Data.191 弓おじさん、運命と奇跡
「……流石、なかなかしぶとい!」
奥義の直撃を食らってもハタケさんの体は消えない……!
思い返してみれば、『
そもそも旗が
それともハタケさんが自由な強化ポイントの振り方をしているのか……。
どちらにせよ、この流れだともう一波乱ありそうだ。
「俺は先手を打たせてもらう……!」
◆ ◆ ◆
「うぐぅッ! まだ……終わっちゃいないさ!」
「うそっ……!
ネココは効果をバラしそうになり言いとどまる。
【蒼電爪】は対象のスキル奥義によるステータス上昇効果を無視してダメージを与える奥義だ。
特に前衛職はキュージィでいうところの【弓術】のような常時発動スキルで耐久力を上げていることが多く、素の火力が低いネココがそういったタイプの敵にダメージを通す数少ない手段である。
ゆえに安易に乱発せず、ここぞという時にだけ使う。
ダメージ判定は爪の周りだけなので、隙をついて懐に潜り込まねば当たらないというのも慎重になる原因だ。
今回に関してはその条件を完全にクリアしていた。
完璧にヒットしたはずだった……が、ハタケは生き残っている!
「まさか、おじさまがあんな隠し玉を持っていたとは……。でも、まだまだこれからさっ!
旗による乱れ突きがネココを襲う!
高速かつ規則性のない乱撃は回避困難。
そして、爪は敵の攻撃を受け止めることに向いていない。
ネココは反射神経だけで回避を試み、なんとか急所を外すも数発の攻撃を体に受けてしまった。
そもそも耐久面に難があり、装備も壊れ気味のネココのHPは大きく削られる……!
(どうする……! 大きく逃げて回復するか、敵の攻撃をかいくぐってもう一発入れるか……! 回復は時間を稼ぎたいなら正解。もう一発はトドメを刺したいなら正解。敵もHPは減ってるし、もう一発奥義を入れたらキルできる可能性が高い。でも、失敗した場合は……。いや、悩んでる暇はない……!)
ネココは一時撤退を選択した。
結局のところ【
ここは危険な賭けに出ず、堅実に時間稼ぎをすべきだ。
この答えは……いや、どの答えもある意味間違いだった。
「超ダメージバースト!」
ハタケの言葉1つでネココのHPはゼロになった。
天蝎の試練のボス『ゴールドマミー』相手に見せた【ダメージブースト】の進化奥義【超ダメージバースト】。
すでに与えたダメージを増幅するという後出しの攻撃技であり、ブーストからバーストに変わったことでその増幅した分のダメージを対象プレイヤーの周囲に発生させることも出来るようになった。
これにより密集している敵にまとめてダメージを与えられるようになり、相手がプレイヤーの場合は身にまとっている装備にもダメージを与えられる。
難点は変わらずハタケ自身が与えたダメージしか増幅できないこと。
そもそもは中衛としてバフを行うのが彼の役目なので、この奥義が活躍するということは前衛が押されている状況しかない。
なので、これまでの試合では使う機会がなく、ネココもキュージィから進化前の【ダメージブースト】の存在を聞いていたにもかかわらず、すっかり警戒を怠っていた。
百聞は一見に如かず……極限の戦闘の中で一回聞いただけの奥義など忘れても仕方ない。
それに気づいた時にはもう遅いのがこの奥義の恐ろしさだ。
「今度も最後はおじさん頼り……! ごめん、おじさん!」
「そう、おじさまが残っているのだよ……! いや、それにしては矢があまり……」
バリバリバリバリバリィィィィィィィィィ!!!
天を割るような雷鳴……!
空を見上げると、そこには雷をまとった巨大な矢があった!
【インドラの矢】と【ビッグアロー】を融合した奥義はずっと前に発射されていたのだ!
落ちてくる際は雷をまとって派手になるが、昇っていく過程では大して目立たない。
ネココとの戦闘に集中していたハタケが見逃すのも無理はない。
ただでさえキュージィは遠くにいるのだ。
「これは確か……とんでもない効果範囲の奥義……! まさか、味方を巻き込むこともいとわないとは……! いや、ボクが子猫ちゃんを倒すことを予想したうえで先手を打っていたのかい!? 流石はオジサマ! 僕なんかではとても及ばないようだね……! 運以外は……!」
ハタケは最後の賭けに出た。
【
この巨大な神雷の矢を回避してからキュージィのもとに向かうのでは確実に間に合わない。
キュージィのいるジャンボ滑り台を目指しつつ、奥義も回避する……!
しかし、攻撃範囲が広い奥義に対してその選択は無謀にも思えた。
だから彼は……!
「すぅぅぅぅぅ……っ! 死亡ォフラァァァァァァッグッッッ!!」
大声で叫んだ。あのミラクルエフェクトの名を……!
この効果は声が聞こえる範囲に及ぶ。
叫べばそれだけ範囲は広がるのだ。
さらに耳を塞いで聞かなければ効果を無効にできるわけではなく、声という空気の振動が届く範囲がそのまま効果範囲となる。
キュージィは遠い。
もはや最短距離でも【
ならばせめて、彼の放った奥義を彼自身に向かわせれば、接近するだけの時間を稼げる。
これはまさに最後の賭けだった。
声が届くか、届かないか。
【死亡フラッグ】はどちらを選ぶのか。
この賭けに勝つのは……いや、賭けは最初から成立していなかった。
「おじさまが……いない!?」
キュージィの姿はすでにジャンボ滑り台にはなかった。
強化された視力で回りを見渡しても彼の姿はどこにもない。
「まさか……ボクが子猫ちゃんに勝つことを予想して攻撃しただけでなく、死亡フラッグへの対策までしていたというのかい……? 声が絶対届かない距離までワープして、発射のタイミングと位置がバレないあの奥義を置き土産に……」
そう、キュージィは【死亡フラッグ】を大いに恐れていた。
ハタケが【蒼電爪】を耐えた時点で【インドラの矢】と【ビッグアロー】の融合奥義、通称【
その後【ワープアロー】を発動し、決して声が届かない後方まで逃れたのだ。
【真・不動狙撃の構え】の発動を視野に入れれば、かなり遠くまで逃げたとしても攻撃は可能だ。
キュージィの予想はこうだ。
ネココが撃破されれば次の標的は自分になる。
そこでハタケは【死亡フラッグ】を発動し賭けに出る。
なぜなら、反射スキルでは奥義に対応できないからだ。
反面、【死亡フラッグ】なら運さえ良ければすべての攻撃を跳ね返すことが出来る。
長射程がゼロになるのも同じで、ハタケは大いに得をする。
結果的にその予想は少し外れ、ハタケはギリギリまで【死亡フラッグ】に頼らなかった。
だが、もう戦いの結末は変わらない。
「やっぱすごいや、おじさま! 陣取りの時に感じた余裕のような何か……今なら正体がわかるよ! あれは才能だったのさ! そう、おじさまの才能を一番最初に見抜いたのは……このボクさ!」
ハタケに追撃のミラクルエフェクト【
オーディエンスの中には、このトドメの一撃を過剰と評価する人もいた。
だが、キュージィは今この瞬間も勝利を確信してはいなかった。
最後までハタケというプレイヤーを高く評価し、恐れ続けた結果がこのミラクルエフェクトだ。
まだ『最強パーティ決定戦』において一度も使用していなかった特別な切り札を見せてまで、彼はハタケを倒しパーティを勝利に導きたかった。
自分が万が一キルされれば仲間もろとも敗退……。
そのプレッシャーとハタケの運に立ち向かうため、キュージィは
『試合終了ーーっ!! パラダイスパレードのプレイヤーが全滅したため、勝利パーティは……
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