明鏡の章

Data.44 弓おじさん、豪遊

 久々に初期街に来たが……この街の名前『ファルスト』って言うんだな。

 それになんか人が増えている気がする。

 新規ユーザーが増えてるなら、俺としてもありがたい。

 ゲームもリアルと一緒で、新たな命が生まれてこないと廃れていく。

 問題は生まれた命を育てられるかってことだが……。


 いや、余計なことを気にせず目的を果たそう。

 メダル専用ショップも人が多かったが、実は店内に入ればどの場所でもカタログをチェックできる。

 端っこの方に隠れて、出来る限り騒ぎにならないように交換するべき物を選んでいく。


 俺が今持っているNSOメダルの総数は668枚。


 うちバトロワで手に入れた物の残りが108枚。

 陣取りのMVPで貰ったのが500枚。

 風雲装備の試運転のために挑んだバトルコロシアムで優勝して10枚。

 コロシアムの奴はすっかり忘れていた。

 風雲装備の強さを実感しただけで満足してしまったからな。


 さらにスキル弱体化の補填として50枚のメダルが届いていた。

 俺は『奥義送り』と勝手に納得して普通にゲームを楽しんでいたが、まあ気にする人は気にするだろうし、それに運営が対応するのも普通のことだと思う。

 こちらとしては、このタイミングでメダルが増えたことを喜ぶだけだ。


 さて、668枚と聞けば大量に思える。

 その感覚に間違いはない。

 この枚数をため込んでいるプレイヤーはそういないだろう。


 しかし、メダルでスキルを交換する場合、1つ最低50枚は必要だ。

 強いスキルを交換するにはもっと必要になる。

 さらに今回は装備も交換したい。


 レイヴンガーの装備枠は1つも埋まっていない状態だ。

 ユニゾンの装備枠は5枠。

 とりあえず半分以上は埋めたいものだ。


 じっくり2時間。

 カタログを見たり、町を散歩しながら俺は考えた。

 結果、NSOメダルを500枚消費し、4つの装備と3つのスキルを手に入れた。

 まずは装備から見ていこう。


 ◆装備

 Ⅰ:コバンザメシューター

 Ⅱ:Eジェネレーター

 Ⅲ:増設エネルギータンク

 Ⅳ:ミサイルポッド

 Ⅴ:――


 ◆コバンザメシューター (NSOメダル50枚)

 種類:魚族ユニゾン専用<クロスボウ>

 攻撃:40


 魚であるレイヴンガーは手に武器を持つことが出来ない。

 そのためシューティングゲームで自機にくっつくオプションのようにコバンザメ型のクロスボウが追従する。

 このコバンザメにAIは搭載されておらず、レイヴンガーがすべてを制御する。

 クロスボウは弓と同じ扱いで、弓スキルを扱うことも可能だ。

 魚族のユニゾン専用装備であるためプレイヤーは装備できない。


 選んだ決め手は……面白かったからだ。

 威力はさほどなく、弓とクロスボウで武器がほぼ被っている。

 魔法攻撃できる武器の方が役割が被らなくていいのではないかとも思った。


 ただ、試着した時にコバンザメが後ろをついて行くのが面白いと思ったし、感心したのだ。

 こうやって魚に武器を持たせるんだな……と。

 選んで後悔はしていない……!


 ◆Eジェネレーター (NSOメダル100枚)

 種類:機械族ユニゾン専用

 MP:50

 武器スキル:【エネルギー回復】


 【エネルギー回復】はあらゆるゲームに存在する『MPリジェネ』の効果だ。

 時間経過とともに消費したMPが少しずつ回復していく。

 自分とガーのMPを同時に管理するのは大変なので、ある程度ガーには単独で動けるようになってもらいたい。


 ◆増設エネルギータンク (NSOメダル50枚)

 種類:機械族ユニゾン専用

 MP:100


 【エネルギー回復】のMP回復量は最大MPに依存する。

 最大MPが多いほど時間ごとに回復する量も多くなる。

 ということで最大MPを増やせる物を装備しておいた。


 ◆ミサイルポッド (NSOメダル100枚)

 種類:機械族ユニゾン専用

 攻撃:65

 武器奥義:【8連装ミサイル】


 ◆8連装ミサイル

 8発のミサイルを連続で発射する。

 クールタイム:3分


 装備することで遠距離攻撃の奥義【8連装ミサイル】が使用可能になる。

 敵に接近してほしくないときは、この奥義をメインに立ち回ってもらう。

 ミサイルは乱射と言うよりも狙った敵に8発すべてが飛んでいく。

 範囲攻撃は苦手だが、単体への火力はなかなか高い。


 次はスキルだな。

 攻撃を考えた装備が多い分、スキルはサポート効果がメインになった。


 ◆まきびし (NSOメダル50枚)

 細かな尖った金属を周辺にばらまく。


 忍者が使ったとされる追っ手を足止めをする道具まきびし。

 それを周りにばらまいてくれるスキルだ。

 主に俺に接近戦を仕掛けようとする敵へのけん制に使ってもらう。


 ◆エナジーシールド (NSOメダル50枚)

 スキルを使った者を追尾するエネルギーの盾を発生させる。


 発動後シールドはガーを追尾してくれるので、激しく動いても盾だけ置いていかれることはない。

 便利な一方で強度はそこそこ。サイズは小さい。

 受け止めるというより、受け流して逃げるための盾だ。


 ちなみにあのバックラーのスキルは【エナジーバリアⅢ】。

 『バリア』の方は立ち止まって使わなければならない分、強度があり範囲も広かった。

 メダルで交換できるスキルの中に【エナジーバリア】というⅢに進化する前の物もあったが、速さがウリのガーに止まって使う盾は合わないと思い、『シールド』を選択した。


 ◆マジックジャミング (NSOメダル100枚)

 自身への魔法ダメージを30%減少させる。

 持続時間は30秒。


 交換に使ったメダルは100枚。

 弱点である魔法への耐久をカバーするためのスキル。

 奥義ではないので連続使用も可能だが、消費MPが結構多い。

 装備でMPを増やしまくってるのは、このスキルを贅沢に使っていきたいからというのもある。


 勝手に広い範囲を動き回るガーのことだから、知らぬ間に魔法を食らうこともあるだろう。

 その時にこのスキルを発動していれば、致命傷は避けることが出来る。

 雷属性の魔法なんていう弱点中の弱点を食らったらどうなるかわからないが……。

 まあ、わからないからこそ保険は大事だ。


 他にも装備は得意ステータスである防御を上げる『追加装甲』や速さを上げる『大型ブースター』が候補に挙がった。

 スキルは遠距離攻撃のバリエーションを増やそうかとも思ったが、悩んだ末にこの構成に落ち着いた。


 ガーにはある程度万能型を目指してもらう。

 ゲームにおいて万能型とは器用貧乏のこと。あまり良いことではない。

 しかし、特化させるということは明確に弱点が生まれるということ。

 ガーはある程度自由に動けて、どんな場面でも戦えるユニゾンに育てたい。


 あとは俺自身が特化型だから、苦手な敵や場面がたくさんある。

 そういった時でもガーが敵をかく乱してくれることで、打開のチャンスが生まれることを期待している。


 そして、最終的なステータスは……。

 

 ◆ユニゾンステータス

 名前:ガー坊(レイヴンガー)

 種族:魚/機械

 Lv:35/100

 HP:120/120

 MP:230/230(+150)

 攻撃:280(+105)

 防御:100

 魔攻:60

 魔防:70

 速度:145


 ◆スキル

 【毒耐性Ⅴ】【マシンボディ】

 【ストレイトダーツ】【赤い閃光】

 【まきびし】【エナジーシールド】

 【マジックジャミング】


 ◆奥義

 【赤い流星】【オーシャンスフィア】


 豊富なMPから放たれるスキルと高い速さで敵をかく乱し、最後には尖った攻撃力で仕留める。

 俺ならいろいろ選択肢が多すぎて使いこなす自信がないキャラに仕上がったが、そこはAIだし的確に判断してくれることだろう。


 あ、大きな変更点がもう一つ。

 今まで『レイヴンガー』と呼んでいたが、これからは『ガー坊』と呼ぶようにした。

 理由はいつまでも『レイヴンガー』では相棒感がないからだ。


 まあ、国民的モンスターアニメだと普通に相棒をモンスターの名前のままで呼んでいるが、あれはメディアミックスを考慮したことだろう。

 アニメではこの呼び方なのにゲームだと違う……となると、子どもたちが混乱しかねないからな。


 ガー坊という名は適当に聞こえるかもしれないが、俺的には結構悩んで付けたし、ちゃんと意味も込められている。

 まず『ガー』という個性的な語感を消すことはあり得ないと思ったので『ガー』は残すと決めた。

 そして俺の得意武器は『弓』、英語で『ボウ』だ。

 それをくっつけて『ガーボウ』では味気がないので、親しみを込めた漢字を入れ『ガー坊』にした。


「案外悪くないよな? ガー坊もさ」


「ガー! ガー!」


 さて、500枚のメダルを使った豪遊……もとい強化が終わり、次の目的を決める時だ。

 南の地図を埋めたのだから、北と西と東の地図も埋めるのが道理だと思うけど、まずは南地域をぐるりと回ってみたいと思う。


 南の地図は埋めたものの、実際に足を運んだところと言えば港町トナミとそこに向かうために立ち寄った小さな村、あとは海の中だ。

 描きこまれた地図を見ると、気になるオブジェクトや地形、建物がたくさんある。

 せっかく描いてもらった地図だし、まずはそれを頼りに冒険するのが良いだろう。


「まずは……鏡石かがみいしの洞窟とやらに行ってみるか」


 地図上にはキラキラした鋭い石が生えている洞窟が描かれている。

 本当にこんな場所存在するのだろうか?

 好奇心の赴くまま、俺は初期街を後にした。


 あ、初期街は『ファルスト』って言うんだっけ?

 まあ……初期街でいいか。わかりやすいし。

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