Data.134 弓おじさん、英霊VS幽霊
金髪碧眼の王子様……ノルドは宣戦布告こそしたものの銃口をこちらに向けてこない。
それは余裕か、慢心か、はたまたお先にどうぞという意味か、カウンター狙いか……。
「あ、HPとかMPが減ってるなら今のうちに回復してください。不意を突く必要はありませんし、なんなら回復アイテムも足りない分をお譲りします」
「ああ、そりゃどうも」
HPとMPは切れてないし、状態異常もない。
運よくクールタイムに入っている奥義もない。
まさに万全の状態……って普通に自分の状態を確認してしまった。
これはある意味挑発ともとれる行動だ。
何か言い返す……言葉も思いつかないし、まあいいや。
「こっちは万全だ」
「ならば、5秒後に始めましょう」
俺は無言でうなずく。
5、4、3、2、1……。
「
「
頭部を狙った高速の矢は……頬をカスッただけだ!
これでは爆発も起こらない……。
反射神経……いや、俺が初手に【裂空】を持ってくることを予測して頭を動かしたのか!?
しかもノルドは同時に攻撃も行なっている。
今回は外れたが、2つの弾丸が両肩の近くを飛んでいった。
狙いは肩、つまり腕を落とそうとしていた……!
どちらかでも腕が落ちれば弓は使えなくなってしまうからだ!
油断ならない……これまで戦ったどのプレイヤーよりも。
ゲーマー界隈に疎い俺でも
彼らの存在を初めて認識したのはネココがアップロードしたチャリン戦の動画のコメント欄だ。
案外最近じゃないか……というツッコミは置いといて、俺はこのコメ欄で
そのほとんどが俺たち
しかし、そんな中でも俺は有益な情報を得ることが出来た。
ザッとスクロールしてもわかるほど
そして、その意見の根拠は決まって『チャリン戦を先にクリアしたのは
そう、
もう1人はネココの叔母マココ・ストレンジだから、世界って意外と狭いな。
クリア者たちと勝手に関係が作られていくのだから……。
まあ、目の前の彼と厄介な関係になるのはゴメンだけど!
「やはり、エイム力は非凡なものを感じます。この距離で撃ち合えば不利なのはこちら……」
わざとらしい物言いだ。
俺に距離を取らせようとしているな。
もちろん俺の得意戦法は長射程を活かした遠くからの攻撃だ。
距離を取れるなら取りたいが、ノルドがそんなことを予測していないとは思えない。
なにかしら長射程に対するアンサーがあると見た……。
簡単に【ワープアロー】や【アイムアロー】を切りたくはない。
「退魔防壁!」
「おや、そういう反応ですか。ではこちらも盾を出しましょう。パラソルバレット!」
ポンッと片方の銃からビニール傘のようなシールドが飛び出す。
透明なエネルギーで作られたそれは、こちらの様子をうかがいつつ攻撃を防ぐ防壁になる。
「これを展開している間は片方の銃が使えなくなるのが難点ですが、それに見合った性能はあります」
銃とシールドは一体化しているので、動かして好きな方向に向けることが出来るし、移動しながらでも使える。
確かに扱いやすそうだが、弱点もまたハッキリしている。
「ガトリング・バーニングアロー!」
相手のシールドはビニール傘と同程度の範囲しか守れない。
少し傘の外側を狙って撃ちだした矢を『星域射程』の効果でじわりと曲げて本体だけを狙う!
曲がり切らなくても爆風で少しはダメージが入るはずだ!
「ほう、この攻撃パターンは知りませんでした」
「それだけ君を警戒してるってことさ」
「光栄なことで」
ノルドはシールドを展開していない方の銃で……自分の真後ろを狙った!
「ブラストショット!」
吹き出したものは突風!
ノルドは風の力を使って前進することで曲がる矢の内側に潜り込み、回避して見せたのだ。
そして、その勢いのままノルドの【パラソルバレット】と俺の【退魔防壁】がぶつかり激しい閃光を放つ。
「対人戦だと目くらましって案外効くんですよ? 閃光弾!」
「くっ……!?」
【退魔防壁】の周囲でまばゆい閃光がいくつも発生する。
バリアも光は防げない……!
「……っ!? 下から弾丸が!?」
地面から何発もの弾丸が飛んでくる!
このバリアは地上だけで地下はカバーしてない。
それをノルドは知っていたか、それとも試してみたのか……。
とりあえず、地面を掘って進むドリル系のスキルと弾丸を曲げるスキルを融合させていると考えられる……!
「
弾丸が地面を掘って進んでいても、本人は地上にいる。
地上全体に矢を降らせるようにぐるりと回転しながら矢を放つ。
爆風で閃光の発生源が吹き飛び、視界がハッキリした地上に……ノルドの姿はなかった。
「……上か!?」
「ご名答!」
すでに真上をとられていた!
俺を守る【退魔防壁】の効果も切れている。
いや、そうでなくてもあのスキルは奥義を防げない……!
「
「おっと! ブラストショット!」
突如飛来したトゲ付き鉄球を避けるため、ノルドが風を吹かせて地上に緊急着地する。
「さっきから私のことを無視しすぎじゃないですか?」
アンヌは鉄球をぐるぐると回して威嚇する。
それに対してノルドは特に態度を変えずに答える。
「僕の目的はキュージィ氏の実力を試すことであって、関係ないプレイヤーを巻き込むつもりはありません。どうぞ離れていてください」
「そうはいきません! 私とキュージィ様は仲間です! 仲間が襲われているのを見逃すことは出来ません!」
「その割にはしばらくは戦いを静観していたようですが」
「キュージィ様1人でも倒せると思っていたんです!」
「なるほど、案外僕が強そうに見えたと」
「……はい!」
アンヌの期待を裏切ったみたいで心が痛むな……。
でも、それも仕方ないと思えるほどノルドは明確に格上だ。
一対一で勝てる自信は……ない!
「まあ、僕から危害を加えるつもりはありませんでしたが、向かってくるなら反撃します。ただ、数の差を卑怯とは言いません。いきなり戦いをふっかけておいてフェアな勝負を望むなんて傲慢にもほどがありますからね。仲間の力でもユニゾンの力でも、いくらでも借りてください」
「いいのかい? 俺はグロウカードを完成させたいし、無駄なプライドもないから本当に仲間の力を借りるけど」
「構いません。でも、僕と相性の悪い重量級の中距離攻撃プレイヤーと第2進化止まりのユニゾンが戦力になるかは別の話ですけどね。それに……逃げてもいいですよ。僕の目的はキュージィ氏の力を試すことなので、試すことが出来ずに逃げられたらそれは僕の敗北を意味しますから」
ふっ、どこまでも底が知れないプレイヤーだ……。
今の俺の実力で戦いに固執しても良い結果が生まれそうにない。
何より、グロウカードのことがある。
破壊されてもう1回ゾンビサバイバルなんてごめんだし、本当に逃げてしまおうか。
それも、あっと驚く方法で……!
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