世界観光~アフリカ&ヨーロッパ~
エジプトはカイロにあるワイズ・トロールの居城。
俺とタキエルは南アメリカとオーストラリアを合わせて二週間弱観光した後に、アフリカに瞬間移動した。
思えばタキエルとの世界観光も早、一ヶ月目。
バフォメット・オーガ・赤のあの一件からもう一ヶ月もの時間が流れたのだ。
時の流れとはなんともはやいものである。
「一ヶ月ぶり、ワイズ・トロール」
「お久しぶりです」
「調子はどう?」
「お陰様で、順調にやらせていただいております」
「それは良かった」
「ところで、勇者の状況はもうお耳に入りましたか?」
馬鹿でかい図体、鬼のような強面、やたらと高い声と低めの態度。
何度見てもシュールな光景である。
そんなシュール極まれるワイズ・トロールの立ち居振る舞い程度で、今更笑ったりすることはない。
して、俺はワイズ・トロールの今の質問でピンときた。
「じゃあやっぱり、卑猥な格好の勇者というのは」
「ええ。私が彼女に呪いをかけておきました」
「なるほど……」
結局、俺は勇者の卑猥な格好とやらを見れていない。見れていないが、やはり気になる。
気になるし、勇者の動向はやっぱり迷宮主として、或いは大魔王として知っておくべきだ。
決してエロ目的というわけではない。エロ目的じゃないから、ジト目で見るのは辞めてくれませんかね? タキエルさん……。
「それでどんな?」
「これですよ。この御札三枚が局部に張り付いているだけの」
ワイズトロールが取り出した御札は、七夕の短冊よりも細く短かった。
「装備がこれに固定される呪いをかけておきました。勇者は殺しても生き返ると聞きましたし、であれば装備を弱体化しておく程度の呪いが効果的かと思いまして」
それに、そう言うのお好きですよね?
こっそりと、俺に聞こえる程度の声でそうささやきかけてくるワイズ・トロールに俺は猛烈に感動していた。
なんたる忠義! なんて忠義の男なんだ!
タキエルは薄っぺらい紙切れが大事なところに張り付いているだけの、淫らというか卑猥というか、最早ほぼ全裸みたいな格好を想像してもじもじしている。
一方で俺は、そんな素晴らしい呪いをかけたワイズ・トロールに感服すると同時にその格好をしている勇者を見て、眼福を味わいたいと思っていた。
勇者はなんだかんだでプライドが非常に高い。
それこそ、旅の途中でうっかり下着姿の勇者に遭遇した時、俺は半殺しにされた後聖女に蘇生されたほどである。
そんな昔の話はさておき、勇者はそんな格好での冒険を――恐らくワイズ・トロールの呪いはあの聖女が解けるようになるのはずっと先だから――半永久的に強制される勇者は一体どんな気持ちなんだろう。
それを想像すると少しぐっとくるものがある。
う、浮気じゃないよ?
そんなこんなで、勇者の格好は非常に気になったがタキエルもいた手前それを主張するわけにも行かず、その他簡単な近況報告を終えた後に、ワイズ・トロールと別れアフリカを回ることにした。
ナイロビとかプレトリアとかマダガスカルとか色々回った。
気になったのは、色んな街で人々とトロールが楽しそうに会話を弾ませている姿がちらほら見られたところだ。
トロールは3m……個体によっては10mを越える程大きくて、見た目だってとても醜い。
そうでなくとも、人間とモンスターは相容れないのだ。
だから、彼らの姿がスゴく意外に感じると同時に、俺は可能性を感じ取っていた。
世界征服をする上で、人間を支配するのならワイズ・トロールの治める土地のように人とモンスターが笑って過ごせる世界の方が良いに決まっている。
それが実現できてるのはワイズ・トロールの人柄と手腕があってこそのものなのだろうけど、それでもこの形は理想の具現化に等しく感じていた。
十日ほど色んな街を見て回ったけど、やっぱり人間とトロールはどこでも仲が良さそうに見えた。
アフリカの観光は、これまで回ってきたどこの国よりも心が安らぐ時間に感じた。
それと、アフリカ旅行初日。勇者の格好を想像して鼻を膨らませていたのがタキエルにバレてたみたいだけど、その夜にあれくらいのサイズの紙切れを貼り付けただけの格好をタキエルにして貰えることになった。
めっちゃエロくて興奮した。その晩に限らないが、その晩も滅茶苦茶セクロスした。
◇
「久しぶり、ロード・オブ・バフォメット」
「四十日ぶりカ」
「……日本語、練習したんだ」
「はい。マーリンとマクスウェルに教えて貰いマシタ」
「それで、近況はどう?」
「あっちこっちグチャグチャになってしまったので復興の途中デス」
実はヨーロッパに関しては、実際に回ったわけではないけれど鳥瞰図のようなスクリーンで定期的に眺めてみていたのだ。
それは純粋にこれから回る場所の様子が気になるというのもあったが、それ以上にあんなことがあった以上、復興状況は迷宮主として知っておきたかったからだ。
最初はまるで南ヨーロッパの辺りに、流星群でも降り注いだかと思うほどにボロボロであちらこちらにクレーターが確認できた。
それが、最近ではそのクレーターだけはあまり見られなくなった。
「まぁ、進捗は良い感じみたいだしね。とりあえず観光できそうなくらいには片付いてるみたいだし、実際に回ってみさせて貰うよ」
「……ありがとうございマス」
俺は、ロード・オブ・バフォメットへの挨拶を軽く済ませてなんとなくブカレストに瞬間移動した。
……ヴァンパイアが好きだからって言うのもあるけど、それ以上にこの辺の地域が一番被害を受けていたから、その場に行ってみたかったって言うのも大きい。
そして、その街並みはやっぱりボロボロで。
それでも、オーガと人間たちが協力して街を再建していた。
「雨降って地固まるってやつなのだろうか?」
この協力は一時的なものなのか、或いはアフリカのように長く続きそうなものなのか、そもそもアフリカのあれも長く続くのかも解らない。
それでもあんなことがあって、人間とモンスターが共存できるというのならこれも一つの平和の形ではないのだろうか?
そんなことをしんみりと考えてしまう。
「マスターさん……」
「まぁ、時間はまだあるさ。もっと街を見て回ろう」
タキエルの腰に手を回し、抱き寄せて。次の場所に転移しようと思ったところで、警報が鳴り渡った。
《アークゴブリン・闇の身代わりが割られました》
ヤバい! そう思って、慌ててスクリーンを開く。
いや、開こうとした瞬間に、畳みかけるようにアナウンスが鳴る。
《アークゴブリン・闇の死亡が確認されました》
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