Data.201 弓おじさん、恐るべき存在
マズイことになった……!
無敵状態のバックラーを仲間から引き離すつもりが、俺ごと連れていくことになってしまった!
アナウンスでネココが敵の1人を撃破したことはわかったが、どうやらサトミとアンヌの方はクラッシャー相手に苦戦しているらしい。
クラッシャーは俺も手練れだと思っていたが、まさかここまでとは……。
しかし、まだ数的有利はこちらにある。
とにかくバックラーの無敵状態を終わらせるんだ……!
「……で、どうやってって話なんだけどさ!」
バックラーが建物を破壊しまくったせいで、俺が飛び移れそうな場所はもう存在しない!
覚悟決めて地上に降りるか……?
いや、そんなことをしたらバックラーにひき殺されるだけだ。
でも、【浮雲の群れ】を使い切ってしまった以上、雲の足場を作り出すことも出来ない。
【アイムアロー】で移動するのは……ダメだ。
この奥義の使いどころは今じゃない。
そもそも、俺だけ逃げ出しても意味がない。
俺が逃げ出せば、バックラーは仲間の撃破を優先するようになる。
仲間がいなくなれば、後はゆっくりと俺を始末すればいい。
前衛のいない後衛との距離など、彼にとっては無に等しいからだ。
陣取りの時だって、俺は射程だけでは勝てなかった。
前衛で壁になってくれるゴーレムたちがいなければ、バックラー率いる軍勢はもっとスムーズに砦に攻め入れたことだろう。
対人戦で後衛が活躍できるかどうかは、前衛の活躍にかかっている。
そして、前衛が活躍できるかどうかは、後衛の活躍にかかっている。
だから、今やるべきことは逃げだすことじゃない。
なんとかしてバックラーとクラッシャーから仲間を守るんだ……!
今、最後の民家が破壊された。
その上に乗っていた俺の選択は……!
◆ ◆ ◆
キュージィが乗っている最後の民家を破壊したバックラーは、キュージィが地上に降り立ち、走り出したのを確認した。
バックラーが破壊した建物はあくまでもキュージィの周囲の区画のみ。
最後の民家というのはあくまでもキュージィがスキルなどを使わずジャンプで飛び移れる場所がなくなったため、ここを壊されればもう飛び降りるしかないという意味での最後だ。
遠くにはまだ民家が複数立ち並び、その屋根の上に逃げ込まれると、また追いかけっこが始まる。
そうなれば【
このチャンスを見逃すバックラーではなかった。
「
バックラーはその身にまとった防具を自らの奥義によって脱ぎ捨てた!
高速で飛び散る防具の破片はまるで砲弾!
キュージィはもちろんのこと、その仲間たちも不意を突かれ次々と被弾する。
だが、まだ即死するほどの威力ではない……!
「
今度は飛び散った防具の破片たちがバックラーの元へと帰っていく!
その速度は飛び散った際と変わらない。
つまり、ダメージもまた同レベル……!
2連続で奥義を食らい、
戦場を見渡せば、キュージィ、ネココ、サトミ、そしてユニゾンたちの姿が消えていた。
それを確認しつつも、バックラーはアナウンスを待つ。
自分たちのユニゾンが死んだふりが得意なだけに、ゲーム側からキルという報告を受けるまで安心できないのだ。
(ネココ、撃破者はバックラー、サトミ、撃破者はバックラー、クラッシャー……クラッシャー!? しかも、撃破者は俺……だと!?)
流れるアナウンスは味方の撃破を伝えていた。
全方位に装甲をバラまいて攻撃する【
しかし、クラッシャーはこの奥義たちの存在を知っていたし、事前にバックラーがこの奥義を使った際の対処法も話し合っている。
物理攻撃は本来『攻撃』のステータスによって威力を決定するところ、この2つの奥義は『防御』によって威力を決める。
つまり、バックラーが使えば高威力の一撃へと変貌するのだ。
とはいえ、こういう変則的な奥義は素の威力がそもそも低く、ステータスで底上げしても一般的な奥義には及ばない。
ゆえにバックラーは間髪入れず2連続で奥義を放った。
2発の奥義が直撃すれば、脆いプレイヤーは流石にキルできる。
また、【
今回は無敵状態が続いていたので問題なかったが、本来は脆い自分をさらけ出す諸刃の剣ゆえに、すぐに【
これらの情報はすべてクラッシャーも知っていた。
さらにはすべての敵を射程に収めた瞬間【
打ち合せ通りに動いた場合、クラッシャーはなるべくバックラーから離れ、防御スキルでダメージを軽減する。
その後、振り返って再び防御スキルを発動。
背後から戻ってくる装甲のダメージも軽減して生き残る。
たったこれだけのことを忘れたりミスしたりする男ではない。
つまり、クラッシャーは何者かに行動を妨害されたのだ。
「いったい誰が……はっ!?」
バックラーは気づいた。
クラッシャーの撃破を告げて以降、アナウンスが沈黙していることに……!
消えたはずのあの男の名が、まだ読み上げられていない!
「ハハハ……ハッハッハッ!! もはや、末恐ろしいぞ弓使い……!」
キュージィは……空中に浮かんでいた!
最後の民家が破壊される寸前、【舞風】と【風雲一陣】を使って風の力で空へと飛んだのだ。
もちろん、雲が作れない以上足場はない。
吹く風には多少ムラがあり、上がったり下がったり揺れたりもする。
普通なら射撃など行えない状態のはずなのだ。
それでもキュージィは……当てた。
クラッシャー撃破をアシストしたのだ!
そして、地上に降り立ち走っていたキュージィは〈鏡写しのミラアリス〉によって生み出されたダミー。
前の試合で使われたばかりのダミーの存在はもちろんバックラーも把握していたが、見分ける余裕はなかった。
あの瞬間、走り去っていくキュージィが本物ならまた他の民家の屋根の上に乗られてしまう。
それにクラッシャーの活躍でキュージィの仲間も一か所に集められていた。
ベテランの彼ですら、待ってましたといわんばかりの状況を用意されれば、気持ちがはやるのだ。
これでフィールドに残った
「むっ!? ぬぅぅぅ……っ!」
「あらあら、あなたほどのプレイヤーでも動揺することはあるんですね。パリィワープ……発動してませんよ」
アンヌマリー!
装備はもうボロボロだが、彼女はまだ倒れてはいなかった!
「いやはや、流石に驚かざるを得んことが起こったからな! 俺もまだまだ未熟ということだ。しかし、この隙に奥義すら使わぬとはお前さんも……」
違う……!
アンヌは奥義を使い忘れてしまったのではない。
あえてスキルを選んだのだ。
鉄球に粘着力を付与する【
今、大盾と鉄球はくっついている!
「大盾……いただきまぁぁぁぁぁぁすっ!」
グイッと力いっぱい鎖を引っ張り、アンヌはバックラーから大盾をもぎ取った!
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