ガー! ガー!」


 ガー坊から放たれるミサイルやレーザーが敵のミサイルを撃ち落としていく。

 絵面こそ奇怪だが、音だけ聞くとすごく戦艦同士の戦いっぽい……!

 だが、もう敵艦を沈める時が来たようだ。

 ここまで相手のHPを減らせれば後はどうとでも……。


 その時、入道鮫の体を構成していた雲がフッと消え、サメの頭部も消えてしまった。

 倒した……とは思えない。

 HPゲージはまだ残っていた。

 では、逃げたのか?

 NSOで逃げるモンスターと戦った記憶はあまりないが……。


「あっ! まさか……さ、最大船速!」


 俺は操舵輪に飛びつき、即座に命令を出す!

 加速する船の真下の雲が……不気味にうごめいている!

 やはり、入道鮫は船の真下に潜り込んでいた……!


 バッシャアアアアアアアアアアアアッ!!


 再び雲の飛沫を上げながら現れる入道鮫!

 その勢いで船尾に設置されていた『ロイヤルビッグプロペラ』が破壊された!

 4つの『ロイヤルプロペラ』が健在だからまだ前には進めるが、そのスピードは確実に落ちた!

 しかも、入道鮫は俺に攻撃する暇を与えず、すぐに雲海の中に消えてしまった!

 HPが減って行動パターンが変化したか……!


「最大船速を維持しつつ上昇開始!」


 なんて厄介なモンスターだ!

 これがスカイマップのモンスターの平均的な強さでないことを祈るしかない!

 いや、むしろこれくらい強いモンスターがうようよいた方が楽しかったり……?

 まあ、そういう強者っぽいことはこの戦いに勝ってから考えよう……!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る