本読みの会と精霊魔法講習会
「さて、それじゃあここへ来た目的の、書斎へ行こうか」
それそれにしっかりと食事を楽しみ、デザートまで綺麗に平らげた一同は、ルークの言葉に頷いて立ち上がって書斎へ移動した。
「おお、また本が増えているなあ。こりゃあ凄い」
書斎に入ったルークの言葉に、隣に並んで本棚を無言で見つめていた若竜三人組が揃って頷く。
入った正面の書斎の壁一面は天井まで全面が本棚になっていて、彼らの記憶にあるよりもさらに多くの本で埋まっていた。
ぎっしりと新旧入り混じった本の数々を見て、全員が目を輝かせる。
「精霊魔法に関する本はこっちだよ。この箱に入れてある分は、僕達が午前中に読んだ分です」
レイの説明に、我に返った四人が競い合うようにして移動階段を駆け上がって本棚を漁り始めた。
「じゃあ、僕はさっき読みかけていたこれを読もうっと」
机の上に置いてあった本を手に取り、真剣に読み始める。ティミーもさっきの席へ座り、書きかけていたノートを開き、しおりを挟んでいた大きな経済学の本を開いて、せっせとノートに書き写し始めた。
それぞれが好きな本を何冊も確保して好きな席に座る。
ルークは一番大きなソファーを占領して、彼でも両手で抱えなければ持てないくらいの分厚くて大きな精霊魔法に関する本を取り出して読み始めた。
しばらくは静かな時間が過ぎる。
肩の上や頭の上、それから本を持った手の上などには、彼らの伴侶の竜の使いのシルフがやってきて座り、夢中になって本を読む主と一緒に、こちらも夢中になって横から覗き込むようにしながら本を読んでいたのだった。
「今は何を読んでいるんだい?」
自分の読んでいた本が一段落したロベリオが、ティミーの横に座って彼の読んでいる本を覗き込む。
彼が先ほどまで必死になってノートを取っていた大きくて分厚い経済学の本は、今は閉じられていて、また別の本を読んでいる。
「はい、ちょっと頭の中が一杯になったので、休憩です」
照れたように笑って手にしていた本の表紙を見せる。
それは先ほど読みかけてすぐに放置してしまった、初心者向けの精霊魔法の入門書だ。
この本は全く精霊魔法や精霊達に関する知識の無い人のために書かれた、いわば一番最初に読む為の入門書なので、それこそシルフとはどんな精霊か、といった事に始まり、時には美しい版画の挿絵入りでそれぞれの精霊達の見かけの姿やそれぞれの特性や気性、主だった好みなど、具体例を挙げた詳しい説明がなされている。
文字通り初心者向けの本なので、実際の実技に関する事などはほとんど書かれておらず、まずは精霊魔法とは何か、そして精霊達との関わり方などが詳しく書かれている一冊なのだ。
「ああ、これは読んでおくべきだね。どう、シルフ達とは仲良く出来そうかい?」
今も彼らの周りには、呼んでもいないのに大勢のシルフ達が集まって来て、積み上げた本に座ったり、ティミーの頭の上に座ったりして好きに遊んでいる。
中には、彼のノートの端っこを掴んでページをめくろうとしている子達もいた。
「こらこら、それで遊んじゃあ駄目だって。ほら、こっちの本ならめくっても良いぞ」
笑ったロベリオは、近くの本棚から手の平ほどの大きさのそれほど分厚く無い本を持って来て、彼らから少し離れた場所に置いた。
これは、野外へ出る際にも携帯出来るように小さく作られた植物図鑑で、実際の植物をそのまま写し取ったかのような精密な版画の挿絵が数多く入っていて、見ているだけでも楽しい一冊だ。
嬉々として表紙をめくったシルフ達は、現れた色付きの美しい植物の挿絵に大喜びで、中にはうっとりと見入ってしまう者達まで現れ始めた。
『素敵な本』
『綺麗な本』
『葉っぱが一枚』
『一枚だけだね』
『一枚一枚』
『お花もあるよ』
『綺麗なお花』
『綺麗綺麗』
『とても詳しい』
『本物そっくり』
『でも本物じゃ無いね』
『無い無い』
『変なの変なの』
『でも綺麗』
『綺麗綺麗』
『素敵素敵』
ページをめくる度に現れる美しい様々な植物達の挿絵に、シルフ達は大喜びだ。
するとそれを見た他のシルフ達まで集まって来て逆に机の一部を占領されてしまい、苦笑いしたロベリオとティミーは、それぞれ持っていた本を抱えてルークの座っているソファーの隣に置かれたもう一台のソファーに移動した。
ソファーに並んで座り、ティミーが読んでいる横から、ロベリオが精霊達を実際に呼んで見せてやりながら、彼と話をさせてやったりもしていた。
しばらくすると、別の精霊魔法の入門書を持ったユージンがティミーの隣に座り、ロベリオと一緒に左右からティミーを挟んで読んでいる本に書かれた内容の詳しい説明をしたりし始めた。
どんな質問にも嫌がる事も、そんな事も知らないのかと笑う事も無く丁寧に教えてくれる二人に、最初のうちこそ、くだらない事を聞くなと叱られたらどうしようかと緊張していたティミーだったが、途中からはもう身を乗り出すようにして、夢中になって思いつくままに質問し続けていたのだった。
そして、途中からはまた別の本を持ったレイとタドラも椅子持参で参加して、生徒一人に先生役が四人という、なんとも贅沢な精霊魔法の初心者講習会が開催されていたのだった。
「相変わらず、うちの若い連中は面倒見が良いねえ」
読んでいた本から顔を上げたルークは、隣のソファーに集まって仲良く楽しそうに話をする彼らとシルフ達を見て、満足そうに頷き小さく笑ってそう呟いたのだった。
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