Data.187 弓おじさん、固定砲台
「
赤黒い炎を宿した無数の矢が遥か彼方の戦場に殺到する。
この位置からなら、反撃を気にせずにいくらでも矢が撃てる。
アンヌが気づかないうちに場所を移動しているのを見て、俺も敵に気づかれないように高台に移動し、いきなり急所に奥義をぶち込んでやろうと思った。
そのためにはアッと驚く目くらましが必要だと考え、思い付きで【
結果として想像以上の目くらましになったとはいえ、味方に大ダメージを与えてしまったのは反省しなければならない。
もちろんペッタさんが天使になれることも【
彼女もまた温存しながら戦える実力者だったということだ。
しかし、合体奥義は使用後ユニゾンがクールタイムに入る非常にリスクが高い技だ。
ソロならガー坊を失った俺がピンチになるだけだが、パーティ戦では全員を不利な状況に追い込むことになる可能性も秘めている。
やはり、今回の使い方は少し安易だった。
教訓として忘れずにおくとして、今は勝負のことだけを考えよう。
俺がこの位置に陣取ったからには、絶対に勝利を掴んでみせる!
「油断っ! 油断っ! もうアタシったら本当に笑えない油断だわっ! でも、対策は考えてあったりして……っ! 忍法・畳返しの術!」
シンバが地面を強く踏みつけると、何もないところから畳が現れた!
畳を返すだけではなく、畳自体を召喚するスキルなんだな。
しかし、畳がそんな頑丈な壁になるとは思えないが……。
「畳も返すっ! 飛び道具も返すっ! そういうことっ!」
畳に当たった矢はそのまま180度軌道を変え、俺に迫る……!
なるほど、確かにこれは対策だ。
俺の矢をそのまま反射されるということは、射程もそのままということ。
こっちまで攻撃を届かせることが出来る!
「くっそ、飛べるうちに戦況を変えないとな……!
「おじさん対策はボクでもわかるようにキツく教え込まれているのだよ……。
残りの2人も反射系スキル……!?
どうやら、パーティ単位で俺を警戒してくれているらしい。
これは光栄なことだな……!
「でも、俺が撃った矢のことは俺が一番わかってる! とうっ!」
俺は狙撃ポイントであるジャンボ滑り台から……滑り降りた!
滑り台の滑るところ、滑降部はうねうねと折れ曲がり非常に長い。
角度もなかなかキツく、スピードが出る。
俺は正確に敵を狙っているから、そのまま反射されると普通に俺に当たる。
逆に言えば正確に狙っている分、素早くうねうねと他のところに逃げれば当たりはしない!
滑り台は攻撃するのにも、逃げるのにももってこいなのだ!
とはいえ、ジャンボ滑り台のゴールは遥か下の方だ。
最後まで楽しく滑り切ると戻ってくるのに苦労する。
だから、キィィィと途中でブレーキをかけて立ち上がり、滑降部を走って上に戻る!
この滑り台の逆走……昔はよくやったな……。
でも、それはあくまでも人がいない小さな公園の滑り台の話。
こういう大きな滑り台の場合は次から次へと人が滑ってくるから逆走は許されない。
このイベントを観戦している良い子は絶対マネしないでね!
「逆走……普通にしんどいぞこれ……!」
すぐに上に戻るのは無理そうだ……!
仕方ない。途中で立ち止まって仲間を援護をしつつ、隙を見て上を目指そう……!
頑張れ……ネココ、アンヌ!
◆ ◆ ◆
「あらやだ、オジサマったら滑っちゃって楽しそ~うっ! あんな遠くに逃げられたのは失態だけど、ああしてもがいているうちに他の子たちを仕留めてゆっくり接近すればオールオッケーってね!」
シンバは口調こそ上機嫌だが、内心キュージィを逃がしたことを気にしていた。
キュージィ本人が自分の得意戦法を忘れてしまうくらい【死亡フラッグ】のインパクトが強かった以上、他人であるシンバがそのことを忘れていても仕方ない。
だが、シンバはこのパーティを引っ張るベテランとして、どうしてもぬぐえない自責の念があった。
(アタシみたいなそこそこ歳のいった孤独なゲーマーをハタちゃんは迎え入れてくれた。それが個性優先でバランスが崩れたギルドを安定させるという目的のためだとはいえ、嬉しかったわ……)
ハタケのギルドメンバーはめちゃくちゃで『黄道十二迷宮』の隠しではない通常の試練ですら安定してクリアできずにキュージィを頼った過去がある。
その経験からギルドは安定して戦えるプレイヤーをメンバーに加えようとしていた。
今のイベントで苦戦するなら、これからのイベントはもっと苦戦するだろうと考えてのことだ。
シンバはその結果自分が新メンバーに誘われたと思っているが、真実はそうではない。
そもそもその新メンバーの勧誘はハタケ主導ではないし、今でも新メンバーは募集している。
安定して戦えるプレイヤーはまだ見つかっていないのだ。
では、シンバはなぜ仲間に誘われたのか……?
ハタケのギルドにお似合いの強力すぎる個性の持ち主だからである!
そう、アラビアンオネエ忍者というキャラだけで実力関係なく仲間に誘われたのだ。
結果としてシンバが実力者だったから勘違いが生まれたが、彼らの関係に打算は一切ない。
というか、ハタケの辞書に『打算』の文字はあるにはあるが、薄れて読めない程度である。
(待っててみんな……っ! アタシが必ず優勝に導いてあげるっ! さあ、反撃よっ!)
その時、シンバの足元の地面に穴が開いた。
「まっ!? きゃあああああああああっ!!」
シンバは突然のことに受け身もとれず、そのままドシンと尻もちをつく。
「さっきあなたが言ってた『地面に潜った後はちゃんと穴をふさがないといろんなものが入ってきちゃう』って……チャリン戦のことかな?」
穴の底で待ち構えていたのはネココだった。
【ドリルクロー】で地面を掘ってキュージィの【
「そ、そうよっ! 有名な話じゃないっ! あの時、
「よくも本人の前で言えたわねぇ!! ずっと気にしてることを……ッ! ズタズタにしてやるっ!」
「ひえ~っ!」
穴の中で毛を逆立てた猫の怒りが爆発する……!
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