第31話 考察①
公安警察の八目島支部である地上五階建ての建物の中、片隅でパソコンを操作する珠奈。
アクセスしたのは島中に仕掛けられている監視カメラのデータ。
無遅刻無欠席を続けている天知時雨が動くのは間違いなく学校が終わった後。
念の為、珠奈は今朝から時雨を尾行していたが、寮を出て登校するのみで特段おかしな行動はしていなかった。
その為、学校が終わるまでの間は珠奈の最近の行動を洗う作業に取り掛かる。
「さてさて、TRの次の狙いは誰かなぁ?」
今までの噂が真実だったとするならば、最近の彼女が捕らえた犯人数から考えても既に次の標的を定めている可能性は高い。
次の被害者が出る前に彼女を止める証拠を掴んでおきたいというのが珠奈の心境。
「昨日はどこへ行ったかなっと」
監視カメラを辿れば、放課後に彼女が校舎を出ていく様子が映し出される。
そのまま数分後には学生寮の監視カメラに彼女の姿が映り込んだ。
「あれ、普通に帰っただけか」
カメラを早送りしていくと、夜になる前に彼女が寮から出ていく様子が映し出される。
寮の外のカメラには遠見秀一が映っていて、合流した二人はそのままどこかへと消えていく。
「副会長の遠見秀一君だっけ。二人って事は夜の見回りかな?」
珠奈は二人の姿が映る監視カメラを探してみるが、その後の監視カメラに二人の姿は捉えられなかった。
二時間後に時雨が戻ってくる様子だけが寮のカメラに捉えられているのみだ。
「ますます怪しくなってきたね」
寮の場所から町を見回るとすれば、その道中に仕掛けられている監視カメラに映り込むのが自然な流れ。
それに映らないという事は一定の場所から動いていないのか、あるいは意図的に監視カメラを避けるように行動しているのかのいずれか。
「もし監視カメラを避けてるのなら、これはかなり厄介な相手だなぁ」
今までの彼女の噂も、目撃証言や証拠といった物が見つかっていないのでかなりの知能犯だというのは窺える。
それをいかに突破するかを珠奈は見つけなければならない。
「彼女自身が完璧でも·····」
相手が完璧に仕上げてくるとしても、共犯者はそうとは限らない。
共犯者は仲間かもしれないが自分ではないし、自分に近い存在だとしてもやはり他人だ。
ならばと、珠奈は遠見秀一についてを調べる事にした。
「ダメか·····」
遠見秀一の経歴を調べても、そこには犯罪歴などはなく、時雨と同じく秀才で真面目だという事が出てくるばかり。
特筆して引っかかるような事もなく、むしろ時雨よりも白い経歴の持ち主であった。
「遠見秀一は天知時雨に利用されている·····?精神支配されて駒にされている·····?」
ひたすら独り言を続けている珠奈、考え事をしている時に無意識に口に出してしまうのは彼女の悪い癖。
そんな事を呟きながらも、前日、前々日と時間を遡っていけば、堂々とその二人がカメラに映り込んでいる部分があった。
「これはゴールデンウィーク中かな·····。寮を出て、南東の山の方か·····」
カメラを次々と切り替えて、最後に二人が辿り着いた場所は教員用宿舎13。
「えっとここは確か教員用宿舎13だったっけ、宿舎内のカメラは·····あれ?」
どこの宿舎、寮の中にもカメラが取り付けられているが、教員用宿舎13にだけはカメラが一つもついていない事を知りさらに疑問符が浮かび上がる珠奈。
「なんでここだけついてないんだろう·····」
公安データベースにアクセスし、教員用宿舎の情報を調べたが、データベースにはそもそも教員用宿舎13は存在していない事になっている。
そこで暮らしている教員のデータもなく、何の情報も出てこない。
「いや、あそこは確かに教員用の宿舎だったはず。私の知る限りあそこには·····そう、名前は篝先生。あと如月って先生もいたはずだけど·····」
篝霧也と如月月夜の情報をデータベースから検索してみると、モニター上に警告マークが点滅する。
「アクセス権限がありませんって·····。一般職員の私のIDじゃ閲覧出来ないと·····。ならクラスの方を·····」
珠奈はそこにZクラスが一つだけ孤立して存在している事を知っていた。
71組の存在自体は隠されているものではないので、それを知っている事が特別だという訳でもない。
「これもダメか·····」
71組を検索してみても先程と同じメッセージが出るのみで、珠奈の権限では内容を閲覧する事は出来なかった。
「他のZクラスの情報は隠されてないのに、どうしてあのクラスの情報だけが·····。あのクラスには私の知らない特別な理由がある·····?」
映像データを早送りすれば時雨が数分後に外へと出てくる様子が映し出されていた。
時雨がこの宿舎に出入りしたという事はそこに住む人物との接触があったと見るのが当然。
この接触により何があったのかというのは珠奈の知るところではない。
データベースからの情報が期待出来ない以上、珠奈に残された手はたった一つのみ。
「やっぱ直接出向くしかないかぁ·····」
珠奈は軽く溜息を吐いて両手で自分の頬を叩き気持ちを切り替える。
荷物を持って立ち上がるとその足で71組の元へと向かった。
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