After Data.36 弓おじさん、大人買い

 NSOにログインした俺が訪れたのは風雲の隠れ里だ。

 スカイシップを飛ばすには、通常フィールドの中でも標高の高い場所に行かなければならない。

 風雲山という高い山の頂上にある風雲の隠れ里ならばその条件は十分に満たせる。

 それに風雲の隠れ里はたどり着くのが難しい場所だからプレイヤーも少ない。

 その分、静かに新要素を検証できるというワケだ。


 風雲の隠れ里にいる職人NPCはウーさんのような凄腕職人ではないが、スカイシップのパーツの購入はどの職人からでも出来るため問題はない。

 さて、一体どんなパーツが売っているのか……早速チェックだ!


「……多いし、結構複雑そうだな」


 店売りパーツのバリエーションはかなり多い。

 これに加えてモンスターからしか手に入らないパーツもあるのだから、かなり気合の入った新要素であることがわかる。

 とりあえず、スカイシップのパーツは大きく6つのカテゴリーに分類される。

 それぞれが装備のようにステータスを持っており、組み合わせたパーツが持つステータスを合計したものがスカイシップの性能に反映される。


 まずは『ボディー』。要するに船体部分で、これがなければ船にはならない。

 大きいものから小さいものまでいろいろあるが、大きいほど『耐久』と『重量』のステータスが増す傾向にある。

 『耐久』はそのままパーツの壊れにくさを表すステータスで、『重量』もそのままパーツの重さを表すステータスだ。

 スカイシップ全体の『重量』が高すぎると、それだけ飛ばすのも難しくなる。

 だが、『耐久』がないと簡単に壊れて飛べなくなってしまう。


 次は船を飛ばすために必要な『バルーン』『ウイング』『プロペラ』だ。

 バルーンは気球のような球体状の物もあれば、飛行船の上の部分を思い出す長く巨大な物もある。

 このパーツの特徴的なステータスは『浮力』だ。

 この『浮力』の数値が『重量』を上回っていれば、バルーンを設置する位置が極端に偏っていない限り、問答無用で船は飛ぶ。

 ふわっと浮くので非常に安定した飛行が可能な反面、バルーンは攻撃を受けやすく、『耐久』もあまり高くない。

 さらに『加速』のステータスにマイナスを加算するため、移動に時間がかかってしまう。


 逆にプロペラは『加速』のステータスを大きく上昇させるが、『浮力』を持たない。

 『加速』が『重量』を上回った場合でもスカイシップは飛ぶが、その場合は勢いで飛んでいるようなものなので、速度が緩んだ瞬間飛行がままならなくなる。

 『浮力』で飛ぶ船のように、その場に滞空することも出来ない。


 また、プロペラは比較的小さいパーツなので攻撃は当たりにくいが、『耐久』はバルーンをあまりバカに出来たものではない。

 小ささを生かして空いたスペースに複数設置し、数個壊れても問題なく飛べるようにするのが賢いやり方だろう。


 ウイングはこれらのパーツによって飛ぶ船を操る『制御』のステータスを持っている。

 バルーンは『浮力』だけでそれなりに安定しているので、そこまで重要なステータスではないが、『加速』で飛ぶ船には良いウイングを付けないと、速いだけで思うところに飛べないじゃじゃ馬が完成する。

 プロペラやバルーンに比べると多少頑丈なパーツではあるが、ボディーから横に飛び出す以上、やはり狙われやすいパーツではある。

 複数設置したいところだが、ウイング同士はあまり密接して設置出来ない仕様になっている。

 つまり、よほど巨大なボディーでないとウイングはたくさん付けられない。


 そんな繊細なパーツたちを守るために設置するのが……『ウェポン』だ。

 要するに船に乗せる武器であり、バリエーションが特に多い。

 いろんなウェポンを乗せれば乗せるほど出来ることが増えるが、その分『重量』も増えていくのを忘れてはいけない。

 船を守るつもりが、そもそも飛べなくなっちゃいました……ではお笑いだ。


 そして、最後のパーツはスカイシップの動力源となる『エンジン』だ。

 エンジンは『燃料』という独自のステータスを持ち、プロペラを動かしたり、武器を使用する際にはこの『燃料』を消費する。

 大きなエンジンほど多くの『燃料』を持つため長時間飛行できるが……やはり性能が良くなると同時に『重量』が増す。


 大きなボディーにデカいエンジンとたくさんのウェポンを積んでゆったりと空を行くか、最低限のパーツでスピードを極めて空を切り裂くように飛ぶか……。

 俺的には……中間だな。あまりダラダラ移動したくはないが、速すぎるのも怖い。

 バルーンとプロペラを併用し、『浮力』と『加速』の力である程度の安定感と加速を実現する!

 そうと決まれば、そのプランを実現できるパーツを選んで買っていこう。


 装備に関してはモンスターからのドロップ品で固めている俺だが、スカイシップに関しては店売りのパーツで固めようと思う。

 というのも、スカイシップはステータスのバランスが大事だから、いろんなモンスターから集めた個性豊かなパーツを組み合わせても、飛べない船が出来上がる可能性がある。

 その点、店売りのパーツは最初からシリーズで揃っているし、それを組み合わせればそれなりの見た目とそれなりのステータスが手に入る。


 例えば、この店で最も値段が高いシリーズは……『ロイヤル』だ。

 『ロイヤルボディー』『ロイヤルバルーン』『ロイヤルプロペラ』。

 『ロイヤルウイング』『ロイヤルキャノン』『ロイヤルエンジン』。

 カラーリングはすべて白と金でゴージャス感があり、ステータスもこれらを組み合わせるだけで飛行可能なものになる。

 最初はこれに乗って新要素を試し、理解が深まるのに合わせて各パーツを変更。

 徐々に自分だけの船を造り上げていく……というのがクレバーなおじさまの判断じゃないか?


 よし、俺は店売り品で最高性能の『ロイヤルスカイシップ』でいこう!

 お金ならいくらでもある! すべてのパーツを大人買いだ!


「ロイヤルシリーズのパーツを全部ください!」


「まいどありぃ!」


 購入したパーツはアイテムボックスに収納される。

 そして、スカイシップの組み立てはステータスウィンドウに新たに追加されたタブ『スカイシップ』を選択することで行うことが出来る。

 実寸大の船のパーツを運搬して組み立てる必要はないので非常に手軽だ。


 さあ、チャチャッと船を組み立てて空へ……。

 あ、各パーツ1個ずつしか購入してないせいでプロペラとウイングが足りてない。

 せめてここらへんは2個ずつ欲しいところだ。買い足しておこう。

 それにウェポンである『ロイヤルキャノン』はいくつくらい積めばいいのだろう?

 自動で撃ってくれるなら複数欲しいが、手動なら俺しか動かせないわけだし1個で十分だ。

 あと、各パーツの配置箇所はどうするか……。

 バルーンはボディーの上に浮かべて、ウイングはボディーの真横でいいか。

 プロペラは……ウイングに付けるか? 船尾というのもアリだが……。


「……時間かかるかもしれないな、これ」


 でも、まだ一度も船を飛ばした経験がないのだから、悩んでいても答えは出ない。

 ここは正しい意味での適当さを見せるべきだ!

 直感でぱちぱちとパーツを組み合わせること数十分、俺の最初の船が……ついに完成した!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る