Data.206 弓おじさん、奇妙な乙女たち

「1人目はベラ・ベルベット。黒髪で前髪をかなり短めにパッツンしてる人よ」


 試合開始直後の様子が移るモニターでベラの姿を探す。

 ……あ、いたいた。

 小柄な体に加えてあの前髪の短さ……どこか悪ガキっぽい印象を受ける女性だ。

 服装はサファリ風の半袖半ズボンで、色合いが黒と金……!

 頭には飛行機乗りがつけてそうなゴーグル、首元には赤いマフラー!

 なんか、とっても男の子って感じだけど、しぐさは女性のそれだから不思議な感じだ。


「武器はムチを持っているけど、あくまでもこれはサブウェポン。彼女は……ユニゾンマスターよ」


 そう、ベラはサトミと同じ職業『ユニゾンマスター』なのだ。

 つまり、相手のパーティも通常連れていけるユニゾンと、ユニゾンマスターの特権で連れていけるユニゾンの2体がいるということ……!


「ユニゾンの種族は『フォートレスタートル』。名前はマンネンⅡ世。見ての通り要塞のように大きなカメ型ユニゾンね。動きは愚鈍と思いきや、足が戦車のようなキャタピラになっているから案外速いわ。でも、亀だから反応は鈍い。普通に命令してると動きの遅さからまるで敵に攻撃を当てられないけど、ベラさんは鈍さを考慮したうえでマンネンに指示を出すの」


「それだけ先を読む力があるってことか……。やっぱり、他のプレイヤーも強そうに聞こえるなぁ」


「ベラさんは確かに指示を出すのが速い。でもそれは、ノリと勢いで命令を出しているからに他ならないわ。先なんて読まずに、とりあえず攻撃しなければ損という考えの元、攻撃を命令しているの」


「つまり、あてずっぽう……てこと?」


「そうよ。ベラさんはプロゲーマーだけど、どちらかというと上手さよりも面白さを優先するタイプ。言い方は悪いけどネタプレイヤーという表現が似合うわ。まあ、本人は至って真剣なんだけど、だからこそ面白いというか……」


 プロゲーマーと聞けば、どうしても凄腕のプレイヤーばかり思い浮かべるが、この大VR時代ではゲームを遊ぶことでお金を稼げばみんなプロという扱いだ。

 だからこそ、面白さのプロがいてもいい。

 時代が生んだ新時代のゲーマーというわけか……!


「ワープの仕様上、誰と戦うことになるかは予想できないけど、私としてはサトミくんにベラさんと戦ってほしいと思ってるわ」


「僕もそう思います。相手が同じユニゾンマスターなら、ある程度出来ることもわかりますし、何より相手のユニゾンは要塞というだけあって防御特化。魔法攻撃が出来る僕が相手をするのが妥当でしょう。ただ、さらに詳しいユニゾンの方の情報が欲しいところですね。フォートレスタートルという種族は調べてもあまり情報が出てきません。それこそ似た種族のモンスターの情報すらありませんでした」


「フォートレスタートルはそもそもモンスターの中でもレアなユニゾンモンスターの中でもさらにレア、ごっつええレアな存在だってベラさんが言ってた。そんなユニゾンどうやって仲間にしたのかはわからないけど、スキル奥義とかステータスに関する情報は結構教えてもらったわ。というか、遠慮する隙もないくらいのマシンガントークで自慢されただけなんだけど……」


「まあ、向こうが話したくて話したのなら問題ないと思いますよ」


「それもそうね。で、どこから話そうかな……。あんまりにも情報量が多すぎて、逆に混乱しちゃう……!」


 ネココはとりあえずベラ&マンネンの印象的なスキル奥義について教えてくれた。

 俺も一応は頭に入れたが、防御特化である以上、対策が思いつかないなぁ。

 両腕で抱きしめられない巨体にそこそこのスピードって【スターダストアロー】の天敵だし、後は【南十字星型弩砲サザンクロスバリスタ】くらいか。

 でも、賭けに出るくらいならバックラー戦のように逃げ回りつつ周りのサポートをして、サトミにバトンタッチというのが正しいかもしれない。


「2人目はユーリ・ジャハナ。長い青髪が特徴の巫女さんで、武器はお札よ」


 おっとりとした雰囲気のユーリは、動きも妙におっとりしている。

 武器のお札は投げて攻撃する飛び道具のようだ。

 大量に飛ばしたお札の動きを操って敵を切り裂いたり、貼り付けて動きを止めたり、空中に並べて盾にしたりとかなり万能型のようだな……。

 しかし、彼女自身その万能さをまだ使いこなせていないように見える。

 トーナメントで今まで戦ったプレイヤーの中でも特別未熟なような……。


「ユーリさんはリアルでも巫女の仕事をしているから、プレイ時間がそんなに長くないの。いわゆる趣味ゲーマータイプで、そこまで動きは洗練されてないわ。でも、プレイ時間が短い分、一緒に冒険する機会もそんなになくて情報がほとんどないの」


 この一大イベントの準々決勝に趣味ゲーマーとはすごい……!

 どうやら、マココパーティは強さを求めた繋がりではなく、古くからの知り合いで構成されているようだ。


「情報があまりないなら、パワーでゴリ押しが一番と私は考える。ユーリさんの相手はアンヌにお願いするわ」


「シスターVS巫女ですね! どちらも甲乙つけがたいオカルティックかつエロティックな職業で私も実はどちらにしようか悩みましたが、結果的にどちらかといえばパワーがありそうなシスターを選びました! 私はエセシスターですが、マジ巫女さんにも負けませんよ!」


 アンヌの判断には感謝するばかりだな。

 彼女が火力と耐久に優れる前衛でなかったら、俺たちのパーティのバランスはガタガタだった。


「3人目はアチル・アルスター。三つ編みのおさげが特徴的な女の子で、すごく村娘って言葉が似合う姿をしているわ。武器はクロスボウ二刀流、それもガントレットと一体化するタイプで、エイム力がすごいのよ」


 2本の三つ編みを振り回して縦横無尽に戦場をかける少女の姿は、目で追うだけでもなかなか大変だ。

 しかし、そんな激しい動きの中でも、彼女は矢を当てている。

 人のことは言えないが、異常なエイム力だ……!

 相手パーティの中では、間違いなくマココに次いで強い!


「そういえば、相手パーティの中でアチルだけリアルで会ったことがないのよねぇ。ゲーム内では何回か一緒に冒険したことがあるけど、共通の話題が全然ないの。唯一叔母様の話だけは出来るけど、それ以外の話題は最新のゲームだろうと、食べ物だろうと、噛み合わなくってダメ。よほど特殊な環境で育った子なのかも。まあ、すごく明るい性格してるから一緒にいると楽しいのは確かだけど、不思議だわ……」


 ますますどうやって繋がったのかわからないパーティになって来たなぁ……。

 でも、本来ならば出会わない人と出会って仲良くなれるのがオンラインゲームの良さでもある。

 そういう意味では、相手パーティは存分にオンラインゲームを楽しんでいると言える。


 相手パーティ全員の説明が終わったとこで、俺たちはマココたちの試合の観戦に集中することにした。

 時折ネココがスキル奥義について解説を入れてくれるのを聞きつつ、目まぐるしく変わる戦場を見つめる。

 試合は……17分ほどで終わった。


 AUOratorioエーユーオラトリオはマココとアチルが生き残り、相手パーティは全滅した。

 2対0という結果だけを見ればまあまあいい勝負に見えるが、実際はマココ1人への対応がまるで出来ていなかったあたり、数字以上の戦力差がそこにあるのだろう。


 この試合を見てネココが1人でマココの相手をしたがる理由がさらにわかった気がする。

 AUOratorioエーユーオラトリオは……マココのワンマン気味のパーティだ。

 他のプレイヤーは並レベル。だが、個性的で予想もつかない動きが多い。

 最初からマココ相手に2人を投入して、残りメンバー3人を2人で相手をすることになると、数的不利と予想外の動きで負ける確率がグッと上がる。


 でも、地力はこちらの方が上だ。

 1対1ならば……おそらく負けない。

 味方の勝率を上げるため、ネココは1人でマココに挑む覚悟を決めたんだ。


 感情的にはネココの意志を尊重して良かったと思える。

 だが、心のどこかでぬぐい切れない不安……。

 1人で抑え込むなんて、そもそも可能なのか?

 この疑問の答えは……すぐに出る。

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