お休みの日
『寝てるね』
『寝てるね』
『起こすの?』
『起こすの?』
『どうする?』
『どうするどうする?』
枕に抱きついて気持ちよさそうに熟睡しているレイの枕元では、いつものシルフ達が笑いながらレイの髪の毛を引っ張りながら相談をしている。
『今日は起きなくても良いらしいぞ。構わないからゆっくり寝かせてやれ』
レイの頬にキスをしたブルーのシルフの言葉に、顔を見合わせたシルフ達が嬉しそうに頷き合う。
『そうなの?』
『そうなの』
『じゃあ寝られるね』
『寝る寝る』
『一緒一緒』
笑ったシルフ達は揃ってレイの胸元や襟足。それから服の袖などにいそいそと潜り込み、一緒に寝るふりを始めた。
『朝だけどおやすみ〜!』
『おやすみなの〜!』
楽しそうにそう言って笑っているシルフ達を見て、出遅れて入る場所が無くなった子達はレイの髪の毛を束ねて遊び始める。
床に置かれた毛足の長い絨毯を編み始める子達もいて、カーテンの隙間から朝日が差し込む部屋は、時折聞こえるシルフ達の楽しそうな笑い声に包まれたのだった。
「ううん……」
一度だけ呻くような声を上げたレイが、寝返りを打って反対向きになり、今度は横に転がっていた青いクッションに力一杯抱きつき顔を擦り付ける。
そのまままた眠ってしまったレイの周りには、動いた拍子に慌てて飛んで離れたシルフ達が次々に集まってきて、また一緒に眠る振りをしたり、レイのふわふわな髪の毛を結んだり絡ませたりして遊んだりし始めた。
「あれ……部屋が、明るい?」
不意に目を覚ましたレイは、見た事の無い青いクッションを見つめて固まってしまった。
「ええ! 待って、ここ何処?」
クッションを抱えたまま腹筋だけで飛び起きたレイは、いつもの見慣れた本部の自分の部屋を見回して大きなため息を吐いたあと、そのまま呻き声を上げて背中からベッドに倒れ込んだ。
「うう、頭痛いよお。えっと、これは二日酔いだね」
こう何度もなれば嫌でも分かる。これは間違い無く二日酔いの頭痛だ。
「えっと……昨日、夜会の後、ルークと一緒に飲み会に連れて行ってもらって、えっと……それからどうしたっけ?」
痛む頭を抱えつつ、昨夜の出来事を必死になって思い出そうとする。
「駄目。なんだか記憶が断片的でよく覚えてないや」
そう呟いて大きなため息を吐いたあと、目を閉じる。
「駄目、やっぱり頭が痛い」
もう一度唸って、クッションに改めて抱きつく。
しかし、しばらくの沈黙の後、何度か瞬きしてからゆっくりと起き上がり、抱えたままになっていた見覚えの無い青いクッションを見る。
「えっと、これ初めて見るけど、どうしてベッドにあるんだろう。抱き心地は凄くいいんだけど……?」
首を傾げて考えていると、目の前にブルーのシルフが現れて座った。
『おはようレイ。まずは良き水を飲みなさい』
笑ったブルーのシルフが、ベッドサイドに置かれた空のグラスを指で示す。
「あはは確かにそうだね。えっと、ウィンディーネ、良き水をお願いします」
手を伸ばしてグラスを手にしたレイの言葉に、グラスの縁に現れたウィンディーネが笑って手を叩く。
一瞬で良き水で満たされたグラスを見て、ウィンディーネは満足そうに頷いて消えていった。
「ありがとうね」
笑ってそう言うと、大きく深呼吸をしてからゆっくりと飲み干す。
「もう一杯お願いします」
またウィンディーネが現れて良き水を出してくれるのを見て、もう一度お礼を言ってから今度は一気に飲み干す。
「美味しい。もう一杯お願いします!」
嬉しそうにそう言い、結局もう一度出してもらってようやく頭痛が引いた。
「はあ、何とか痛いのは引いたみたい。でもまだちょっと……」
グラスを戻してベッドに転がると、無意識に青いクッションを抱えて大きなため息を吐く。
「ねえブルー、今何時?」
『少し前に十一点鐘の鐘が鳴っていたな。もうそろそろ日は頂点になる時間だよ』
笑ったブルーのシルフの答えに、レイはベッドに横になったまま笑った。
「あはは、ここまで寝過ごしたのって初めてかも。でも、ラスティが起こしに来ないからもうちょっと寝る〜」
楽しそうにそう言うと、クッションを抱えたまま向きを変えた。
それから大きな欠伸をして目を閉じる。
「起こしに来たら、起きるもん……ね……」
すぐに気持ちの良い寝息を立て始めたレイを見て、笑ったブルーのシルフはふわりと飛んで来てうつ伏せになったレイの肩をそっと押して体を起こしてやる。
『まあ、せっかくの休日だ。好きなだけ眠ると良いさ。しかし、全く気が付いていないようだったが、今日のはまたすごい寝癖だな』
笑いを堪えたブルーのシルフの言葉に、集まって来たシルフ達が得意気に胸を張る。
『良いでしょ?』
『いいでしょ?』
『今日の三つ編みは自信作』
『可愛い可愛い』
『ふわふわ』
『可愛い可愛い』
『くしゃくしゃ』
『可愛い可愛い』
手を取り合って楽しそうに可愛い可愛いと言いながら笑っているシルフ達を見て、ブルーのシルフも堪えきれずに吹き出した。
『確かに可愛いな。ではまた髪を梳く時には手伝ってやるとしよう』
それを聞いたシルフ達は、大喜びでまたレイの髪に潜り込んでいった。そして、あちこちで絡ませた髪の毛を更に絡ませて遊び始める。
左右のこめかみは、既にこれ以上ないくらいの細くて繊細な三つ編みが編まれていてもう遊ぶ場所が無い。
手の空いた子達は、床に置かれた毛足の長い絨毯に飛んで行って、こちらもまたせっせと三つ編みを始めるのだった。
もう一度目を覚ましたレイは、今度は大きな欠伸をした後に起き上がって腕を伸ばして思いっきり伸びをする。
「うん、もう頭痛は無くなったし、喉の乾きもない。よし、復活!」
小さく呟いて起き上がると、ベッドから降りて窓辺に向かう。
さっきは気が付かなかったが、カーテンは閉じたままだったが窓は開けられていて、一気にカーテンを開くと午後の明るい光と一緒に、そろそろ気温が高くなってきたせいで熱気を帯びた風が部屋に吹き込んで来る。
「うわあ、爽やかな風ってわけにはいかなかったね」
寝巻きの胸元を摘んでパタパタと動かし空気を送る。
それを見て笑ったシルフ達が、部屋に爽やかな風を送ってくれた。
「あはは、ありがとうね」
そう言ってシルフにキスを贈ったレイは、聞こえたノックの音に笑顔で振り返った。
「おはようラスティ。ねえ、僕お腹が空きました!」
しかし部屋に入ってきたラスティは、豪快な寝癖のおかげで大きな鳥の巣みたいになったレイの頭を見て、堪えきれずに大きく吹き出したのだった、
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