Data.39 弓おじさん、赤い流星
仙人はこの海溝に大した敵は出ないと言っていた。
あの仙人がここに来て俺をだましたり、嘘をつくはずがない。
この敵は……イレギュラーなモンスターだ。
すでにやられてしまったであろうパーティの3人と潜る前に話したことを思い出す。
ユニゾンが追加されたことで、ユニークなモンスターが各地に出現するようになった。
そのモンスターたちは特殊なうえ強い。
仲間に出来れば心強いが、そうでない限り厄介な敵でしかない。
フィールド探索は新要素を加えたことで、ある意味危険度も増した……と。
「まさかそのユニゾンモンスターなのか……?」
赤い流星が俺の足元を通り抜けた。
同時に左脚の感覚が消える。
状態異常『欠損』……風雲竜以来の経験だ。
間違いなく並のモンスターではない。
だが、その正体が薄々わかってきた。
俺はユニゾンが追加された時、自分はどんなモンスターを仲間にしたいのかと考えた。
ウェブ検索を繰り返し、いろんな動物を調べた。
モンスターも結局リアルの生き物をアレンジしたものがほとんどだからだ。
初めは前衛になってくれそうな大型肉食獣あたりを調べていたが、ふと『矢』のような生き物はいないのかと疑問が湧いた。
そんなのいるわけないと思いつつ、調べてみると……いた。
海に生息し、実際に人の体に突き刺さり、死に至らしめることもある『矢』のような魚……。
そいつは光に強く反応して突進してくる。
俺は感覚が残っている右足で、俺の近くを泳ぎ続ける発光クラゲを蹴り飛ばす。
ぽよんぽよんとクラゲは光ったまま遠くへと離れる。
そこに赤い流星が駆け抜けた。
やはり、光に反応している。
発光クラゲは俺たちの味方のようで、実際は敵を誘導する存在だったようだ。
深読みするなら、クラゲは『そいつ』を誘導して獲物を仕留めてもらって、『そいつ』の食べ残しを頂戴するみたいな共存関係が設定されているのかもしれない。
まあ、やられたプレイヤーの体は消えるから、あくまで設定だ。
「反撃といくか……六の型・
一本の矢の周りに無数の矢が出現する群れのスキル。
【弓時雨】に比べると狙いを定めやすいが、範囲と持続時間が劣る。
これを赤い流星がクラゲに接近するタイミングで……撃つ!
音がしないので当たったかどうかがわかりにくい。
でも一瞬、赤い光が点滅したように見えた。
当たっていることに期待して五の型【鮫】でホーミングする。
【鮫】は何かに引っ張られるように暗闇に消えていく。
よし、ちゃんと追ってくれているぞ……。
ホーミング効果が適用される30秒間【鮫】を撃ち様子を見る。
赤い光は消えた。ユニゾンモンスターならば、撃破された後プレイヤーの前に姿を現すはずだ。
「……来た!」
ゆらりと赤い光が迫ってきた。
もはや流星のような勢いはない。
撃破に成功したようだ。
蹴り飛ばした発光クラゲを引き寄せ、敵だったものの姿をよく見る。
長い体躯に鋭く突き出した口……やはりダツ、またはガーフィッシュがモチーフだろう。
しかし、こいつはモンスターだ。リアルとは決定的に違うところがある。
「まさか、機械の魚とは……」
金属特有の光沢のある黒いボディに、ところどころに入った赤いライン。
どうやってもカッコよくなる色の組み合わせだ。
魚は脆そうなイメージがあるが、こいつは装甲のようなもので覆われているので、案外ガッチリしている。
ゆらゆらと水をかく黒いヒレは、どことなくカラスを想起させる。
『レイヴンガーをユニゾンとして登録しますか?』
俺はすぐに『はい』を選択する。
今のところユニゾンは一体しか連れ歩けないが、登録自体は複数可能だ。
たとえ一体しか選べないとしても、俺はこいつを選んだと思う。
運命的なものを感じるからな。
それにしても、光に惹きつけられる黒い怪魚か……。
いつまでも心がキッズの俺はその設定に大興奮だ。
「おっと、ぼーっとしてる場合じゃないか」
レイヴンガーを詳しく確認するのは後だ。
こいつにキルされた仲間が海底の『海神石』を待っている。
さっさと拾って浮上しないとな。
仲間になったレイヴンガーは心強い。
勝手に近づいてくる魚モンスターを狩ってくれる。
まあ、それだけここに出るモンスターが強くないというのもある。
やはり、仙人は嘘をついていなかった。
「よし、確かに4つ拾ったぞ。浮上する!」
このゲームの海はどこでも水圧が一緒だ。
何も気にせず一気に浮上しても問題ない。
海上に出た俺はすぐに街に移動し、パーティの仲間たちを復活させた。
彼らに『海神石』を渡すと心底喜んでくれた。
一緒に地図のクエストを終わらせに行こうと誘ってくれたが、俺はこの石を先に見せないといけない人がいる。
パーティと別れ、俺は砂浜にいる仙人の元に急いだ。
「ついに……試練を終えたな! ワシの教える海弓術はここまでじゃ! ようがんばった!」
ついに完成した〈海弓術・七の型〉のグロウカードを眺める。
カードにはたくさんの魚と海の風景が描かれている。
「それだけで蒼海竜に挑むのは無謀じゃぞ。もっと総合的に強くならんとな」
「はい。それにしても竜にお詳しいですね。まさか……」
「そんなわけあるかい! ただの物好きなジジイじゃわい……。ワシみたいな竜に詳しいやつは各地におるから、またどこかの竜に挑みたくなった時は話を聞いてみるとよい。ほほほ……!」
仙人は笑いながら去っていった。
何はともあれ海弓術をすべて習得し、地図を埋めるためのアイテムも手に入った。
これで海での冒険も終わりかな……。
寂しくなるなぁ……。
◆ ◆ ◆
「お前らの持つ特殊な地図に新たな物を描き加えるには、『海神石』と『竜宮石』が必要だぞ」
「へ?」
地図を描くとは思えないムキムキのサーファーみたいなお兄さんから、衝撃の事実を知らされる。
必要な石は『2つ』あった……!
さっきまで組んでたパーティの人たちが、やけに『一緒』に地図のクエストを終わらせに行こうと言っていたのは、こういう事だったのか……。
ただクエストの完了を報告するだけなら、『一緒』にこだわる必要ないもんなぁ……。
彼らには申し訳ないことをしたが、過ぎたことを気にしても仕方ない。
竜宮石は『竜宮の海底神殿』と呼ばれるダンジョンの奥にあるという。
ソロならもう周りに合わせて急ぐ必要はない。
ずっとお預けを食らっていた
「ガー! ガー!」
まず、わかったことが一つ。
鳴き声がこの上なく安易だ……!
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