Data.189 異人伝:天使とシスター
ネココがシンバを穴の中に引きずり込んだ直後から、地上では新たな戦いが始まっていた――。
「ちっ! 予備の鉄球を持ってたのか……!」
「どうしても壊れやすいですからね、私の武器は!」
アンヌは【
弓矢や銃、魔法の威力を上げるだけで直接敵を殴るわけではない杖などは比較的壊れにくい装備と言えるが、剣や槍、斧などのいわゆる近接武器は敵本体や敵のスキル奥義と直接ぶつかり合う以上どうしても壊れやすい。
そのため、予備の武器の準備を怠ってはならないのだ。
それに加えて、アンヌの鎖付きトゲ鉄球……そのトゲの生えた鉄球の形が星のように見えることから『星球』とも呼ばれる武器は構造上、剣や槍などの通常近接武器と比べてさらに壊れやすい。
巨大な鉄球部分は頑丈だが、それをつなぐ鎖が脆いのだ。
鎖に攻撃を受けて切断されると鉄球は振り回せなくなり、多くのスキル奥義が使用不能になる。
ゆえに星球使いは鉄球の内側に敵を入れてはならないのだ。
もちろん、アンヌはそのことを……ぼんやりと理解している。
口に出して説明しろと言われると困るが体は確かにわかっている。
本能型プレイヤー……。だから彼女は経験が浅くとも強い。
それに対して、ペッタはとにかく考えて動くプレイヤーである。
中性的でクールな印象の彼女は、サバサバかつドライな性格だと思われがちだが、実際はリアルでも考えすぎる性格だ。
その理由はすべてハタケにある。
ハタケの幼馴染であるペッタは彼の奔放な生き方を見つめ続けた結果、自分はブレーキ役にならなければいけないと思った。
基本的に何をやっても結果オーライになるハタケも、妙に成功を意識したり体にいらぬ力が入り始めると空回りする。
持って生まれた幸運が反転し、不運の連続になってしまう。
そういうドツボにはまった彼を引っ張り上げてあげるのがペッタだ。
だから彼女は考える。それが彼にとって正しいことなのか……。
そして、自分はずっと彼の隣にいてもいいのか……。
(このシスター……強い! 何の実績もないプレイヤーだから数合わせかなんかだと思っていたけど、これは冗談きついぜ……。しかも1回戦は運勝ち、2回戦は瞬殺だから全然情報がない! まだまだ何か隠し持ってる気がする……!)
ペッタは天使の翼で低空飛行を続け、何とかアンヌの攻撃を回避する。
この天使の翼は合体奥義【天使降臨:
一見とんでもない効果に思えるが、実際はあまり高いとこまで飛べず、翼は非常に脆い。
どちらかと言えば、この状態の間だけ発動が可能になる追加効果【
そもそも人間は翼など持たぬ種族だ。
急に翼が生えても、華麗に飛べるようになるまでにはかなりの練習がいる。
さらに飛行中の攻撃や、回避行動まで入ってくると完璧に操るのは並大抵の努力では済まない。
だが、ペッタには出来た。ハタケを支えるためにやり遂げたのだ。
(ハタケからありったけのバフをもらった。だから、火力と耐久はまあ問題ない。あとはこのバフが持続するうちにシスターを倒さないと……)
突如飛来した矢がペッタの脚をかすめる。
そう、この戦場は長射程の弓使いキュージィの攻撃に晒されている。
今はハタケがスキル奥義を駆使して矢を防いでいるが、それでも矢は曲がったり跳ねたり見えなかったりして防御をすり抜けてくる。
そんなおかしな撃ち方をしているのに、なぜか矢はやたらと当たるのだ。
(まったく……! さそり座のピラミッドの時もすごいプレイヤーだと思ったが、さらに磨きがかかってるじゃないか……! バケモンに狙われながら戦うなんてもってのほか! さっさとシスターと猫を倒して、おじさんの相手に集中するんだ……!)
ペッタはアンヌに対して決死の勝負を仕掛けた。
振り回される鉄球をすり抜け、内側に潜り込む……!
「
アンヌの鎖の一端にはもちろんトゲ鉄球がついている。
しかし、もう一端には小さな丸い鉄球がアクセサリーのようにぶら下がっているだけ……のはずだった。
今、アンヌの呼び声でもう一端の鉄球も膨らみ、トゲが生えた。
「
高速で接近する鉄球に対し、ペッタは体をひねって回避を試みる。
攻撃を食らおうと、ここで退いてはならない……!
結果、ペッタは残った右脚を持っていかれただけで何とか生き残った!
「もらった……!
ラッパを吹きならし、首を左右に素早く振る。
見えざる音の斬撃がアンヌの星球の鎖を断ち切った……!
(まだ予備があっても持ち替えなんて間に合うかよ! このまま追撃をぶち込んで終わりだ! 前衛職でも装備はボロボロ……音技の中でも純粋に攻撃力の高いこいつで……!)
――チーム『パラダイスパレード』、シンバ・ドット選手脱落!
突如、全員の脳内に音声が響いた。
「
ペッタの背中に雷の刃が突き刺さる。
翼を失った天使が……地に堕ちる。
「くっそ……! シンバの奴、ダメだったか……! でも、まだ俺には腕が残ってる! 音楽は奏でられ……」
「チェーンパンチ!」
鎖をぐるぐると巻いたアンヌの拳がペッタにトドメをさす。
『野生』の効果で攻撃力が上がったままのネココの奥義を受けた時点で、ペッタのHPはほぼ残っていなかった。
体が発光し、消滅していく……。
「すまん……ハタケ……。あんま活躍出来てなかったかも……」
「
ペッタの言葉に応えるように、ハタケは奥義を発動した。
3分間だけすべての能力を強化する【
「そんな声を出さないでくれたまえ。ペッタはよく頑張ったさ」
「でも、お前を1人に……!」
「そうだよ。まだ……ボクがいる」
その顔は試合開始時のような力んだものではなく、普段のような柔和な表情とも少し違う。
ただ、ハタケは笑顔だった。
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