Data.30 弓おじさん、射程の真価
砦の防衛をゴーレムとAIバックラーに任せ、俺は西の森へ急ぐ。
リスクはあるが、この戦法だけは自分の手でやってみたい。
「近くで見ると質感がすごいな……トリケラトプス」
実物はもちろん絶滅しているので見たことはないが、一般的なトリケラトプスのイメージそのままの生き物がそこに存在していた。
このトリケラが移動できる範囲のラインにゴーレムを立たせて目印にしてある。
ここから矢を撃ってみよう。
キリリ……シュッ! カキンッ!
頭の周りは硬く、通常の矢では弾き飛ばされてしまう。
なかなかの防御力を誇るモンスターのようだ。
しかし、恐れることはない。
トリケラトプスは攻撃されても動く気配がない。
範囲外からの攻撃には反応すらしないようだ。
そうだ、これなんだ。
こういうのでいいんだよ。
この射程を使った裏技感……俺が欲していたものだ。
無心で矢を撃ってトリケラトプスの体力を減らしていく。
硬いのでかなり時間がかかりそうだ。
間違いなくソロで倒すことを想定した敵ではない。
このイベントは刻一刻と状況が変わるし、あまりのんびりもしてられない。
「よし、十分チクチクは楽しんだし、AI戦士たちにも手伝ってもらうか」
飛び道具が使えるAI戦士たちを命令下に置き、射程を伸ばしてからみんなでチクチクする。
HPの減り幅は目に見えて増えた。これならさほど時間はかからないだろう。
いつもこうやって反撃を食らわないで戦えるわけではない。
モンスターもプレイヤーもあの手この手で接近して俺を倒そうとしてくる。
でも、遠くから攻撃する強みは忘れちゃいけないな。
トリケラトプスは初心を思い出させてくれた。
ありがとう、トリケラトプス。
さようなら、トリケラトプス。
『トリケラトプスが仲間になりたそうにこちらを見ています』
「あ、やっぱり」
どう見たって特別なモンスターだし予想はしていた。
もちろん『仲間にする』を選択する。
『トリケラトプスが仲間に加わった! このモンスターに特殊技能はありません』
まさかの特殊技能なし。
硬さと突進だけが武器か。
まあ、実際に古代に存在した生物であるトリケラトプスに『特殊技能』なんて魔法みたいな能力あるわけないか。
なぜそこまでリアルの再現にこだわっているのかは……わからないけど。
とにかく、インパクト十分な新戦力が入ったことに変わりはない。
特殊技能がなくとも、こっちで特別な使い方をすればいいんだ。
背中に乗って移動してみるとかな。
ヨジヨジと背中に登ってみる。
うむ、暴れないし案外乗れる。
このまま砦まで帰りつつ、道中のモンスターを狩っていこう。
◆ ◆ ◆
砦は無事だった。
攻められた形跡もない。
ここは敵からも味方からも孤立しているのかもしれない。
今回の狩りの成果はそこそこのコストと約20体にも及ぶ仲間モンスターだ。
帰り際にとあるモンスターの群れに遭遇したお陰で、ここまで数を増やせた。
その中でも強力なモンスターをピックアップするとしたら、まず『トリケラトプス』だ。
特殊技能はないが、脚はなかなか速くパワフルなのでプレイヤーを何人か乗せても問題なし。
こいつを使って『ある戦法』を考えてある。
次に複数の『エアロラプトル』。
今回群れに遭遇したモンスターだ。
彼らも恐竜をモチーフにしているが、トリケラと違ってファンタジー要素がデザインに取り入れられている。
この差はなんなんだろうか。
特殊技能は【ワイルドエアー】。
範囲内の敵味方関係なく速さを上げる技能だ。
集団での移動にはもってこいだな。
最後に『メガネワシ』。
こいつがある意味最強なのかもしれない。
上空からフィールドの様子を見せてくれるのだ。
俺の場合は射程により命令できる範囲が伸びるので、さらに超上空からの景色が見られる。
そして、俺は全体の戦況を知った。
まず『ブルーディアー』は『グリーンバタフライ』に対しても開幕突撃を行っていたようだ。
そちらは成功し、青い陣地が緑の中に食い込んでいる。
『グリーンバタフライ』は取られた砦を取り戻すために戦力を集中。
『ブルーディアー』もそれに応戦したのだろう。
その結果、俺の所属している『レッドボア』が中央突破する隙ができた。
フィールドの中央は三陣営の砦がぶつかる位置。
そこを『レッドボア』は『ブルーディアー』の方面へ侵攻。
二つほど砦を奪っている。
しかし、動きはここまで。
今はすべての陣営の戦力が中央に集まって膠着状態のようだ。
少し『メガネワシ』の高度を下げて、中央の戦場を見渡してみたが、とんでもない光景だった。
真っ赤なティラノが火を吹いたり、龍の形をした雷の魔法が、虎の形をした風の魔法とぶつかったりとやりたい放題。
ティラノは仲間モンスターで、後は第3職の魔法スキルだろうか?
これでは俺とバックラーの戦いが地味に見える。
まあ、間違いなく地味なのだが熱い戦いだったのだ。そうだ、渋いと言い換えよう。
渋い戦いを繰り広げ、生き残った俺はついにやるべきことを見つけた。
中央が膠着していて戦況が変わりそうもないなら、サイドから展開していくしかない。
この砦が敵からも味方からも孤立している理由は端っこに位置しているからだ。
戦力はみんな中央に集められている。
中央で勝てば敵の戦力がガタガタになり、陣取りに勝ったも同然だからだ。
だからこそ、俺は動かないといけない。
ここから『ブルーディアー』の本拠地目指して攻めのぼる。
そうすれば、敵は俺を止めるために戦力を割かないといけない。
それだけ中央の味方が楽になる。
俺自身が犠牲になる確率が高いが、陣営の勝利には必要なことだ。
少なくとも中央の戦線に加わるより役に立つ。
あのド派手な戦場を俺の力で変えてやると言える自信はない。
弓使いは密かに獲物を狙う。
今こそ『防衛』から『侵攻』へ。
敵陣を攻めのぼるぞ、AIの戦士たちと共に……!
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