Data.18 弓おじさん、隠れ里にて
「これはこれはよく来てくださりました。ワシが長老です」
「あはは……どうも」
おそらく里の守り神的な存在を倒してしまったので、俺は内心長老が豹変して襲い掛かってくるのではないかと警戒していた。
しかし、それは杞憂だったようだ。
里の住民たちは風雲竜が倒されても復活することを知っている。
そう、このゲームでは倒されたモンスターがいずれ復活するのだ。
条件や時期は定かではないが、超レアモンスターも例外ではない。
そのゲーム上の仕様をNPCたちは『風雲竜様の復活伝説』という形で認識しているようだ。
風雲竜は雲が多く風の強い日に現れ、戦いを挑んできた者の勇気を認めると証を残して雲と風に姿を変え、またどこかへ流れていく……というお話らしい。
自由な冒険と対人戦がウリのゲームだと思っていたが、なかなか細かい設定も凝っているな。
他にも、里では竜の証を持つ者をもてなすしきたりがあるらしい。
これのおかげでファストトラベルの条件は満たされ、ここから他の街へワープすることが可能になった。
証を持っていない場合は他の条件を満たす必要があるだろうから、とても時短になった。
また、宿代も足の再生代もタダになった。
こんなサービスがあるならここを冒険の拠点にするのも悪くないのでは?
……と思ったが、タダになるのは初回のみで、次回からは多少の割引らしい。
まあ、ゲームバランスを考えると仕方ない。
とりあえず、やるべきことはやった。
今度こそ戦利品をすべて確認してログアウトしよう。
かなり長く遊んでるからなぁ。
さて、証以外にはどんなアイテムが……
「風雲竜様の証を持つお方よ。一つ頼み事を聞いてくれんか? 時間がある時で構いません」
「申し訳ありません。今はあいにく都合が悪く……」
「わかりました。私はここにおりますので、都合がいい時に話しかけてください」
このようにクエストを持ち掛けられても保留することも可能だ。
別に保留したからと言って、事態が悪化するわけではない。
好きなタイミングで挑むことが出来るし、もちろん無視してもいい。
相手はあくまでも決められた行動をするだけの存在なのだから……とは言ったものの、ジッと話しかけてくれるのを待っている長老の前で装備をじっくり確認するのは申し訳ない気分になる。
ここは『あのサービス』を試してみるか。
俺はログアウトした。
◆ ◆ ◆
「よし、そろそろ公式サイトを覗いてみるか」
いろいろ用事を済ませた後、ベッドにごろんと寝ころぶ。
睡魔が襲ってくる前に手元の端末で『Next Stage Online』の公式サイトにアクセス。
用事があるのはゲーム内容の紹介とか用語の解説とかのページではない。
『プレイヤーマイページ』と呼ばれるすでにゲームを遊んでいる人向けのサービスだ。
これはゲーム内のキャラの現在のステータスやスキル、装備や所持アイテムを確認できる優れものだ。
さらには今まで倒してきたモンスターの数や解説、総移動距離などの小ネタも知ることが出来るので、ゲーム世界にダイブしていない時も『Next Stage Online』にどっぷりハマれる。
今回はこのサービスを使って新しく手に入れたアイテムを確認する。
現在の装備……じゃなくてアイテムボックス内の装備カテゴリー……これか。
◆風雲の羽織
種類:胴体<羽織> 防御:45 魔防:75
武器スキル:【風雲一陣】
【風雲一陣】
指定した方向へ強烈な突風を吹かせる。
す、ステータスが強力すぎる……!
流石すべての装備枠の中でも守りにおいて最も重要な役割を果たす『胴体』の装備だ。
デザインも非常にクール。
空色の布地に真っ白な雲が浮かび、ところどころに入っているラインが風を表現している。
これで街中を歩けば思わず振り返る人もいるだろう。
スキルの【風雲一陣】はとてもシンプルな効果だけにかなり応用が利きそうだ。
特に矢を使う俺とは相性が悪くないはず。
◆風受の袴
種類:脚部<袴> 防御:40 魔防:60
武器スキル:【舞風】
【舞風】
落下スピードを大幅に遅くする。
総重量を軽減する。
ズボンなどと同じ『脚部』装備のカテゴリーだ。
数値は羽織に劣るけど、スキルが独特だなぁ。
試してみないとわからないけど、これは【風雲一陣】で発生させた風に乗ってふわりと舞うことが出来るのか?
可能なら楽しそうだな。
実戦的な使い道を言えば、落下ダメージの軽減か。
高いところから落ちた時、攻撃を受けて吹っ飛ばされた時にふわりと受け身を取れたらカッコいいだろうなぁ。
◆雲渡の足袋
種類:両足<足袋> 速度:80
武器スキル:【浮雲】
【浮雲】
乗ることが可能な雲を生み出す。
1時間に3つまで。5分で消滅する。
『両足』の装備枠は防御面より速度を上げるためにある。
軽さと自由の象徴である『雲』の名を持つだけあってかなり速度が上がっていると思う。
他の装備の知識があまりないので比較はできないが……。
スキルはこれまたシンプルだ。
風雲竜戦で足場にしていた雲を作れるという認識でいいのだろうか?
いくらでも生み出せると何処にでも行けるからか制限が厳しいな。
とはいえ、空中に最大15分浮けるなら強い。
早くいろいろ検証してみたいなぁ。
ああ、ワクワクする。
子どもっぽい例えだが、新しいおもちゃを買ってもらえたのにおあずけを食らっている気分だ。
早くログインして目いっぱい遊びたい。
そのためにも今日はもう寝るとしよう。
◆ ◆ ◆
翌日、ログインした俺のスタート地点は『風雲の隠れ里』の宿だ。
当たり前だが、ログアウトした場所と変わっていない。
つまり、長老は今日も俺をじっと見据えていた。
装備を試したい気持ちはやまやまだが、放置するのは忍びない。
先にクエストの詳細だけでも聞いておこう。
「あの、頼み事とは何でしょうか? ちょうど時間ができたので……」
「おおっ! 聞いてくださいますか!? 頼み事と言うのは他でもないっ! 風雲山を這い登り、里を襲わんとする邪悪な怪異『
「
エリマキトカゲみたいな響きだな。
いや、流石に世代ではないからよく知らないのだが。
それにしても
きっと目がたくさんあるトカゲなのだろうな。
アクションRPGにおいて、目への攻撃に使いたい武器No.1は弓矢だ。
たくさんある目を一定回数攻撃すると本当の弱点である大きな目が露出して、そこを攻撃するとダメージが通る。
その動作を三回ほど繰り返せばボスが倒せる。
昔から今も変わらぬ目玉系ボス撃破のメソッドだ。
「引き受けてくださいますか?」
「ええ、引き受けましょう」
弓使いが倒すべき敵だ。
メソッドが最先端のVRゲームにおいても通用するか試してみよう。
それに風雲装備の初陣を風雲の里を守る戦いで飾るのも悪くない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます