お披露目会の予定

「ねえ、ラスティ。瑠璃の館にお招きする方のリスト作りを手伝ってください!」

 部屋に戻った途端に振り返ってそう言われ、そう来るだろうと予想していたラスティは、一生懸命なレイの様子に笑顔で頷いた。

「もちろんです。朝食の後、グラントリーにも先生役で来てもらう事になっていますから、お客様をお招きする際の注意事項なども一緒に覚えてくださいね」

 剣を外して剣置き場に立て掛け、剣帯も外していつもの金具に掛けてからソファーに座ってブルーの色のクッションに抱きつく。

 一息つく間も無くすぐにグラントリーが来てくれて、そこからラスティも一緒に招待客のリスト作りが始まった。



「えっと、出来ればディーディーとニーカも呼びたいんですけど、良いですか? カウリは、呼ぶなら昼から夕方までにするように言われたんですけど」

 その際に、送り迎えの馬車を用意するように言われた事も話す。

 真剣なレイの言葉にグラントリーが頷く。

「さすがですね。カウリ様の仰る通りです。巫女様方をお招きするのなら送り迎えは当然です」

 それから、マークとキムには出来れば泊まって欲しい事も伝え、まずはレイが呼びたい方々を書き出していくことになった。

「気にせず、とりあえずレイルズ様がお招きしたい方を書いてください」

 ラスティに言われて、レイが万年筆を手にする。

「ええと、ディーディーとニーカ、それからジャスミン。マークとキム、アルジェント卿とお孫さんが……」

 ぶつぶつと呟きつつ、真剣に知り合いの名前を書き出していく。

 まだまだ広がったとは言ってもレイの付き合う人達は、貴族の中でも軍人の中でもごく限られている。

 予想通りの人の名前を次々に書いていくレイを、ラスティとグラントリーは黙って見つめていた。



「えっとこれで全部だと思います。すごく沢山になっちゃいました」

 困ったように差し出されるリストを受け取り目を通したラスティとグラントリーは、顔を見合わせて頷き合った。

 それから一人ずつレイに確認をとりながら、実際にお招きして良いかの判断をしていった。




「これで問題無いかと思いますね」

 一通りの精査が終わり、改めて書き出したリストを手にグラントリーが頷く。

 身内である竜騎士隊の人を除けば、リストに書かれているのは精霊魔法訓練所での友人達や巫女様方と主だった貴族とその子供達。それだけしかない。

 レイはまだ実家のしがらみや貴族間の勢力争いとも無縁だ。なのでこのリストはそのまま、今のレイルズの交友関係を示してもいた。

「さすがにこの人数を一度にお招きすると、招待主であるレイルズ様がせっかく来ていただいたお客様とお話が全く出来ないような状態になりますので、四日程度に分けて順番にお招き致しましょう。初日は竜騎士隊の皆様とディレント公爵夫妻やゲルハルト公爵夫妻、ヴァイデン侯爵夫妻など、主だった貴族の方々をお招きするのがよろしいかと。この日は昼食は天気が良ければ庭にテーブルを出して立食式で行い、夕食は改まった席を設けて大広間で盛大に行います。二日目には初日にお越しになれなかった方々と、倶楽部のお知り合いの方々をお招きするのが良いですね。天文学のアフマール教授をお招きになるのなら、星の友の倶楽部の方々と一緒の日程にしておきます。三日目の午前中にマーク軍曹とキム軍曹、巫女様方をジャスミン様と一緒にお招きして、昼食を庭で召し上がりいただきましょう。そうすればご友人方とゆっくりお話が出来るでしょう。続いて午後からそれ以外の訓練所の貴族の御子息や軍人などのご友人をお招きするのがよろしいですね。マーク軍曹とキム軍曹のお二人には、そのまま屋敷にお泊まりいただけば翌日は午前中ならばゆっくりしていただけましょう。そして午後からアルジェント卿とお孫様方、イデア夫人とクローディア様とアミディア様など、お子様方をお招きしましょう。ライナーとハーネインも初日のお父上と一緒の時ではなく、アルジェント卿のお孫様方とご一緒にお招きするのがよろしいでしょうね」



 恐らく、レイが招待したいと言うであろう人をある程度予想していたラスティとグラントリーだったので、ほぼ予想通りの顔ぶれに安堵した二人は、予め考えていた予定をそのまま提案した。



「分かりました。じゃあそれでお願いします。えっとそれなら僕は、あとは招待状を書けばいいんですか?」

「招待状はこちらでご用意いたしますので、レイルズ様は宛名とサインをお願いいたします。それで肝心の日程なのですが……」

 そう言ったグラントリーが、神殿が発行している月割り表を持ってくる。

 これは、ひと月ごとの星と月の運行に合わせて計算して割り出された良き日と忌み日などを記した表だ。レイも天文学の暦の授業で何度も使っている。

「今月末の三十日にロベリオ様の結婚式が、八の月の十五日にユージン様の結婚式となっております。この日がどちらも一番の良き日となっております。ですが当然この日は使えませんので、そうなるともう今月はあまり良い日がございません」

 レイも月割り表を覗き込んで頷く。



 婚儀やお披露目会などの改まった事を公に行う場合、貴族達は日取りを決める際に、必ずこの月割り表を使う。

 出来るだけ良き日に行い、忌み日は避ける。これは貴族の当然の決まり事で、守らないという考えは無い。

 星や月の事は何も知らない貴族の人達は、これらがどうやって決められているのか理由は知らなくても、月割り表に書かれた良き日と忌み日を当然のように受け入れて、それぞれの予定を決める際の指針にしているのだ。

「ですので、次の良き日はここになりますね」

 そう言ってグラントリーが示したのは、来月八の月の二日だった。

「じゃあ、その日でお願いします!」

 即答するレイに、グラントリーとラスティも笑って頷いてくれた。

 今回のように、同じ予定を数日にかけて行われる場合には、初日の日が重要になる。

 なので、今回は八の月の二日から四日間、瑠璃の館のお披露目会を行う事が決定した。



「このリストをルーク様や竜騎士隊の皆様にも見ていただいてください。きっと、また違った意見が聞けると思いますよ」

 グラントリーの言葉に、レイは笑顔で頷くのだった。

 それから、改めてお披露目会での注意事項の詳しい説明もしてもらった。

 今までの机上の勉強と違い、実際に自分がすると分かっている事なのでレイも必死になって聞き、遠慮なく質問していた。

 そんな彼を、ソファーの背に並んで座ったブルーのシルフとニコスのシルフ達は、嬉しそうにずっと見ていたのだった。

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