世界観光~北アメリカ~
翌日。俺とタキエルは、午前中もまた中国を観光した。
今度は街の方じゃなくて、自然を見て回った。
特に良かったのは火炎山だ。子供の頃から一度は訪れたいと思っていたのだけれど、やはりあの高いところに命綱なしで渡る道のところは中々にスリルがあって楽しめた。
万が一落ちても、まぁ瞬間移動を使えばどうって事ないだろう。
そして午後は中国を出て、東南アジアの方に移る。
ベトナム、カンボジア。
カンボジアの遺跡はまぁ写真で見た通り良かったとしか言いようがないが、俺的にやはり気になったのはベトナムのホーチミンシティ。
オークがニヤリと笑って、人間の子供を踏みつけていた。
その次の日からも東南アジア、インド、パキスタンなどの南アジア、アフガニスタンなどの中央アジアを軽く見て回る。
遺跡や自然は噂通り、良い感じで。
しかし、それ以上に訪れた街のほぼ全てでオークが人間を虐げていた。
自然とか遺跡とかそう言った感動を語る気分にもなれない程度には気分が悪い光景だった。
ロード・オブ・オークは優秀な暴君である。
しっかりと人間を支配していて、各国にいる勇者もアジアに支配域を伸ばしていた魔王もキッチリと始末してくれていた。
やってほしいことは全部こなしていたし、多分情報として「人間を奴隷にしている」といわれても「へーそうですか」以上の感想なんて持ちようがない。
知らない人が知らないところでなんかされてるらしい。
ふーんとしか言いようがない。
それに、そもそも俺はその土地の統制は基本的に王に任せている。
なにかその方法で問題が起こったのであれば話は変わってくるが、そういう訳でもないのに俺のちっぽけな良心で、実際に問題が起こっているわけでもなんでもないロード・オブ・オークの統制にケチをつける権利は、俺にあるのだろうか?
だが、実際に奴隷のような――いや、奴隷という精度が解らないから正確には表現できないが、少なくとも飼われている犬猫よりかは酷い扱いを受けている人間を見ると胸くそ悪い気分になる。
俺はこういうことがしたかったのか。
世界征服とはこういうものなのか。
十日弱、ロード・オブ・オークが支配する国々を巡って俺は思う。
これは、違うな、と。
俺は基本的に放任主義ではあるが、それでも迷宮主で大魔王――一応、ロード・オブ・オークの上司だ。
勇者の処刑の時はロード・オブ・オークの話に筋が通っていたけど、今回は、ちょっと違う気がした。
「ロード・オブ・オーク。街の治安が悪すぎる。どうにかして欲しい」
「治安が悪い? 犯罪など起こってないではないか」
「犯罪が起こってないのは、法整備が整っていないから犯罪が立証されないだけだ。オークと人間の間に上下関係を作るのは自由だが、あくまで俺は人間を支配し統治せよと命じたはずだ。
奴隷のように扱えば人間本来の生産効率を得られなくなる。オークであれど、人間に対して、窃盗、強姦、暴行、殺害は厳しく処罰するべきだ。
次ぎ来る時までには、誇りある気高いオークの街並みにして欲しいと思いました」
「………」
まくし立てるように言う俺に困ったような顔をする、ロード・オブ・オーク。
「正義の伴わない支配は、ただの略奪だ。奈落の木阿弥のオークは蛮族じゃないだろ?」
「……了解した」
ロード・オブ・オークは渋々首肯した。
実際問題、あの胸くそ悪い街並みが改善されるのかも解らないし、俺がこうして口を出すことも正しいことだったのか解らない。
もしかしたら見て見ぬふりをすべきだったのかもしれないし、なんなら世界を巡るなんて言わず放置を貫く方が良かったのかもしれない。
それでも、巡りたいと思ってしまった。そして見てしまった。
仮に俺が勇者だとして、ロード・オブ・オークを倒せば人類があの胸くそ悪い街並みから解放されるとしても、勝てなさそうなら絶対に戦わないだろう。
しかし、今の俺は大魔王でロード・オブ・オークの上司だ。
たった一言口を出すくらいなら、やってしまうていどの良心はまだ残っている。
俺は人間なのかモンスターなのか。
そんな迷いを抱えたまま、俺はタキエルとアジアを出る。
次はアメリカに瞬間移動することにした。
◇
「ベリアル。十日ぶり」
「ククッ。正確には十二日ぶりですねぇマイロード」
「最近どう?」
「ええ、なにも変わりなく。大女神の動きも探っているのですが、特にかわりはなさそうでしたよ」
……俺はベリアルの言葉に少し安心する。
大魔王は一応大女神の部下みたいなところがあるけれど、それでも表向きは敵同士だから、うっかり殺されるなんて事があるかもしれない。
と言うか、迷宮主だったとは言え元は普通の人間だった俺が大魔王になれるんだ。
俺が死んでも、第二第三の大魔王なんていくらでも用意できる現状、本気っぽさを見せるためにガチで殺しに掛かってくる可能性は高いと思っている。
……やはり、大魔王になる選択は寿命を縮める行為だっただろうか?
そんなことを思いつつ、ベリアルと挨拶を住ませた俺はニューヨークとラスベガスとバンクーバーとトロントを適当に回る。
所々悪魔を見掛けるが、別に人々の顔に悲壮感はなく、むしろ街には活気が溢れていた。
特にニューヨークは、少し前まで最強の魔王に占領されていたというのにそんな事を感じさせないほどに活気があった。
どうやったんだよ。逆に怖いわ……。
少し戦慄したけど、北アメリカの方は中々に良い感じだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます