出迎えと初めて知る様々な事

「えっと、ではこちらへどうぞ」

 ひとまず休憩用に準備している部屋へ案内する。

「へえ、ここも中々良い趣味だね。家具は古そうだけど、どれも素晴らしいね。これはどこで?」

 部屋に入ったところで、これまた感心したようなロベリオの言葉に、レイは咄嗟に答えられずに執事のアルベルトを振り返った。レイは家具を買った覚えは無いので、この家具は元々この屋敷にあったもののはずだ。

「こちらの屋敷で現在使われている家具のほとんどは、元々この屋敷で使われていた家具でございます」

 心得ているアルベルトの説明に、ロベリオが感心したように頷く。

「ああ、やっぱりそうなんだ。じゃあこれはもしかして……この渦巻き模様は、セイシェル工房製の初期もの?」

 笑顔で頷く執事を見て、ロベリオだけでなく全員の口から感心したような声が漏れた。

「ううん、セイシェル工房製の初期ものの家具で統一された部屋。これまたすごいのが出たね」

 ユージンの呟きにアルス皇子をはじめとした大人組も感心したように頷いている。

 一人だけ、何の事だか全く分かっていないレイは、視線だけでニコスのシルフ達に助けを求めた。


『あのね主様』

『セイシェル工房は今から二百年以上前に創業した』

『装飾家具を専門に扱っている工房の名前だよ』

『繊細な装飾なのに丈夫で頑丈』

『その装飾は決して主張し過ぎない』

『もちろん家具自体の使い心地は抜群』

『その圧倒的な存在感と快適さは』

『装飾家具の王者とも呼ばれている』

『今も工房はあるよ』

『貴族達から圧倒的な人気を誇る』

『その工房の作品の中でも』

『創業当初から百五十年前くらいまでの家具を』

『初期ものと呼ばれていて』

『どれもアンティークに準ずる扱いを受けている』

『初期ものは特に人気が高く』

『貴族であっても簡単には手に入らない』


 ニコスのシルフ達が得意気に説明してくれる内容を聞いて、驚きに目を見開きつつも目の前に置かれたテーブルと椅子を見る。

 机の側面には、蒼の森の石の家の居間で使っていた机のような、細やかな蔓草模様が見事に彫り込まれている。

 椅子も同様で、背もたれの上部には対になるように細やかな紋様が彫られている。美しい曲線を描く脚はしかし揺らぐ事なくしっかりとしていてそれほどに古いものだとは到底思えないくらいだ。

 全体の色は艶やかな飴色になっていて、波紋のような不思議な木目は、その見事な紋様を天板の面に浮かび上がらせている。

 ごく小さな傷が数カ所に見受けられるが、それすらも模様の一部であるかの如く自然に馴染んでいる。

 確かに、それは年代を経た物だけが持つ独特の存在感と美しさを醸し出していた。



「さあ、どうぞ座ってください」

 いつまでもお客様を立たせておくのは失礼だ。

 そう思って皆に座ってもらうように促す。

 笑ったアルス皇子が一人用の大きめの椅子に座ると、大人組は大きめのソファーに分かれて座り、ロベリオ達は、二人用のソファーにそれぞれ座った。

 ヴィゴ一家は、手前側に並んで置かれていた二人用のソファーにヴィゴとクローディア、イデア夫人とアミディアの順で座った。

 その時、ノックの音がして別の執事が入ってくる。

「レイルズ様、遅れておられましたジャスミン様御一行が間も無く到着との事です」

「はい、今行きます」

 元気に返事を返し、執事達が冷たい飲み物を用意して配っているのを見た。

「それじゃあ少し寛いでいてください。僕は他の方のお出迎えに行ってきます」

「おう、ご苦労さん、まあ張り切りすぎないようにな」

 笑ったカウリの言葉に、レイは笑顔で頷いて一礼してから早足に部屋を出て行った。



「いやあ、張り切ってるねえ」

 感心したようなカウリの呟きに、皆も笑いながら頷いている。

「それにしても素晴らしいね。瑠璃の館の中がこんなに居心地がいいとは思わなかったよ」

 感心したようなロベリオの呟きに、隣に座ったフェリシア様も一緒に頷いている。

「まあ、元々の屋敷自体の拵えの趣味も良かったのだろうけど、彼の人柄が滲み出ているような館に仕上がりましたね」

 フェリシア様の言葉に、アルベルトが深々と一礼する。

 今のは褒め言葉としては最上級だろう。

 よく冷やされたカナエ草のお茶とベリーのジュースが入れられたグラスも美しく、これは切り子と呼ばれるガラスのコップの側面を削って格子状の文様を刻む手法でつくられたアンティークだ。

「食器の趣味もいい。これは食事が楽しみだね」

 ユージンの呟きにアルス皇子も笑顔で頷いていた。



 ジャスミンが到着したすぐ後に、ゲルハルト公爵夫妻とボナギル伯爵夫妻が順に到着した。

 久し振りの再会に、ボナギル伯爵夫妻とジャスミンはお互いの手を取り合って大喜びしていたのだった。

 そのすぐ後にヴァイデン侯爵夫妻とバーナルド伯爵夫妻も到着した。

 皆、休憩室へ案内する間に口々に玄関や廊下に飾られた装飾品や、休憩室の家具を褒めてくれて、そのたびに笑顔でお礼を言うレイだった。



「ええと、あとはディレント公爵夫妻だけだね。そろそろ予定の時間なんだけど、どうかなさったのかな?」

 予定では、もうそろそろ昼食会を始めようかと言う時間だ。

 料理担当の人達は、もしかしたら慌てているかもしれない。

「ねえシルフ、ディレント公爵ご夫妻はどうなさったのかな?」

 少し考えてレイは目の前を飛び回っているシルフ達にそう尋ねた。


『ちょっと遅れた』

『遅れた遅れた』

『キュウヨウだって言ってた』

『言ってた言っていた』

『今こっちへ向かってるよ』

『向かってる向かってる』

『遅れてしまって申し訳ないって言ってる』

『言ってる言ってる』

『間も無く到着するよ』

『到着到着』


「そっか、じゃあ大丈夫だね。この暑さ続きだから、お加減でも悪くなられたのかと思ってちょっと心配だったんだ。御用だったら仕方がないよね」

 安心して笑ったレイは、最後の一組を出迎えるために早足で玄関へ向かうのだった。



『うん、今のところは完璧だな』

『主様張り切ってるね』

『頑張れ頑張れ』

 笑ったブルーの言葉に、ニコスのシルフ達も嬉しそうに笑って頷いているのだった。

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