Data.13 弓おじさん、注目の的

 狭くなったエリアの中心にそびえたつ石造りの塔。

 木造とは違い頑丈なのでスキルによる破壊も容易ではない。

 そんな場所をたった一人で独占する長射程の弓使いが俺だ。


「うーん、絶対嫌われてるよな。俺が逆の立場だったら絶対嫌いだ」


 でも、場所を変えるという選択肢もない。

 もはやエリアの中に塔以外の建物はない。

 降りたら接近を許すだけだ。

 悪目立ちしてもここを死守する。


 うっ、エリアがまた狭くなりそうだ。

 この塔は運が良いのか悪いのか今回も安全地帯。

 捨て身で塔を目指すプレイヤーがさらに増える。


 キリリリリ……シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ!


 視界の中の動くもの、すべてを撃ち抜くんだ。

 硬くて倒せなかったらもう一発、外してももう一発。

 インファイト、バウンド、クリア、ウェブ……あらゆるアローを使いこなすんだ。


 ――ぴこんっ! スキル【弓術Ⅰ】がスキル【弓術Ⅱ】に進化しました。


 ◆獲得理由

 『弓の道の駆け出し』

 弓をさらに使いこなした。


 【弓術Ⅱ】

 弓装備時、攻撃、射程を+20する。


 数字が入っているスキルだから次の段階があるとは思っていたが……ここで来たか。

 ナイスなタイミングだ。

 これでさらに敵を倒せる。


 キリリリリ……シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ!


 プレイヤーの数が確実に減っている!

 この戦いも終わりが近い……。

 しかし、油断は禁物。

 珍しい仕様だが、このゲームでは残りプレイヤーの数が表示されていない。

 勝利のアナウンスが入るまで、一秒たりとも気を抜くな俺。


 ――ぴこんっ! 新たなスキル【マルチショット】を獲得しました。


 ◆獲得理由

 『その矢は無数の敵を撃つ』

 短時間で多くの敵を射撃系武器で撃破した。


 【マルチショット】

 複数の対象に同時に射撃を行える。

 同時に狙える範囲は視界内、数は10体まで。


 ここに来て強力な新スキル……!

 ゲームが俺に勝てと言っている!


「ロック!」


 視界内のプレイヤーの色が赤く変わる。

 これがマルチショットの対象ということか。


「マルチショット! くらえっ!」


 キリリリリ……シュッ!


 同時に矢が放たれたため、音は一度だけだった。

 10本の矢はそれぞれプレイヤーにヒット、撃破した。

 MPの消費もさほどではないし、威力に減衰はない。

 まだ使える!


「マルチショット!」


 キリリリリ……シュッ!


 今度は9体の敵を撃破した。

 仕留め損ねた1体をもう一度狙いつつ、またマルチショットで……。

 いや、いない。

 ぐるりと周囲を見渡しても、プレイヤーは残っていない。

 この仕留め損ねたマッドグリーンの装備の男を倒せば勝ちだ!


「集中……集中……」


 男の頭めがけて矢を放つ。

 しかし、あっさりとムチで弾き飛ばされてしまった。

 あのスライムみたいな緑色のぐにゅぐにゅしたムチはなかなかの性能だ。

 でも、それ以上にあの男は他とは違う。


 初心者の俺が言うのもなんだが、VRゲームという物自体に慣れている動きだ。

 NSOに関してはまだ初心者でも、他のゲームはそれなりにやりこんでいると思う。


 正直言うと隙がない。

 あいつを倒す方法がわからない。

 だから、矢を撃ちまくるしかない!

 ダメージが薄くとも遠くからチクチク、これが俺の戦い方だ!


「うおおおおおおおおお!!!」


 人力では矢の雨とまではいかないが、うっとうしい数の矢を放ち続ける。根気の勝負だ。

 あの伸縮自在のスライムムチをかいくぐって一発入れば、この拮抗状態は崩れて他の矢も刺さる。

 逆にこのまま塔まで押し切られたら負けだ。


 スキルを交えて矢の軌道に変化をつけても弾かれる。

 見えないはずの【クリアアロー】すらムチで落とされた。

 学問でも、運動でも、ゲームでも……何かを極めた人間は勘が働くと言うが、あいつはそれほどの男なのか。


 でも、関係ないね。

 矢を撃つべし!


 キリリリリ……シュッ! ザクッ!


 遠くから微かに矢が刺さる音が聞こえた。

 その音を皮切りにどんどんと男に矢が刺さっていく。


「これで終わりだ!」


 最後の矢が男の脳天にヒット。

 男は悔しさを叫びながら光となって消えた。

 あんたは強かった……。

 プレイヤーとしては俺よりも間違いなくだ。

 たが、今回は位置取りとエリア運が勝負を分けた。


「俺の……勝ちだっ!」


 ザクッ! ザクッ!


「え?」


 何かが切られる音。

 それもかなり近い。

 いや、俺の首が切られた?

 胴体と離れて地面に転がることはないが、微かな刺激が首回りにある。

 攻撃されたのは俺だ。

 体が光に分解されていく。


 キルされた……?

 でも、敵はどこに?

 敵も長射程攻撃か?

 いや、切り口が振り下ろされた刃物のそれだ。

 きっと近くにいる。


 でも、どうやって登ってきた?

 塔の入り口にはマジックマインが設置してある。

 射撃に集中してたとはいえ、あれが爆発すれば爆音で気づくはず……。


「あはっ! やったっ!」


 突然、何もなかった場所からネコミミつけた小柄な少女が現れた。

 まるでさっきまで透明だったみたいに……。


「……ああっ!?」


 特殊アクション『透明化』のチップだ!

 効果自体は俺も知っている。

 撃ちまくっていた敵の中にも、透明になることで難を逃れようとした人がいた。

 しかし、効果時間が短すぎて逃げ切れなかったはず。


 でも、この少女は俺の狙撃をくぐり抜けてきた。

 考えられる可能性はチップの連続使用。

 もしくは極端に速度にステータスを振っているかだ。

 そうして塔の真下、俺の死角に潜り込んだ。


 だが、入り口のマジックマインは避けられないはず。

 透明化は見えなくなるだけで当たり判定は消えない。

 踏めば爆発してすごい音が響く。


 ……彼女の武器を見れば簡単な話だ。

 両手に装備するタイプの爪。

 これで罠のない外壁を登ってきたんだ!


 うぬぼれていた……!

 最初は人と戦っている自覚があったのに、途中から的当てかなんかだと勘違いしていた。

 金属の爪を石造りの外壁にひっかけて登って来たなら音もしたはず。

 なのにキルすることに集中しすぎて聞き逃した。


 なにより、気づいていても【不動狙撃の構え】のデメリット効果で逃げられなかった。

 30秒間移動できないまま前衛職と戦って生き残れるはずがない。


 完全に隙を突かれた。

 俺の……完敗だっ!




 ◆ ◆ ◆




 最終的に俺の順位は3位だった。

 もう一人隠れて生き残ってた人がいたようだ。

 まあ、そもそもバトルロイヤルゲームはキルを稼ぐことが目的ではなく、生き残ることが目的だ。

 卑怯とは言わん。むしろ正しい戦い方だ。


 でも、1位の猫少女が5キルで2位の芋プレイヤーが0キルだと少し凹むな。

 やっぱこそこそ生き残るのが正しいのだろうか……。


 と、思っていたら嬉しい知らせが入った。

 このイベントの賞品は『NSOメダル』と言われる小さなメダルなのだが、これはたくさん集めるとあらゆる物と交換できる優れものらしい。

 1位には100枚、2位には50枚、3位には30枚与えられる。


 それに加えて、いくつかの部門で賞を受賞したものにもメダルが送られる。

 俺の場合は『最多キル賞』と『ファーストキル賞』だ。


 最多キル賞はキルした数だけメダルが獲得できる。

 俺は最終的に158キルを達成したので、メダルも158枚だ。


 ファーストキル賞はイベント中に最初のキルを行ったプレイヤーに送られる。

 こちらは20枚。


 合計で208枚のNSOメダルを手に入れた。

 これは全体の順位で1位をとった時の2倍以上の枚数だ。

 ある意味、一番の勝利者は俺と言ってもいいのかもしれない。


 しかし、やはり3位は3位だ。

 男なら1位以外で満足してはいけない。

 次の機会があれば、俺が1位になってみせる!


 そのためにはVRバトロワのセオリーを学び、さらにプレイングやスキル、装備を磨く必要がある。

 負けちゃったけど、むしろモチベーションは最高潮だ。

 強くなる理由が出来たから……な!

 まだまだ楽しむぞ『Next Stage Online』!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る