第25話 猛獣美女の大暴れ 2

「おいっ!」


 時速百キロを越える速度で走行中の車から飛び出したのだ。


 無事で済む筈が無い。


 自殺でもするつもりかとぎょっとしたが、マーシャはとんでもないことを立て続けにやらかした。


 飛び出したマーシャはそのまま銃を乱射しながら道路に着地。


 しかもその着地後、すぐに飛び跳ねた。


 猛スピードで敵の軍用車両に迫る。


「な……なななな……」


 唖然とするのも無理はない。


 敵の様子を見る為に、後方には監視カメラも設置してある。


 運転中のレヴィは後ろを振り返ることは出来ないが、その暴れっぷりだけは観察することが出来た。


 ホログラムディスプレイに映されるその暴れっぷりは、じゃじゃ馬どころではない。


 恐ろしい猛獣のそれだった。


 マーシャの履いているブーツは特殊なものらしく、いつの間にか車輪が下から出ていた。


 それらが恐ろしいモーター音と共に猛スピードで移動を開始しているのだ。


 それだけではなく、高速跳躍も可能としているらしい。


 ぎゅんぎゅんと縦横無尽に移動するだけではなく、ぴょんぴょん飛び跳ねている。


 三次元空間を自在に飛び跳ねて、移動して、敵を翻弄している。


 右手にはレーザーガン、左手にはレーザーブレードを持って、とことんまで暴れ回っている。


 中距離、接近戦も恐ろしいほど的確にこなしている。


 動きの速度が人間離れしているのは履いている特殊ブーツの所為かもしれないが、それに合わせて身体を動かし、戦闘に反応させるのは並大抵のことではない。


 恐ろしい反応速度であり、反射神経だった。


 適当に撃っているようなレーザーは的確に敵の急所を抉り、移動中に接近してしまった敵にはついでとばかりに斬りつける。


 まるで舞うような動きだった。


 荒々しいのに、一切の無駄が無い。


 美しいとさえ思う。


「………………」


 オッドも衝撃を受けていたが、そのままということはなかった。


 呆然と見ているだけでは戦闘担当として付いてきた意味がない。


 レヴィとシャンティの安全を確保する為にも、マーシャと戦っている敵の数を減らす必要があった。


 銃を構えて、慎重に狙う。


 そうしなければ動き回るマーシャに当たるかもしれない。


 なるべくマーシャから離れた位置にいる敵を狙って撃った。


 動く車に乗ったまま、動く車に乗った敵を狙うのは容易なことではないが、それでもオッドの銃弾は的確に敵の胴体を撃ち抜いた。


 頭や心臓を狙うのはリスクが高い。


 外れるかもしれない弾よりも、確実に当たる弾を優先して狙う。


 動きが鈍ればマーシャに攻撃出来なくなるし、とどめは彼女が刺してくれる。


 オッドは自分の役割を的確にこなすのだった。


 初対面の連携としてはまずまずと言えるだろう。


 存分に暴れ回ったマーシャと、的確に援護したオッドの活躍もあって、ひとまず追っ手は片付けた。


 マーシャが戻ってくるので車を停車させる。


 ローラーブレードじみたブーツはものすごい勢いで迫ってきて、すぐに急ブレーキをかけた。


 そして上機嫌なまま乗り込む。


「ふう。ひとまずは片付いたな」


「なあ……」


「何だ?」


「それ、なんだ?」


「どれのことを言っている?」


 マーシャの装備は多彩だった。


 だからレヴィがどれについて問いかけているのか分からなかったのだ。


「全部だな」


「全部か。まあ、順番に説明していくと、これは爆弾ランチャーみたいなものだな」


 マーシャは最初に取り出した小型のハンドガンを取り出した。


 砲身が随分と大きい。


「爆弾っ!?」


 物騒な発言にぎょっとするレヴィ。


 しかしマーシャは笑うだけだった。


「グレネードランチャーの小型タイプみたいなものだな」


「……信じられないな。そこまで小型化しているのか」


「まあ、私が個人的に開発したものだから」


「宇宙船だけじゃないのかよ」


「思いついたら武器もいろいろ開発しているぞ」


「物騒だな」


「思いつきを形にするのは、結構面白い」


「それは分かるけど」


「次はこのブーツか?」


「ああ、どうなってるんだ? 絶対にただのローラーブレードじゃないよな?」


「もちろんだ。特殊なモーターを仕込んであるから、時速三百キロまで加速することが出来る」


「………………」


 恐ろしいことを聞いた。


 そんなものを生身で使えば身体の方がただでは済まない筈なのだが。


「その懸念については問題無い。訓練を積んでいるからな。それに使う際は身体に薄いバリアーを展開している。圧死することは無いさ」


「いや、それにしたってそこまでの圧力をかけられつつ平然と動くとか、どういう反応速度をしているんだ?」


「それは純粋に訓練した」


「………………」


 どんな訓練なのか、知りたくもない。


 恐ろしすぎる。


「他にも飛び跳ねたりしていたよな?」


「車輪が特殊仕様でね。飛んだり跳ねたり出来るんだ。加速させれば数秒間は飛翔することも可能だ」


「トランポリンみたいなものか?」


「そんな事をしたら常にぴょんぴょん跳ねなきゃならないじゃないか」


「まあ、そうだよなぁ」


「ただし、そういう状態を意図的に切り替えることが出来る」


「不思議素材か」


「れっきとした特殊素材なんだがな」


「俺には不思議素材にしか見えない」


「まあ、そうだろうなぁ。今のところ、私にしか使いこなせない」


「使ったら死ぬだろ」


「うん」


 マーシャの反応速度と反射神経、並外れた運動能力があるからこそ使える代物だった。


「そうやって自分にしか使えない装備を造るのが趣味なのか?」


「別にそんなつもりはないぞ。使える奴がいるなら貸してやってもいいぐらいだ」


「………………」


 そんな恐ろしいものは借りたくない……とため息を吐くレヴィだった。


「それよりももたもたしていると第二陣が来るぞ。さっさと移動しなくていいのか?」


「まあ、そうなんだけどな……」


 再び車を動かすレヴィ。


 目的地まではあとわずかだ。


 道路にも結構な被害をまき散らしてしまっている。


 軍用車両が潰されて道を塞いでいるので、後から来る一般者はかなり迷惑だろう。


 この時点で警察や軍が出動するのかもしれないが、エミリオン連合軍の方が圧力を掛けている場合、交通規制が予め敷かれているかもしれない。


 そうなると追っ手の出したい放題となるので、確かにのんびりはしていられない。


「さっさと行きますかね」


「頼む」


「へいへい」


 被害をまき散らすのは本意では無いので、レヴィも出発する。


 車は目的地へと向かうのだった。

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