Data.198 弓おじさん、戦略的撤退
【ワープアロー】は使ったばかりだが、そもそもバックラーの移動スピードは俺よりも遅い。
街中を走っていれば逃げることはさほど難しく……。
「それにしても、まさか転がるだけであの空間の中を動けるとは思ってもみなかったぞ! 味方の技をこの身に受ける機会はなかったからな! 検証がちと足りんかった!」
クラッシャーのミラクルエフェクト【
味方殺しのシステムがあるのは今回のイベントやチャリン戦だけなので、確かに検証は難しいな。
もし転がりで動けることを知られていたら……恐ろしいことになっていただろう。
「まあ、そもそも【
バックラーが白銀のオーラをまとったまま球体へと変形する!
転がる技はスキルではなく奥義だったのか……!
しかし、【
「
巨大なネバネバの網をバックラーに浴びせる。
さっきまで味方の妨害効果が効いていたのだから、ネバネバの効果は無敵では防げないかも……!
それに【ビッグアロー】を融合したことで、網も奥義並みの強度を……・
「効かんわぁ!」
ギュルギュルギュルとバックラーが回転し、シンプルにパワーで網を引きちぎった!
網で動きを止めるにはバックラーは重すぎたか……!
「封魔縛陣!」
正三角形の魔方陣でバックラーの動きを封じる!
だが、動きを止められた時間は体感できないほど短かった!
「今の俺は無敵! 本当の意味でな!」
「くっ……!」
【アイムアロー】を使って逃げるか……?
いや、あれを使ってしまえばバックラーはますます動きやすくなる。
敵はかなり【アイムアロー】と【インドラの矢】の融合奥義【スターダストアロー】を恐れている。
チャリン戦で見せた敵に抱き着いて天高く昇り、叩き落すあの技は純粋な高威力に加えて、落下ダメージも上乗せされる。
いくらバックラーでもモロに食らえばキルに至る可能性を秘めているのだ。
俺の手でバックラーを倒すならば【スターダストアロー】しかない。
それだけにいつでも使える状態にしておきたいんだ。
逃げるために使うのは……もってのほかだ!
「舞風! 風雲一陣!」
体重を軽くし、袴で風を受けて斜め上に飛ぶ!
真上に飛ぶよりずっと難しいが、これが出来ると一発で高いところに上れる!
挑戦は何とか成功し、俺は民家の屋根の上に転がり込んだ。
「身軽だな……しかし!」
安心したのもつかの間、バックラーは民家そのものを破壊し始めた!
壁や柱を失った民家の屋根はガタガタと沈みゆく……!
早く隣の建物に飛び移らなければ!
幸い、このフィールドの建物は密集している。
屋根から屋根へ飛び移るのには運動神経も跳躍力も必要ない。
大地を歩くのと変わらない感じでどんどん移動する。
そして、バックラーはどんどん建物を破壊していく……!
だが、これでいい。
無敵状態というのはずっと続かないから無敵状態なんだ。
時間が経てば必ず効果は切れる……!
しかし、それがわからないバックラーではないということを、俺は思い知らされることになる。
「しまった……! 誘導された……!」
破壊する建物を選ぶことでバックラーは俺の移動経路を操っていた!
このままでは仲間が戦っているところにバックラーを連れていくことになる。
いや、逆だ……!
俺たちを一網打尽にしようとするバックラーに俺が連れてこられたんだ!
無敵状態はまだ切れない……!
◆ ◆ ◆
少し時間はさかのぼり、クラッシャーの【
仲間たちもまた自由の身となり、敵との戦いを再開していた――。
「おっ、ハゲの吸い付きが終わったわ! これで晴れて自由の身よ!」
眼鏡の魔女っ娘スイーパーが立ち上がり、ホウキを構える。
【ガンシップ・ブルーム】の効果は切れてしまったので、ホウキの形は元の古風なホウキに戻っている。
「雷神絶空!」
「ギャッ!」
油断していたスイーパーの首筋をネココの爪が切り裂いた。
効果解除と同時に姿を消し、即座に奥義を放つ……。
解除の瞬間こそが最も不意打ちに適していると知っていたネココは、ずっと心の準備をしていたのだ。
「これで2人目……! 次の敵を炙り出さなきゃ……」
「ビッグ・ブルーム・ホームラン!」
「きゃっ!」
まだ死んでいなかったスイーパーが巨大ホウキをフルスイング。
ネココは反射的にしゃがむことでホウキの直撃は免れたが、風圧で吹っ飛び、民家の外壁に叩きつけられた。
「ぐえっ! くぅ……うっ! 後衛職がよく耐えたわね……!」
「耐えきれなかったわ! だからこそ、耐えられたのよ」
「そう、いわゆる根性系の効果ね」
「えっ!? そ、そんなこと一言も言ってないわよ!」
ネココの言う根性系の効果とは、体力が満タンの状態で即死級のダメージを受けた場合、HPが1だけ残るような効果のことだ。
この効果は中途半端に耐久があると機能せず、一気にHPを持っていかれるほど脆いからこそ意味がある。
まさに『耐えきれないからこそ、耐えきれる』効果と言える。
「でもおかしいわ。あなたはホウキで飛んでるところを地面に叩き落されたわけだから、落下ダメージが入っているはず。それなのにアイテムで回復するような素振りは見せなかった……。これじゃHPが満タンじゃないから根性が発動しない。一体どういうこと?」
「ハハッ! そもそもHPが満タンじゃないと【ド根性魔法】が発動しないと誰が決めたの? 一定以上HPが残っていたら発動する効果かもしれないじゃない!」
うっかり根性スキルの存在を認めてしまったが、スイーパーの主張は正しい。
根性系の効果はあらゆるゲームで見られるが、その条件はゲームごとに違って当然だ。
「それもそうね。どちらにしろ、最終的な結果は変わらないわ」
ネココは爪がなくなっている手をグッと握りしめた。
その瞬間、スイーパーの周囲の地面が爆発する!
「ギャアアアアアアッ! な、なぜ爆発ッ!?」
「あなたを倒した後、私は油断してその場にとどまったわけじゃないの。この戦場にいるもう1人……いや、もう1匹の敵を炙り出すための準備をしていた!」
地雷のように設置された【爪ミサイル】の爆風で吹き飛んだのはスイーパーだけではない。
白い皮膚に赤い十字の模様が特徴的なカメレオンも一緒になって吹っ飛んでいる!
「カメレオン……それがあなたたちのユニゾンね!」
これまでの試合で一度も姿を現したことがなかった『
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