決着! ゴブリンVS勇者パーティ

《アークゴブリン・闇の死亡が確認されました》


「ギギッ……アルジ、サマ…………」


 ……俺がスクリーンを開いた瞬間、アークゴブリン・がそう呟いてから光の粒子になって消え去った。

 ……嘘だろ。

 俺は卒倒しそうになるほどのショックを受けながら更にスクリーンを眺める。


 そこには髪の毛が一部白に変色していて、巫女服のような衣が薄らと粒子になって消え去る途中の勇者と、ボロボロになった聖女と、傷だらけの賢者がいた。


「逃がすか……」


 俺はその場所に瞬間移動するや否や、蛇公をけしかけ勇者にかけより三人でどこかに転移しようとしている途中だった勇者パーティを拘束させて、レベルドレインをさせる。

 いや、今回はそれだけじゃなくてHPとMPも一割を切るまでドレインさせた。


「…………」


 激戦の後のドレインに、完全に気を失ってしまう勇者パーティの面々。


 それを眺めながら俺は、自然と膝を落とした。

 青空を眺め、流れゆく雲を見上げる。


「主様!」


「「「主様!!」」」


 暫くして、ゴブリンたちが俺の元へ向かってきた。


「メイガスゴブリン・闇……ゴブリンスナイパー・闇……イモータル・ロード」


 それと名前の知らないゴブリンたち。


「他の奴らは……」


「死にました」


 アークゴブリン・闇の補佐であったイモータル・ロードが淡々と答えた。


「そうか。……そうか」


「主様。勇者パーティの面々はどういたしますか?」


「そうだな。一度、奈落の木阿弥に持ち帰ってとりあえず拘束しておこう」


「解りました……」


「……えっと、ここに居る面子で生き残っているのは全員だよね?」


「……はい」


 やっぱり、かなり死んでしまったようだった。

 ……俺は、ここに居る面子と勇者パーティと共に『奈落の木阿弥』の二階層に転移した。



                   ◇



 奈落の木阿弥二階層にある、旧アークゴブリン・闇の居城。


 迷宮内にある重要な施設は軒並み守りの堅い下の階層に移したが、彼の滞在する居城は、王たちが世界を征服するために迷宮の中から出て各地に散らばった後も変わらずこの二階層にあった。

 それは、敢えて上の階層に滞在することで、常に先陣に立つ王の姿を見せるためだと、彼を魔王に任命した時に言っていた。


 そんな思い出のある居城。


 俺は気絶した勇者パーティの面々の首に、いつか木阿弥の奈落で拾ってからずっとアイテムボックスの肥やしにしていた『隷属の首輪』をつけていく。

 隷属の首輪は主の命令に逆らえなくなく『隷紋』を着用されたものの魂に自動的に埋め込むアイテムだ。


 その効力は強力で、主が死ねと言えば自ら命を絶つほどである。


 レベル1とは言え、相当昇華を繰り返していたらしい勇者パーティ――特に女神と融合できるほどの強靱な魂を持つ勇者には完全には効かないだろうけれど、まぁ、拘束具の足しくらいにはなるだろう。


 その他常に魔力を吸い続けてその魔力で着用者に苦痛を与え続ける『茨の鎖』や、特定の呪文を唱えれば頭蓋にひびが入るほど頭を締め付ける『金輪際』など、アイテムボックスにあった拘束具や呪いのアイテムをこれでもかと装着していく。


 勇者は最早あの格好なので必要はないが、賢者と聖女の装備は普通に厄介だから全て脱がしてから拘束した。


 卑猥な勇者の格好も、賢者と聖女の裸も普通に綺麗だ。


 いつもの俺なら垂涎ものだろうし、一応迷宮者権限でスクショしておいたけど――しかし、今は彼女たちのあられもない姿を楽しむ気分にもなれなかった。


 アークゴブリン・闇が死んだ。


 端から、俺が甘かったのだ。


 勇者は元仲間だから、なんだかんだで嫌いになれないから……そんな理由で野放しにして、彼女たちが処刑された時、一丁前にショックも受けた。

 でも、俺は勇者が生き返ることを知っていた。


 そして、勇者の脅威も知っていたはずなのだ。


 だから、最初に彼女たちと相対した時こうして拘束しておくべきだった。


 拘束して、厳重に繋いで、その動きを完全に封じるべきだった。


 それが出来なかったのは完全に、俺の甘さだった。

 俺の甘さが、アークゴブリン・闇を殺したのだ。


 いや、それさえも甘えである。


 こうして自分を責めれば俺は安心できるのだ。その時だけは、彼の死の責任から解放される気がするのだ。

 でも、俺が俺を責めたところでアークゴブリン・闇は生き返らない。


 それどころか、俺がグズグズしている間に他の仲間まで失ってしまうかもしれない。


「アークゴブリン・闇は死んだ。……階層主であり、魔王である彼の代わりは早急に用意しなければならない。その大役を担う志のある者はいるか?」


「……オレがやります」


 僅かなる沈黙。そしてその後に手を上げたのはメイガスゴブリン・闇だった。


「……他に、意思のあるものは……いないようだな。であれば、メイガスゴブリン・闇。貴様を次なる魔王に任命する」


 或いはアークゴブリン・闇は賢くそして思慮深い男だった。

 もしかしたら、自分が死んでしまった万が一の時次の王は誰に任せるか――それを優先順位を与えて伝えていたのかもしれない。


 俺の知る限り、アークゴブリン・闇の右腕だったゴブリンは戦死してしまったようだし。


「はい……身命を賭して主様に忠誠を誓います」


「よし。では、新たなる魔王になったメイガスゴブリン・闇には最初の仕事を与える。それは、勇者がこの奈落の木阿弥に二度と刃向かう気が起こらないように徹底的に心を折ることだ」


「…………」


「俺も、その一部始終を見させて貰う」


「解りました」

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