Data.163 弓おじさん、キリングショー
敵は3パーティ12人だ。
この段階まで4人フルで生き残っているとはなかなかの手練れ。
とりあえず、こいつを仕込んでおくか!
「
高く打ち上げた雷の矢が落下と同時にスパークを起こす奥義【インドラの矢】と、単純に雷の矢を放つ【サンダーアロー】を融合させた超電撃の一撃!
正直、雷と雷を融合させることに意味があるのかはわからない!
でも、同じ属性を二重に重ねるって強そうだし、特別感がある。
なのでネーミングも少し特殊だ。
「さて、落ちてくるまで時間を稼ぐか」
【インドラの矢】は打ち上げた矢が地上に落ちて来た時に効果を発揮する。
射程に強化ポイントを振りまくっている俺の場合、矢は遥か上空まで飛んでいくので、着弾には数分を要する。
いくら威力と効果範囲が広くても、回避余裕の攻撃になってしまうのだ。
本来なら……な。
バトロワでは十分に使い道がある。
まず、敵は塔に居座る俺たちを排除するために戦っているので、出来る限り塔の近くに居続けたいという思考が働く。
そして、自分以外のパーティがすべて敵になるバトロワでは、常にいろんなことを考えて戦うことになる。
目の前の敵からの攻撃、いるかもしれない背後の敵からの攻撃、今回の場合は組んでいる他パーティから裏切られないか……とも考えているだろう。
人は一度にたくさんのことを考えると、どうでもいいことから忘れていく。
数分前に天に向かって飛んでいった矢のことなど、忘れてしまうんだ……!
まあ、単純に効果を知らないプレイヤーからすれば不発に見えるというのもある。
「来た……!」
天から稲妻を纏って輝く矢が落ちてくる。
まさに神話のような光景だ……!
矢は敵が集まっている森の中に着弾。
巨大なドーム状のスパークを発生させ、広範囲を雷の餌食にする!
すさまじい光が目を攻撃!
リアルで聞く落雷の音を何倍にもしたような爆音が耳を攻撃!
高く飛べば飛ぶほど上昇するダメージがHPを攻撃する!
「相変わらず……すさまじい」
大地は焼け焦げ、大きくくぼんでいた。
まるで隕石が落ちて出来たクレーターのようだ。
【インドラの矢】は冷静に対応すればノーダメージで回避されてしまうロマン奥義なだけあって、当てた時の威力は俺の持つ奥義の中でも上位に入る。
食らって生き残っているプレイヤーはいない。
だが、敵パーティの中にはとっさの判断で遠くに逃げられるスピードを持っているプレイヤーもいる。
『速さ』というステータスも極めるとなかなか万能だ。
どんな攻撃も結局当たらなければどうということはない。
「まあ、俺としては頑張って当てるしかないんだが」
【
なんか、塔の近くにプレイヤーがめっちゃ集まってないか?
さっきより増えてるぞ……!
「奥義のクールタイムを狙ってきたか……!」
派手な奥義は遠目でも発動を確認することが出来る。
距離をとって俺たちを観察し、奥義を使用した後に攻め込もうと準備していたのか……!
「みんな、ここが正念場だ!」
エリアはさらに狭くなった。
その内、全エリアが俺の射程に入る可能性もある。
それだけは避けたいというのが、全プレイヤーの総意だろう。
敵はどんどん迫ってくる!
言い方は失礼だが、パニック映画のゾンビのようだ。
厄介なのは、ゾンビほど脆くもなければ、ゾンビほど知能が低くなく、用いる攻撃手段が俺たちと変わらないレベルなところだ。
剣、槍、斧、魔法、弓、銃、手裏剣に至るまであらゆる武器を持ったプレイヤーに的確に対処するのは骨が折れる……!
救いはそのプレイヤーたちも敵同士だということだ。
なかなか悪い人はいるもので、強そうなプレイヤーを見つけると攻撃対象を俺たちからそっちに切り替え、背後から奇襲をかけて倒すような光景が散見された。
結局のところ、俺たちを塔から排除しても塔に陣取れるのは1パーティだ。
乱戦が行われているうちに他の有力者を排除するのも賢い作戦だと言える。
俺たちもそういう意思を持っているプレイヤーは極力狙わず、敵の数を減らすのを手伝ってもらう。
『400キル!』
どの敵を狙うのか、どの敵は置いておくのか……。
素早い判断を求められる戦場は、俺の頭を酷使する。
でも、脳がパンクしそうな状況を経験するたびに、俺の衰えた脳が何かを取り戻し、成長しているような気がする。
『500キル!』
ゲームを始めた頃より単純にVRというシステムに慣れた。
しかし、上達の理由はそれだけではない。
俺は新たな物を手に入れ、変化している。
『600キル!』
「風神裂空!」
遠い空で雲が揺らいだ場所を撃った。
鳥のようなものが雲の切れ間から落ちてくる。
このフィールドにモンスターはいないのでプレイヤーだ。
一度高く飛んで上空を移動し、塔の真上から攻撃を仕掛ける作戦だったのだろうが、俺が上空に飛ぼうとする前に撃った。
考えたというより直感だ。
なんとなくそこを狙いたくなった。
この感覚は……スポーツ選手で言うところの『ゾーン』みたいなものか?
すごい集中力を発揮している気がする。
『700キル!』
いける。1000キルも夢じゃない。
でも、不思議と高揚感がないのはなぜだ?
……そうか、たくさんのキルを重ねることで本選には近づくが、このバトロワ自体で大して有利になるわけではないからだ。
バトロワは1パーティだけが勝利者。
俺は本能的にわかっているんだ。
数が減れば減るほど、残る敵は強くなっていくことに。
最強の64パーティがまだこのフィールドに残っていることに。
『800キル!』
「ふぅぅぅ……。流石に一度休もう……」
敵の数もずいぶん減った。
すぐにあの集中力を取り戻すのは難しそうだが、それでも出来る限り周囲に意識を向けなければ。
「みんな、気は緩めずにいこう! ここからが……うおっ!?」
突如、俺の目の前に巨大な翼が飛来した。
鳥でもなければ、翼を持ったプレイヤーでもない。
これは……翼を模したブーメランだ!
俺はこのブーメランをどこかで見たことがある……!
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