Data.165 弓おじさん、波乱の予感
「やあやあ、皆の者! 予選1位通過の俺たちが来たぞぉぉぉぉぉぉ!」
『イェーイ!』と一部のプレイヤーが盛り上がる。
彼らが『
確かにマココやノルドから感じた覇気のようなものはない。
だが、彼らがあの戦いで1番になったのは事実だし、能ある鷹は爪を隠すってやつなんだろう。
要注意パーティだな……。
「1番最後まで戦っていた俺たちがここに戻ってきたってことは、そろそろ本選のトーナメント表が画面に表示されるぞ! 皆の者、刮目して見るがよい!」
『ウィース!』と一部のプレイヤーが返事をする。
ライバル同士でも調子を合わせるノリの良さは見習いたいものだな。
「さて……と、上位に有利なトーナメントが組まれるってことは、俺たち1位の最初の対戦相手は64位ってことだなぁ! ギリギリ滑り込んだのにいきなり俺たちと戦うことになるかわいそうなパーティはどこのどいつだぁい?」
「僕たちです。ムラサイ氏」
ムラサイと呼ばれた『
金髪碧眼中性的美形で王子様風装備の銃使い!
最強ギルド『
まあ、こっちが勝手に因縁を感じてるだけで、あっちは特にライバル視してない可能性もあるが……。
「なんの冗談だノルド。お前たちは64位に収まる器じゃないだろう?」
「はい。だから、意図的に収まりました。64パーティになった時点でアナウンスが入るうえ、このイベントでは同士討ちが可能……」
ムラサイが目を見開く。
俺も目を見開く。
ノルドはわざと64位になったんだ……!
そして、その意味は……!
「流石は本選に残ったプレイヤーたちです。大方、僕らの意図を察してくれたようですね。その通り。トーナメント初戦で1位を潰すためにやったことです」
このイベントは試合の様子を観戦できる。
それはつまり、1回戦うごとに自分たちの情報を世界中にばらまいているということ。
試合数が増えるごとに明かされる情報は増え、対戦相手も対策を練ってくる。
だから、彼らは1番情報が出回っていない初戦の相手に最も強い敵を選んだんだ……!
「ふっ、お前の考えそうなズル賢いことだノルド。だが、それは同時にお前も俺たちの情報を知らないまま戦うってことなんだぜ? 決して有利な状況ではないってことだ!」
「そうですね。でも、僕は嫌なことは先に終わらせたいタチなのです。夏休みの宿題はすぐに終わらせ、食事に嫌いな物があれば先に食べます」
「なるほど、それだけ俺たちを恐れているってことか!」
「……本当のことを言いますと、1位は別のパーティになると予想しての行動でした」
ノルドの視線は……マココに向けられた。
「あなたともあろう人が2位とは驚きです」
「フツーのことよ。みんな私のこと買い被りすぎ。ただのゲームしか取り柄のないお姉さんだから」
「その取り柄が怖いのです。今まさにゲームをやっているわけですから」
「まっ、私もあんたとはすぐに戦いたくはないし、上手く回避してやったわ」
「本当にしてやられましたよ。2位は1位から最も遠い場所に配置されていますから」
彼らが会話している間に、本選のトーナメント表が表示されていた!
確かにノルドとマココは決勝まで当たらないようになっている!
俺たちは……ノルドとは決勝、マココとは準決勝で当たる可能性がある。
「つまり優勝を目指す場合、どちらも直接倒さないといけない可能性もあるのか……」
恐ろしいことだが、逆に考えればこの強豪2パーティと終盤戦まで当たらない場所に入れたのだ。
真に恐ろしいのは俺たち自身の幸運かもしれない……!
「あーあ、早めに倒したいパーティほど遠くにいます。まったく僕らも運がない」
ノルドと一瞬目があった。
その視線は俺たちもそのパーティの中に入っているという認識でいいんだよな……?
「初戦の相手である俺たちを差し置いて勝手に盛り上がってんじゃないぜ! 先のことを考える必要はない! ここに宣言する! 俺たちは初戦で
ムラサイの言葉に『おー』と多くのプレイヤーが感心する。
俺も自然に『おー』と声が出た。
「夕方には『
「確かにそれは僕らが優勝するより話題になりそうですね。でも、残念ながら記者の皆さんには話題にもならない当たり前の記事を書いてもらうことになりそうです」
「ふんっ、今にわかる! 本選1回戦第1試合から波乱を起こしてやるぜ!」
30分の休憩を挟んだ後に予選1位『
それを皮切りに1試合ずつ試合が行われ、優勝が決まるまで戦いが続く。
俺たちの出番は少し後ろの方だから、まだまだゆっくりできる。
「初戦の相手の名前でも覚えておくかな」
えっと、俺たちの相手は59位の……『マッドスライム
すっごい聞き覚えのある名前だが、微妙にカッコよくなっている。
それにパーティメンバーにスライムマンの名前がない。
つまり……。
「同じギルドの別部隊か……!」
ギルドごとに1パーティしか出場してはいけないなんてルールはない。
非公式ファンクラブとかでもない限り、彼らもまた『マッドスライム』のプレイヤーたちなのだ!
まったく、スライムのようにくっついて離れない妙な縁があるな……!
「無印とCOREだと、COREの方が強そうに聞こえるなぁ。でも、アニメとか漫画は基本無印が最初だし、アーティストのグループもオリジナルメンバーがいる方が無印なことが多い。とすると、無印の方が本隊なのかな?」
「COREの方が本隊なんですよ。ここはね」
「そうなのか……ん?」
サトミが俺の疑問に答えてくれるのはいつものことだが、今回は声色に少し違和感があった。
本人に確認するまでもない小さな違和感の答えは……すぐに明らかになった。
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