Data.132 弓おじさん、ぶっぱなす
巨大な目玉を持つ敵が現れた時、プレイヤーはその目玉を狙わなければならない。
そして、目玉を狙う武器は弓矢が望ましい……。
本能の赴くまま、俺は窓ガラスの向こうに映る目玉に矢を放った。
「ガトリング・バーニングアロー!」
窓ガラスを破り、爆裂する矢が目玉に殺到する。
ダメージを受けた目玉はパチンと閉じられた。
そして……攻撃が始まった。
病院中の窓ガラスが割れ、うねる腐肉の触手が院内に入り込んでくる……!
「
グレイが武器であるピッケルを床に叩きつけ岩の壁を生み出し、割れた窓を塞ごうとする。
しかし、触手の勢いは岩をも砕き留まることを知らない。
「キュージィさん、どうしましょうか!?」
「触手を侵入させないという選択肢はナシのようだし、触手を撃破するのも無理そうだ! とにかく目玉を潰していくしかない!」
通常のゾンビの数は減った……というか、腐肉の触手はゾンビごと吹っ飛ばす。
もはやモンスターというよりステージギミックだ……!
目玉を探して全員が駆け回る。
おそらく目玉は中央病棟1階から10階までに点在している。
減ったとはいえまだ残っているゾンビを相手にしつつ、上へ下へと駆け回るのは楽ではない。
この病院の床や壁は砕けないし、【アイムアロー】を使って一気に移動ともいかない。
とにかく足を使うしかない……!
触手はどんどん増えて、移動できる範囲を狭めていく。
だが、目玉は俺たちの移動できる範囲にしか出てこない。
つまり、これはキツくなると同時に楽にもなっている。
「よっと……!」
ムチのように飛び出してきた触手をジャンプでかわす。
まあ、触手が増えると攻撃も苛烈になるから、やっぱり楽になっているかは怪しい。
でも一番辛いのは仲間との連絡を絶たれたことだ。
7階まで戦線が後退するとアイテムも大体回収し終えて、インカムも全員が付けていた。
離れていても会話が出来ることが当然になっていた分、孤独がより鮮明になる。
「ガー! ガー!」
唯一、ガー坊だけは俺の近くにいる。
この腐肉のバケモノの倒し方は特殊で、ガー坊のAIでは対応できない可能性が高かったから連れて来た。
ジュル……グジュル……ジュ……
なんとも形容しがたい音が聞こえた。
触手が攻撃してくる合図だ……!
「うおっと……!」
床から天井まで届く太い触手が背中をかすったが、何とか避けきれた!
このまま下の階に向かって残りの目玉を……!
「あっ! しまった! ガー坊!」
背中を触手がかすめたということは、後ろにいたガー坊に当たっていた可能性がある!
そうでなくても、俺たちは太い触手で分断されてしまった……。
この触手が引っ込むのか引っ込まないのかはわからない。
ただ、攻撃でどうにかすることが出来ないのは確かだ。
「……頑張れ! ガー坊!」
正面に向き直り、前に進む。
大丈夫だ、きっとガー坊は単独でも戦える。
連れてきた後にわかったけど、ガー坊は攻撃しても意味のない触手や目玉以外のバケモノの体には反応しない。
それはつまり、攻撃するべき場所がどこかわかっているということだ。
きっと、なんとかなる……!
階段を一気に駆け下りる。
誰がどの階を担当するのかはザックリ分けたが、もしもの時のために自分の担当の階の目玉をすべて潰したプレイヤーは他の階にも向かう手筈になっている。
俺の担当階は6と7、すべての窓を確認して潰した。
あとは全員が同じことをしていれば……。
だが、触手の攻勢は終わらない。
どんどん移動できる範囲が狭くなっている。
でも、道はまだ完全に塞がれていない。
とにかく窓を確認しては目玉を探し、なければ下るを繰り返し、俺はついに1階まで戻ってきてしまった……!
「誰とも出会わなかったけど……まさか……」
いや、そんなことを考えている場合ではない。
とにかく目玉を潰してバケモノを倒し、生き残らないと……!
「目玉……目玉……ない!」
移動できる範囲にもう目玉はない!
流石に目玉の場所を触手で塞いで詰みにしてくるとは思えない。
何かあるはずだ……。まだ移動できる範囲が……。
ヴゥ……ヴォォォ…………!
くっ、こんな時でもまだ入口からポピュラーなゾンビが入ってくる……。
すぐにバケモノの触手にやられるのに、最後まで発生し続けるとは……。
「……あっ、入口が開いてる」
そうだ、最初から入り口は開いていたし、今もバケモノに覆われることなく外へと繋がっている。
外はまだ日が昇っていて、入口からは光がさしている。
当たり前のことに今まで気がつかなかった……!
「入口は出口だ!」
サバイバル開始時は強いゾンビがどんどん湧いてきて危険な場所になっていた。
ここから出ようとは思わないし、出たら何もないところでゾンビに囲まれて死ぬだけだった。
それに俺たちはサバイバル開始前に入口から一番遠い10階のナースステーションに送られた。
10階付近にアイテムがあることを見せつけられ、後ろに下がりながら戦うという戦法をすり込まれた。
もちろん、それは正しい戦法だった。
正しいゆえに、最後の最後で一番危険だった場所から逃げ出すという選択肢を潰されていたんだ。
腐肉のバケモノが出てくる少し前からゾンビの勢いが弱まっていることはわかっていた。
その段階で入口から外に出てしまえばいいと思いつけるほど、俺たちの頭は柔軟じゃなかった……!
2時間も戦い続ける中で、勝利条件は『2時間生き残ること』から『病院の中で2時間生き残ること』にすり替わっていた。
このキュージィ、戦いの中で戦いを忘れた!
「でも、後悔する必要はない……!」
サバイバルは誰か1人でもプレイヤーが生き残っていれば、サバイバルに参加した全員にスタンプを押す権利が与えられる。
俺が入口から脱出し、今から生き残ればいいだけだ!
雑魚ゾンビを撃ち抜き、入口から脱出する。
しばらく走って、病院全体が把握できる位置まで移動する。
そして……振り返った。
「なるほど……そこにあったか最後の目玉!」
最後の目玉は外側にあった……!
ひと際大きく、邪悪な目が病院の外壁にへばりついている!
今すぐバリスタで撃ち抜いて……。
「いや、最後はこいつだ! ロケットランチャー!」
キョウカに託された対ゾンビ戦の最後にして最強の切り札。
たとえ俺が
カナリアが使っていたサブマシンガンと同じで、どの職業でも使っている武器と融合することで使用可能になる。
『黒風暗雲弓』と融合させることで黒く染まったロケランは、危険度が何倍にも上がって見えた。
ゲームや映画を参考に勢いのままに構える……!
「あばよ、腐れ肉野郎ッ!」
トリガーを引く。
すさまじい反動と共に飛び出した弾頭は、まるで吸い寄せられるように目玉のど真ん中に叩き込まれた。
爆発、爆炎、爆音、爆煙……そして、バケモノの形容しがたい断末魔……。
モンスターを撃破した際に発生する光の粒子に包まれた病院を前に、2時間経過の鐘の音が鳴った。
サバイバルは……俺たちの勝利に終わった!
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