戦いのあとは……
家に戻ると、タキエルはお風呂に入っている途中だった。
迷宮戦争の処理をしてから来いと言われたのは、恐らくする前に、準備をしようと思っていたからだろう。
俺は先んじてベッドに座って待つことにした。
……。
……。
ど、どうしよう。どうせなら俺も風呂で身体の隅々を洗ってからが良かったな。って言うか、まだ事前なのだ。今からでも遅くはないはず……。
いや、むしろいっそのことタキエルのお風呂中に突入するのはどうだ?
どうせ、後で互いに裸になるのだし。
いやでも、それで雰囲気が悪くなったら……。
そんなことを考えていると、タキエルがお風呂から出て――裸のままバスタオル一枚をまいただけというあまりにも無防備な姿で、俺の前に現れる。
「え、え? ま、マスターさん……お、思ったより早かったですね」
「え? あ、あぁ。まぁ……そんなに処理することもなかったしな」
……。
……。
沈黙が流れる。気まずいと言うよりも、緊張。タキエルは風呂上がりのせいなのか、白い肌は桜色に染まっていて、顔の方は真っ赤だった。
多分、俺も負けず劣らずあんな感じだ。
ぴょこぴょこ動く、悪魔の羽がかわいらしい。
「なぁ、その……羽、触っても良いか?」
「は、はい……どうぞ」
良いながら、ベッドに座る俺の前にちょこんと座り込んだタキエルはバスタオルをはだけさせ、背中を見せる。
白い背中の、肩甲骨の辺りから生えるコウモリのような皮膜。
しかし、コウモリにしろ鳥にしろその翼は人間で言う手の部分をその形に変化させているはず。
そう考えるとスゴく超自然的で、そしてそこから生える翼のラインはなんともエロティックな雰囲気を醸し出していた。
薄く生え揃ったさらさらの毛並みと、独特な付け根の感触。
そしてすべすべとした皮膜の触り心地。
「んっ。マスターさん……くすぐったいです」
「じゃあ、ここをこうすれば……」
「ん! ……あ、待って、それダ…あひゃひゃっ。んっ、いひひひっ、あっ、んっ、それ本当にくすぐった……んっ!」
感じているのかくすぐったがっているのか解らないような、タキエルの反応。
それでも、俺がそうさせているという事実が少し嬉しくて、そしてタキエルのその表情を見ていると少し意地悪したい気持ちが溢れてくる。
俺はそのままタキエルを抱きしめて、ベッドに倒れ込んだ。
夜は長い。それに、これだけの山場を超えたんだ。もういい加減邪魔も入らないだろう。
「タキエル……かわいいよ」
「マスターさん。大っ好きです」
「……俺もだ」
「私もです」
この日俺は、タキエルと交わり大人の階段を上った。
◇
「おはようございます、マスターさん」
目が覚めると、俺の布団の中には裸のタキエルがいた。……なんで!? ――寝起き故に少し驚いたが、昨日俺は童貞を卒業したことを思い出した。
ふぅ、アレは夢じゃなかった。
その事実に軽く安堵してから、タキエルにおはようと返した。
「……なんか作って、食べるか」
「あ、私も食べたいです!」
シュルルッ。
俺は服を着てから、キッチンの方へ向かって……なにを食べたいか自分の腹に相談しながら献立を考える。
オムレツとトースト、ついでにコンソメスープで良いか。
俺はアイテムボックスからタマネギとトマトとベーコンと調理器具一式を取り出した。鍋に水と、剥いたタマネギの皮を入れ火にかける。
そしてその間にタマネギとトマトをみじん切りに、ベーコンを適当なサイズに切っていく。
そしてフライパンの方で、ベーコンとタマネギを適当に炒める。
良い感じにお湯が沸騰したら、タマネギの皮を取り出して茶色く染まったお湯に炒めたベーコンとタマネギ、それにトマトを入れて、弱火にしてまた放置。
その間に、オムレツを作る。
卵――白蛇の分があるから八つボウルに割って、適当に顆粒コンソメをばらまいて味をつけてから混ぜる。
そしてさっきのフライパンをキッチンペーパーで拭いて、バターを敷いて火をかけたら卵を半分流し込んで、火が通ったら蛇腹状にたぐり寄せて空いたスペースに箸でバターを軽く塗ってから、残りの卵を落とす。
そして適当に形を整えて――かなり大きなオムレツが完成した。
あとはトースターにパンを放り込んで、その間にスープに顆粒コンソメを入れてコンソメスープを完成させた。
「できたぞ」
「やったー!」
シュルルッ。
テーブルに食事を並べて食べる。
「トマトの酸味がアクセントになって、スゴく美味しいですね」
タキエルが軽くリポートするのを眺めながら、スープを啜る。コンソメスープにトマトを入れるようになったのはいつからだったか。
そんな益体もないことを考えながら、美味しそうに切り分けられたほかほかのオムレツを頬張る白蛇を見る。
俺は料理を作っている時から少し考えていた。
聴く話によると、童貞を卒業する以前と以降では大きく世界が変わるのだという。曰く、視界が明るくなったとか、晴れやかになったとか。
しかし、俺にそんな実感はない。
どちらかと言えば頭がボーッとするまであるし、タキエルの挙動もむしろ以前よりエロくなく感じるまである。
ある意味世界は変わったのかもしれない。
一度経験したことによって、がっつく必要がないと本能が理解したのか俺のパトスはこれまでの人生で最も穏やかだった。
それは、最高に気持ちい孤高の戦闘を積んだ後のような感覚。
……昨夜の俺は今までしてこれなかった分を取り戻すように、それこそ一晩中しまくった。
トマトの酸味が加わったコンソメスープが身体に染み渡る。
……うん。聞いたところによると、セックスは一時間で2000Kcal消費するらしいが、昨夜はレベル99の上に補正値を上げて強化されたばかりの肉体故に調子に乗ってヤリすぎてしまったみたいだ。
何事も、過ぎたるは及ばざるがごとし。
この幸せな疲れを噛みしめながら、まぁ今日はタキエルと穏やかな一日を過ごすのも良いだろう。
「タキエル、これ食い終わったらゲームでもしようぜ」
「そうですね! 私たち、恋人になったのでここはがつんとエッチな罰ゲームでも賭けちゃいますか?」
「よし、絶対負けない」
前言撤回。俺は朝食をかっ込みながら、今日も頑張っていこうと内心活を入れた。
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