After Data.17 弓おじさん、AIの格言

 ……よし、1つずつ疑問を解消していこう。


 まずはただのモンスターとは思えない戦闘力についてだが、これはハッキリした。

 ユニゾンモンスターは野良の段階で他のモンスターより飛び抜けて強い!

 敵としてガー坊と戦った時もパーティの仲間を全滅させられているし、俺自身も片脚を持っていかれてるからな。


 次になぜ倒したはずのビッグフットキャノンが無傷なのかということだが、これもユニゾンモンスターであることが関係している。

 ユニゾンモンスターを仲間にするには一度撃破する必要があるのだが、撃破した後は無傷の状態で復活し、倒したプレイヤーのもとに近づいて来る。

 つまり、ビッグフットキャノンはちゃんと傷つき倒れたのだが、そのシーンは炎と水蒸気で見えなかっただけなのだ。


 ガー坊の時もほぼ真っ暗な深海で戦っていたので、実際にガー坊を撃破した瞬間は見ていなかったりする。

 でもあの時はユニゾンが実装されたばかりだったから、ガー坊の異常な強さをすぐにユニゾンと結びつけることが出来た。

 今回はまさかビッグフットキャノンがユニゾンとはカケラも思っていなかったため、無傷の姿に度肝を抜かれたというワケだ。


 情報を整理できた今となっては『ビッグフットキャノンをユニゾンとして登録しますか?』というアナウンスは驚くようなことではない。

 ユニゾンを倒したから仲間にする権利を得た……それだけだ。


 通常、プレイヤーが仲間として連れて歩けるユニゾンは1体だけだが、登録自体は複数体可能だ。

 連れ歩くユニゾンを切り替えたい時は、その度に街に戻らなければならないので、バトル中に敵と相性良いユニゾンに交換するみたいなことは、専門職である『ユニゾントレーナー』や『ユニゾンマスター』にしか出来ない。


 しかし、冒険する目的やフィールドを明確にしておけば、そうそうユニゾンを交換したいとは思わないはずだ。

 今回のような雪山ならばビッグフットキャノンを選択しておけば間違いないだろうし、海を冒険するならばガー坊以外ありえない。

 適材適所……ユニゾンは複数いても困らない。

 当然ビッグフットキャノンもユニゾンとして登録する!


『ビッグフットキャノンをユニゾンとして登録しました。現在プレイヤーが別のユニゾンを連れ歩いているため、ビッグフットキャノンはユニゾンファームに転送されます』


 ビッグフットキャノンが光に包まれ消えた。

 名前をつけたり、ステータスを確認するには切り替えと同じく街に戻らなければならない。

 でも、今日はもういい時間だし、街に戻ったらすぐにログアウトするのもアリだろう。

 ログアウト後も公式サイトのマイページでユニゾンのステータスが確認できるはずだ。


「おおっ!? 今度は消えおったぞ!」


 徒歩で合流したネクスがビッグフットキャノン転送の瞬間を見て目を丸くする。

 俺は彼女に今回の事の真相を伝えた。

 ネクスは興味深そうに『ふむふむ』とうなずく。


「まさか没にされたと思っていたモンスターがユニゾンとして実装されているとはな……。これも人間の持つ『ひらめき』の力のなせるわざか」


「うーん、ひらめきとか人間の力とか言われると、そうじゃないような……」


 運営スタッフの遊び心、言いようによっては悪ふざけ。

 あるいは没にしたのはいいものの、その代わりとなるモンスターが思いつかなかったため、没を撤回して急遽投入したという可能性もある。

 創作において思いつきは時に実力以上のものを生み出すキッカケになる。

 なので本来は歓迎すべきなのだが、多くの工程が存在するゲーム開発の途中で思いつきによる仕様の二転三転は……。


 いや、やめておこう。

 とにかく俺はビッグフットキャノンを実装してくれた運営には感謝している。

 その経緯がどうであれ、こんな面白いモンスターは他のゲームにもそうそういない。

 早く詳しいステータスを知りたくてうずうずしていた俺は、ネクスに街に戻ろうと思っていることも話した。

 すると、ネクスは少し寂しそうな顔をした。


「そうか……そうだな。そなたはいつも夜になるとログアウトしておるからな」


「ご、ごめん。君の言う通り、いつもそんなリズムなんであって、ネクスともう遊びたくないからログアウトするわけじゃ……」


「あ、いや、そういうことでは……ない。なんというか、冒険の終わりとはこういう感覚なのだな。初めて味わう感覚だ。今日はそなたからたくさんのことを学ばせてもらった。とても感謝している」


「いやぁ、俺は普段通りに遊んでただけなんだけど、お役に立てたなら何よりさ。またいつでも一緒に冒険しよう。しばらくは火山か雪山での戦いになるから、しんどいとは思うけど……」


「ああ、その時はまた覚悟の上でよろしくお願いする。そうだな……私もしばらくは仕事をしようと思っている。何しろ今は私とのふれあいイベントの真っ最中だからな。人と慣れあうのは苦手だからと避けていたが、少しくらいなら良いかという気分になった。私とふれあうことを望む者がいるならば、応えてやろうではないか!」


「ネクスは大人だね。俺は未だに大人数に囲まれるのは苦手だよ」


「だが、そんなキュージィ殿でも最低限のファンサービスはしておっただろう?」


「まあ、『一緒にパーティ組んで冒険してください!』みたいなお誘いはちょっと怖気づいちゃうけど、スクショとか握手くらいは応えないと、俺自身申し訳ない気持ちになるし、応援してくれてる人に悪いから……って言うと、嫌々やってるみたいに聞こえるけど、本当に感謝してるというか……」


「それで良いと、私は思う。そもそも私はゲームのために生み出された存在。だからこそ、運営から人とふれあえと言う仕事を受けているのにも関わらず、乗り気じゃない自分に違和感を感じていた。だが、それは当然のことだったのだ。私とキュージィ殿には同じように意思があるのだから」


「……まあね。人気プロゲーマーみたいにファンとあっさりパーティを組んで冒険したり、動画に付くコメントにもすべて返信するようなマメで素晴らしい人になりたい気もするけど……やっぱ無理だ! 俺にはゲームを楽しく遊ぶことしか出来ない! 動画編集すらも粗い……!」


「うむ! それでいいのだ! それでこそ射程極振り弓おじさん、その名はキュージィだ!」


 俺はAIと2人きりで何をやっているのだろうか?

 これは自己啓発セミナーか……?

 でも、不思議と肩の荷が下りたような気がする。

 ゲームを遊んでいる時はそちらに熱中して考えることもないけど、ログアウト後はプロゲーマーとしてのスタンスに悩むこともあった。

 その悩みに対して、ネクスの純粋な言葉は1つの答えになる。


「とはいえ我々は人気商売。周りを無視して好きなことをやれば良いというわけではないのだろう。私もいずれイベントを任される身としては、流石に人気ひとけの多いところが苦手では困るし、そなたも今は初心者だから大目に見てもらえるが、いつまでも編集が粗くては……。まあ、スタンスを大きく変えずとも、折り合いはつけていこうぞ」


「うん、それが正しいと思う。俺も今日はネクスからいろいろ学んだよ。それでいてAIという存在がより身近になった気がする」


「それは大変喜ばしいことだな。ふっ……別れが惜しくて最後の最後で小難しいことを話してしまったが、そろそろ区切りをつけんとな。では、さらばだキュージィ殿! また、いずれ……!」


「ああ、また!」


 ネクスは炎に包まれて消えた。

 これは……AIだけに許された特殊演出ログアウトか!

 プレイヤーは街や村の中でないとログアウト出来ないし、演出も光となって消えるというキルされた時とほぼ変わらないものだからな……。


 おっと、そんなことより俺も早くログアウトして……何をするんだっけ?

 言われた通り、動画編集の技術を学ぶ?

 いや、もっと心躍るような何かが……。


「ビッグフットキャノン……!」


 オカルティックな十文字が頭に浮かんだ時、ネクスとの哲学的かつ啓発的な会話で作られた高尚な思考回路が、元のゲームを楽しむだけのおじさんの頭に戻った!

 ああ、早く詳しいステータスを確認したい!


灼熱の炎翼ブレイジング・ウイング……火翔ヒショウ!」


 俺は炎の翼で雪山を翔け下りた。

 はやる心を抑えながら、そして受け取った言葉を頭ではなく心に刻みながら……。

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