Data.92 弓おじさん、百獣の王

 と、とりあえず体を動かせるようにならないと打つ手がない。

 この硬直が俺の持つスキル【威圧の眼力】と同じ仕様なら数秒もすれば解除されるはず……。


「うおっ……!」


 何の前触れもなく体が動いた。

 同時に引き絞っていた状態の矢が放たれ、岩の上のボスライオンに迫る。


 パオォォォーーーーーーンッ!


 どこからともなく現れていたゾウ型モンスターが鼻から水を吹き出して矢を撃ち落とした。

 スキルなしの通常矢でも今は光のオーラで強化されているというのに、とんでもない水圧だな。


 それにサバンナの仲間たちが増えすぎだ。

 岩の上のボスライオンが呼べるのはメスライオンだけでなく、ゾウやキリンから捕食対象であろうシマウマまで呼んでいる。

 これがみんな愛くるしい動物の姿なら倒すのをためらったかもしれないが、みんなモンスターなので普通に恐ろしい姿にアレンジされている。

 たまに例外はあるけど、基本的に敵は倒したくなるような凶悪なデザインにするのがNSO流だ。


 さて、仲間を呼ぶボスへの対処法は2つに分かれる。

 仲間を気にせずボスを倒すか、仲間を先に処理してからボスを倒すか……だ。

 前者はボスが弱くて速攻で倒せる場合や仲間が弱くて無視しても問題ない場合に選択する。

 後者は仲間が強い場合や状態異常をばら撒いてくる場合、そしてなによりボスを回復する場合はこちらを選択する。


 今回はまだボスライオンに攻撃を仕掛けてないから回復要員がいるのかわからないが、攻撃要員の方はすでにかなり多い。

 メスライオンはもちろんのこと、サイやらカバやらもじゃんじゃん突進してくる。

 幸い動きが単調なうえ、突進に関してはガー坊に分があるので脅威にはなっていない。

 サバンナの動物モチーフなだけあって物理攻撃が多く、【メタルボディ】の効果でダメージをカット出来るのも良い。


 やはりここは前衛をガー坊に任せて俺はボスライオンを倒すべきだろう。

 ボスライオンを見据え、狙いを定め……って目を見たら動けなくなるんだって!

 でも、ずっとこっちを見てるボスライオンと目を合わせずに狙いを定めるのは難しい。


 俺は矢を当てることに関しては才能がありそうだが、流石に目標をしっかり見ずに当てられるほどではない。

 ならば【アイムアロー】はどうか?

 グルグル回るのでライオンと目と目が合うことはないが、その回り出す前にしっかり敵を見据えていなければ当たらない。

 あれはあれで『矢』だからなぁ……。


 こうなったらヤケクソだ。

 こっちも【威圧の眼力】で動きを止めてやる!

 キリッとした目でボスライオンをにらみつける!


 ……うーん、ダメだな。

 ボスライオンはあくびをしているので止まっていない。

 逆に俺の方の動きがまた止まってしまった。

 ライオンの方が俺より格上なのか、スキルが上位の物なのか……。

 まあ、おじさんににらまれるのとライオンににらまれるのとどっちが怖いのかって話だよな。


 見ず知らずのおじさんににらまれるのも怖いっちゃ怖いが、ライオンににらまれるよりはマシだろう。

 人間相手ならまだ話が通じるかもしれないし……なんて言ってる場合ではない。

 結局のところダンジョンボスはあのライオンなのだから、あいつを倒さないと永遠に終わらないぞ……。


 目を合わせないようにして矢を当てるには……軌道を曲げるしかないか。

 ボスライオンを視界に入れず、近くの空間を見つめて矢を放つ。


 キリリリリ……シュッ!


 ヒット音がしない。外したか……。

 そうだ、目を見なければいいだけだから、ライオンのお尻のあたりを見ておけばいいんだ。

 これなら簡単に当てられ……。


「……っ!?」


 ライオンが体の向きを変え、目と目が合ってしまった。

 なるほど、攻撃はせずとも視線を感じて目を合わせようとはしてくるわけか……。

 俺の体が硬直するたびにライオンは吠え、サバンナの仲間たちが増える。


 先に仲間を処理するべきだろうか……?

 いや、まだガー坊は頑張れる。とにかく俺はボス狙いだ。

 今度はライオンの体も視界に入れないように矢を放つ。


 キリリリリ……シュッ! チッ……!


 何かをかすめた音がした。

 よし、少しずつ感覚が合ってきている。

 このまま連射して当たるようになったらスキルと奥義をぶち込む……!


 キリリリリ……シュッ! ザクッ!


 来た……っ!

 もう軌道を曲げても敵に当てられそうだ。

 感覚を掴みつつある!


「バーニングアロー!」


 とはいえ、【矢の嵐】の融合奥義を使ってしまうといきなり接近された時に抵抗できないので、通常スキルの連打でHPを削っていく。

 せっかくだし【レターアロー】も使っておくか。

 何か弱点を知れるかもしれないしな。


「レターアロー!」


 ◆オーサマライオン

 属性:野獣

 スキル:【獣王の眼力】【絆の咆哮】

 解説:

 サバンナに住む獣の王。

 強靭で頑丈な体を持つが自ら戦うことは少ない。

 多くの仲間が傷ついた時に真の力を発揮する。


 【獣王の眼力】って【威圧の眼力】の完全上位互換て感じだな。

 【絆の咆哮】は仲間を呼ぶスキルだろう。

 他の新情報は……『多くの仲間が傷ついた時に真の力を発揮する』だな。

 つまり、あのライオンは一定数の仲間が撃破されるまで動き出さないのだ。

 今のうちにどんどんダメージを与えてしまおう。


 ガオオォォォォォォーーーーーーッ!!


 ボスライオンが吠え、岩山から地上へと跳んだ。

 ガー坊がすでに多くの仲間を倒していたか……!

 相変わらず頼りになる!


 俺も相棒の頑張りに応えなければならない。

 王も地に堕ちればただの獣。

 狙うのは着地だ……!

 ボスライオンの降り立つ地面に狙いを定めて目をつむる。


爆裂する矢の嵐バーニングアローストーム!」


 百獣の王とて翼はない。

 空中では動くことが出来ない。

 ボスライオンが地上に落ち、矢の嵐に晒される瞬間を俺は音で確認した。

 やがて矢の連射が終わり、目を開ける。

 ボスライオンを含め、サバンナの仲間たちはいなくなっていた。


 仲間を呼ぶボスへの対処法は2つに分かれると言ったが、もう1つあったな。

 全体攻撃で全部の敵に攻撃を加える……だ。

 仲間を処理しつつボスにもダメージが蓄積されるので一番楽だ。


『ボス撃破おめでとうだにょん! って、サバンナが燃えてる!?』


 現れたチャリンがギョッとした顔をする。

 俺の【爆裂する矢の嵐バーニングアローストーム】のせいでサバンナは燃えている。

 これでは完全に悪役だな……。


『まあ、火くらい簡単に消せるにょん』


 チャリンが指をパチンと鳴らすと火は消えて草木が復活する。

 燃え盛る大地の中でメダルを受け取るのは気が気じゃないし助かった。


『落ち着いたところでメダルを渡すにょん!』


 しし座レオメダルはこれまで獲得したメダルの中でも飛びぬけてカッコイイデザインをしている。

 表は星座、裏はリアルに描かれたライオン。

 やはり百獣の王と言われるだけあって絵になるなぁ……。

 ライオンは野生動物の中でもどこか優雅さを感じさせる存在だと思う。


『そしてご褒美は『獅子王のまなこ』だにょん!』


 手渡されたのは……2つの目玉だった。2つで1つのアイテムのようだ。

 『獅子王の眼』ということは、そういうことなのだろう。

 倒したモンスターの体の一部を入手するなんてゲームでは当然のことだが、VRゲームだとなかなか怖くなる時がある。

 気にするな。これはゲームだ。別に現実の動物にかわいそうなことをしたわけではない。

 この目玉も俺を強くしてくれるアイテムのはずなんだ……。


『ではでは、ダンジョンの外へワープ! お疲れさまでした~、だにょん!』


 洞窟の外に出た俺は、とりあえず背伸びをした。

 太陽の光はボス戦で散々浴びたが、ライオンににらまれてリラックスは出来なかったからなぁ。


 さあ、残る試練は1つ! おとめ座の処女迷宮だ!

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