Data.43 弓おじさん、蒼海を描く
蒼海竜の登場をポセイドンクラーケンも即座に理解した。
口から吐き出される『スミレーザー』のターゲットをプレイヤーから竜へと切り替え、攻撃を開始する。
それに対して竜も口から『潮流のブレス』を放つ。
ぶつかり合う2つの高圧水流が、火花ではなく飛沫を散らす。
さっきまでもとんでもない戦いだったが、さらにすごいことになったなぁ……。
完全に怪獣映画じゃないか。
大迫力で見ているだけでもゾクゾクする。
だが、竜が与えてくれた隙に体を震わせているだけでは申し訳ない。
触手は相変わらずプレイヤー狙いだが、スミの方は完全に竜にターゲットが切り替わった。
お陰でこっちは動きやすいのなんの!
生き残っているプレイヤーたちも竜がいるうちにすべての触手を撃破しようと行動を開始する。
残りは4本。俺も他のプレイヤーたちをサポートするように同じ触手を狙い、とにかく素早く数を減らすことを心がける。
残り3本、2本、1本……ゼロ!
すべての触手が撃破されたところで『スミレーザー』と『潮流のブレス』のぶつかり合いが終わった。
巨大怪獣たちはお互いクールタイムかのように一時的に大人しくなる。
蒼海竜は十分頑張ってくれた。
あとはプレイヤーで決着をつけよう……!
「ガー! ガー!」
攻撃対象に指定していた触手がすべてなくなったので、俺の近くに戻ってきていたガーが鳴く。
そうだったな。お前も頑張ってくれた。
正直、AIに自由にやらせるのは怖かったが、海の神ポセイドンの名を冠する怪物すらレイヴンガーを仕留めることは出来なかったようだ。
まあ、クラーケンとはサイズ感が違いすぎて攻撃が当たらなかったんだろうな。
大きければいいってもんではないのかもしれない。
モンスターの場合は。
「レイヴンガー! 赤い流星だ!」
「ガー! ガー!」
奥義をヒットさせるべくガーがクラーケンに接近する。
他のプレイヤーたちもここで仕留めると言わんばかりにクラーケン本体に迫る。
俺も最強の奥義を……って、俺の最強は【弓時雨】で良いのか?
【裂空】は細く鋭い一本の矢なので、大型モンスターにはあまり効かないはず。
的がでかいと矢が全部当たるから【弓時雨】で間違ってない……な。
こんな時にふと思ったが、俺ってこう……バンッと単純に高威力な奥義がないな。
そこのところがこれからの課題だ。
「これで落ちてくれよ! 弓時雨!」
クラーケンが弱ったことで勢いの落ちた雨の中、無数の矢が飛ぶ。
風もおとなしく、当てるべき敵は大きすぎる。
誰でも外しようがない!
同時にレイヴンガーも海中からクラーケンに攻撃を仕掛けていることだろう。
さらに他のプレイヤーたちも奥義を繰り出す。
「
「
「
「ビィィィグ……! バンバンッ!!」
ここまで死ぬこともなく、逃げることもなく前線で戦い続けた強者の奥義はド派手だ。
それがクラーケンの弱点である本体に命中したのだ。
いくら大型スクランブルで現れたモンスターとて……耐えられまい!
オオオォォォ……オオォォ……オォ……
ポセイドンクラーケンは天に向かって大量のスミを吹き出し、最終的にかなり小さくしぼんでから光となって霧散した。
雨は止み、雲の切れ間から光が射す。
風は穏やかに、波は静かになる。
海が戦いの終わりを告げていた。
そして、最後まで戦い抜いたプレイヤーたちのもとに報酬が届く。
報酬の良し悪しはシステムによって導き出された貢献度で決まる。
逃げもしないが特に戦ってもいないプレイヤーには何もなかったりする。
俺の場合は新たなるスキルを頂戴した。
◆トライデントアロー
先端が三つ叉になった特殊な矢。
聖なる海の力を宿し『水属性』『魚属性』モンスターに特効。
終わった後に倒したモンスターに特効があるものを入手する……。
あるあるネタだ。
この報酬がどれほどレアなのかはわからないが、まあ今回の俺は貢献度一番ではないだろう。
海の上で戦い続けた人の方がすごいことやってるし、彼らに良い報酬が届いていれば俺は満足だ。
頑張った人に良いものを。
リアルでもゲームでもそうあってほしいものだ。
そうすれば良いサイクルが長く続く。
「ガー! ガー!」
もしかして……お前も報酬を貰ってるのか?
ステータスを確認すると、その想像が事実であることがわかった。
レイヴンガーもスキルを獲得している……!
◆赤い閃光
口から赤いレーザーを発射する。
射程が長く、貫通力に優れる。
これは求めていた遠距離攻撃スキルじゃないか!
いやぁ、良いものもらったなぁ。
満足から大満足に変わったぞ。
海底神殿で終わりだと思っていた海の冒険に、とんだラスボスが滑り込んできた。
でも、結果的に良かった。
報酬もそうだけど、多くのプレイヤーが自分のスタイルを貫き、それが最終的にみんなのためになっているというのが面白かった。
特に氷の魔法を使う人とか印象に残ったな。
キャラをわかりやすくするため、薄水色の装備を身につけているのもイカしてる。
だけど、ツンツンした空気をまとっているので、人を寄せ付けない感じがある。
まさに氷のようだが、それもロールプレイなのか、素なのか……。
オンラインゲームにはまだまだ面白い人がたくさんいるな。
何はともあれ、ゲームをやって面白いと思ったなら、それは何よりも尊いことだ。
この満足感を胸に、さあ帰ろう……としてはいけない。
ある意味一番大事なことを忘れている。
南の地図を描いてもらわなければ。
◆ ◆ ◆
「うむ、竜宮石と海神石……確かに受け取った。これを砕き、特殊な溶液と混ぜ、今こそ描こう! 蒼海の地図を!」
大陸中央の初期街周辺、それに風雲山周辺しか描かれていなかった俺のマップに南の地図が描き込まれた。
陸地だけではなく、青い海も同時に描かれた。
まさに蒼海の地図!
軽い気持ちで始めた地図埋めだが、こんなに達成感があるとはなぁ。
是非ともすべての地図を埋めてみたい衝動に駆られる。
「さて、次はどこに行こうか。いや、その前に『こいつ』の使い道を考えるか」
NSOメダル……。
大型イベントで手に入る割とレアなもの。
俺は貧乏性なもんで、最初に少し使って以降貯め込んでしまっている。
そんなNSOメダルで交換できる物が、アップデートで新たに追加されていたらしい。
それは……ユニゾン専用の装備やスキルだ。
ユニゾンの装備とスキルは、プレイヤーと同じようにモンスターのドロップや戦闘中の行動によって獲得できることもあるが、どうやらプレイヤーよりはいろいろ難易度が高いらしい。
だが、NSOメダルを使えば確実に目当ての物を入手できるので、今メダルの需要は高まっているのだ。
レアアイテムは貯め込んでおきたい俺もこれは見逃せない。
ただでさえ強いレイヴンガーにちゃんとした装備を与えれば鬼に金棒だ。
まずはNSOメダルで交換できる物を調べて入手する。
それから次の冒険の方針を決めよう。
なぁに、イベントはまだないはずさ。
焦らずじっくり自分とガーを強化すればいい。
久しぶりに初期街の空気と活気を味わいたいし、メダルの交換は初期街ですることにした。
ファストトラベルでワープする前に、もう一度海を眺める。
センチメンタルな気分になることはない。
いつでも港町には来ることが出来る。
蒼海の地図を描いた今なら……な。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます