様々な付き合い方

「何だ。分かってたんだ」

 からかうようなマイリーの言葉に、ルークは誤魔化すように咳払いをして小さく首を振った。

「まあ、あれに関しては自分でも酷い態度だったと思いますよ。何しろ途中からは引っ込みがつかなくなってほとんど意地になっていましたからねえ。でも正直に言うと、あの時の俺はこう思っていたんですよ。俺は悪くない。悪いのはあっちだって。これって完全に拗ねて甘えている子供の思考ですよね。それも、本気で怒った公爵が俺をどうにかするとは全く考えていないっていう、完全に甘えた思考ですよね」

「そこまで分かってるんなら、もう今更、俺が何か言う事は無いな」

 笑ったマイリーの言葉にルークも笑って頷く。

 そんな二人を見てレイはしばらく沈黙した後、眉を寄せてルークを見た。

「つまり、本当ならルークも公爵に挨拶くらいはすべきだった?」

「すべき、じゃなくて、やらなきゃいけなかった。ってとこだな。だけど結果としては、無視された側の公爵が俺のその行為を認めていたから、俺にお咎めが来ることはなかったわけだ。わかるか?」

「それで、最後には周りが手配して会わせないようにしていた?」

 無言で笑いながら頷くルークを見て、レイは戸惑うようにマイリーを見た。

「俺は何度もルークに、子供みたいな真似をするなと叱ったよ。だけど叱れば叱るほどルークはムキになって公爵を無視し続けた。まあ、もう最後には構わないから放っておけと公爵自身に言われて、俺達も半ば諦めて放置してた訳だ」

 あの花祭りの日のロベリオ達の慌てっぷりを思い出してレイは黙って頷いた。

「お父上と仲直り出来て良かったね」

 その無邪気な言葉に、ルークは一瞬目を見開き、それから大きなため息を吐いてレイに寄りかかるようにして抱きついてきた。

「まあ、父上との事に関しては感謝してるよ。だけどまあ、俺の話は極端な例だけど、こういうのはそれこそ大人の事情が裏で色々と絡むから、結局のところこうすれば良いっていうのが無いんだよな。誰かさんが苦手な、正解が一つじゃない対応な訳だ」

「うう、何となく分かった気はするけど、やっぱり分かりません!」

「とりあえず、今夜のところはにっこり笑って挨拶出来ればそれで良いよ」

「何とか頑張ります。それでティミーに関する事を言われたら僕はどうすれば良いですか? 話して良い事って何ですか?」」

 二人を交互に見て、レイがちょっと困ったように尋ねる。

「まあ、今の所は、竜の面会期間が終わればティミーが竜騎士隊本部へ引っ越してくる事、それから精霊魔法訓練所へ通うって事は、聞かれれば言って良い。それ以外はロベリオが指導担当になった事くらいだな。それ以外で、何か具体的な質問をされたら、自分は知らないで押し通していいぞ」

 ルークの答えにレイが頷く。


『執事のマーカスの事は言っても良いかどうか聞いて』


 突然、ニコスのシルフが目の前に現れてそう言うのを聞き、小さく頷いたレイは慌ててまだ自分に寄りかかっているルークを見た。



「ねえルーク、一つ質問です」

「おう改まって何だ?」

 起き上がって自分を見るルークと目が合う。

「えっと、執事のマーカスが、ティミーと一緒に本部に来る事は言っても大丈夫ですか?」

 一瞬目を瞬いたルークは、にんまりと笑った。

「おお、そこに気付いたか。大丈夫だ。もしも聞かれたら話しても構わないよ。実家から執事や護衛の者を連れて来るのはロベリオ達もやってるからな」

 目の前ではニコスのシルフがウンウンと頷いている。

『聞かれなければ言わなくて良いからね』

 視線に気付いたニコスのシルフにそう言われて、頷いたレイはそのままソファーの背もたれにもたれかかった。

「うう、何だか急にいろんな事が複雑になった気がする」

 情けない声でそう呟くレイに、ルークが笑ってその額を叩いた。

「まあ、難しく考えるな。今はこういった考え方もあるんだって覚えておいてくれればいい。ティミーに関しては、言った程度の事しか自分は知らないと言えばいいさ。あとはそうだな、遠乗りに行った話なんかはきっと喜ばれると思うから、ティミーの事で話題に困れば話しても構わないぞ」

「アルジェント卿のお孫さん達やライナーとハーネインも一緒に行ったって事も話して良いですか?」

「もちろん構わないよ。元々あの子達が仲良しなのは、皆知ってるからね」

 向かい側から聞こえたマイリーの声に、レイは笑って頷いた。

「分かりました。それなら何とか今夜の夜会は頑張れそうです」

「おう頑張れ、まあいざとなったら竪琴の演奏時間を長くして乗り切れ」

 そんなに長い時間演奏する曲がないと文句を言おうとすると、また目の前にニコスのシルフが現れた。


『そんなの彼は分かって言ってるのよ』

『これはつまりそれくらいのつもりで』

『気軽に行ってこいって言ってくれているのよ』

『分かった?』


 どうやらこれも、レイの苦手な表現だったみたいだ。

「分かりました、じゃあ僕が知ってる曲をありったけ弾いてくる事にします」

 笑いながら頷くレイを見て、向かいに座っていたマイリーが吹き出し損ねて咳き込んでいたのだった。

「良いぞ、レイルズもなかなか言うようになったじゃないか」

 口元を押さえてまだ笑いながら、ようやくレイが冗談に冗談で返したのだと気付いたルークが大喜びでレイの頭を撫でているのを見て、マイリーは満足気にそう呟くのだった。

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