観兵式の会場へ!
「じゃあ、あとはしっかり鍛えてもう少し筋肉を付けるだけだな」
笑ったヴィゴに思い切り背中を叩かれて、レイは悲鳴をあげて仰反りマイリーの背後に隠れてしゃがみ込んだ。
「体がデカくなっても、ああ言うところは年相応で安心するよ」
苦笑いするルークの言葉に、盾にされたマイリーも呆れたように笑って頷くのだった。
「ほら、いつまでも遊んでないでさっさと準備しろ」
ルークに背中を叩かれて慌てて立ち上がる。
見るといつの間にかヴィゴ達も着替えを済ませていて、レイは慌てて自分の剣帯にミスリルの剣を装着した。
「はい、これで結構ですよ」
最後に袖口にカフリンクスを取り付けてもらい、待ってくれていたカウリの隣に並ぶ。
「お待たせ致しました!」
直立して敬礼しながらそう言うと、全員揃ってお手本のような敬礼を返してくれた。
「それじゃあ、準備が出来たみたいだから行こうか」
顔を上げると、扉の前に同じく第一級礼装のアルス皇子が立っていた。
アルス皇子を先頭に中庭に出ると、準備を終えた竜達が中庭に並んで待っていてくれた。
ブルーは上空を旋回している。
『皆が上がったら行くので、そこで待っていなさい』
ブルーのシルフが現れて、レイの頬にキスをしてそう言ってくれた。
「分かってるよ。全員の竜が中庭に出たら、ブルーの降りられる場所は無いもんね」
キスを返してそう言い、上空のブルーに手を振る。
去年、観兵式を見た時に竜達が装備していたような、体や首元を守る鎧をブルーも装備している。
ブルーの巨大な体に合わせて鎧を作るのはさぞかし大変だっただろうなと、思わずロッカ達の苦労を考えてしまったレイだった。
次々に準備の出来た竜達が、それぞれの主を乗せて上昇する。
アルス皇子の乗る巨大なルビーが上昇したのと入れ替わるようにして、ブルーが降りて来てくれる。
「ブルー、それすっごく格好良いよ」
立派な鎧を装備したブルーを見て、レイは大きな頭に飛びつきながらそう叫んだ。
「そうか? 少々窮屈だが、其方がそう言ってくれるのなら嬉しいな」
「あれ、窮屈なの?」
窮屈そうには見えないが、もしかしたらぎゅうぎゅうに締め上げているのだろうか?
「別に、締め上げているわけでは無いのだがな。今までこんな物を身につけた事が無いので、初めは戸惑ったぞ」
笑いながらそう言われて、レイも笑顔になる。
「そっか。千年生きても、初めての事ってあるんだね」
目を瞬いたブルーは、面白そうに喉を鳴らした。
「確かにその通りだな。其方といると退屈する間がないな」
声を上げて笑ったレイは、もう一度ブルーの頭にしっかりと抱きついてキスを贈った。
『おおい、仲が良いのは結構だけど、そろそろ上がって来ないと間に合わなくなるぞ』
笑みを含んだルークの声が耳元で聞こえて、慌ててブルーの背中によじ登った。
「お待たせ。じゃあ行こう。ブルー」
そっと首を叩いてそう言うと、大きく翼を広げたブルーは一度だけ羽ばたきそのままゆっくりと上昇した。
上空で、アルス皇子を先頭に綺麗に隊列を組む。最後にブルーが最後尾についてそのまま観兵式の会場へ向かった。
大歓声と拍手が沸き起こり、整列した兵士達とお城にいた多くの人達が中庭に出て飛び去る竜達を見送った。
「そろそろ時間かな」
早めの昼食の後、指定の場所で整列していたマークは、キムの呟きに大きく深呼吸をした。
今、彼らがいるのは城の前方部分に展開する第二部隊の駐屯地内にある広場だ。
ここから軍楽隊を先頭に、一の郭にある花祭り広場まで行進するのだ。それから、広場で全員で陛下に剣を捧げた後、マークとキムの二人は、大勢の人達が見ている前で精霊魔法の合成と再合成を披露するのだ。
正直言ってこれ以上無いくらいに緊張しているが、それでも以前のように体が震えたり食事が喉を通らないと言った事は無かった。
だって、今日は竜騎士隊の人達が一緒になって実演をしてくれるんだから。
しかも、最初にマークとキムが考えていた以上の事をルーク様から提案されてしまい、もう一も二も無くお願いしたのだ。
「今日はよろしくな」
彼の興奮具合に感化されたのか、勝手に指輪から飛び出して来た光の精霊達が、勢いよくマークの頭上を飛び回っている。
マークの呼びかけに、クルクルと楽しそうにその場で回転した光の精霊達は、嬉しそうに一瞬だけ光ってマークの頭の上に三人並んで座った。
「なんだよ、そこが良いのか? レイルズの頭と違って、俺の髪は硬いから座り心地は悪そうだけどな」
小さく笑ってそう言うと、マークの呟きが聞こえたらしい光の精霊達の笑う声が彼の耳にも聞こえてまた笑った。
「それでは出発します。各々、しっかりと己の役目を果たされますように!」
拡声の技で大きく響く声が広場いっぱいに響き渡り、整列していた兵士達が一斉に改めて直立した。
軍楽隊の演奏する音が聞こえて来て、先頭の部隊が広場から出ていくのが見えた。
「いよいよだな」
「おう、頑張ろうぜ」
マークとキムはそう言って笑うと違いの拳をぶつけ合った。
「うわあ、広場いっぱいに整列してる。部隊ごとに制服の色が違うからすごく綺麗だね」
隊列を組んだまま花祭り広場の上空まで来た時、眼下に広がる見事な景色にレイは思わずそう呟かずにはいられなかった。
マーク達の着ている第四部隊の色の制服は、こうやって見ると明らかに人数が少ないのもよく分かった。
観客席から聞こえる大歓声に、去年の事を思い出して嬉しくなる。
きっと、アルジェント卿やマシュー達もどこかにいるのだろう。もしかしたらティミーも、お母上と一緒に見てくれているかもしれない。
去年よりも大切な人がたくさん増えたレイは、胸が一杯になって思わず手を伸ばしてブルーの首元を撫でた。
「ん? どうかしたか?」
首を上げて振り返ったブルーに、レイは笑って首を振った。
「何でもない。大好きだよ、ブルー」
目を細めて喉を鳴らすブルーに、もう一度レイはそっと手を伸ばして滑らかな鱗が重なるその身体を撫でてやった。
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