夕食会とルークの友人
「ようこそお越しくださいました」
玄関に横付けされた馬車から、レイとアルジェント卿が順番に降りる。
ここは門から正面玄関の上部分にまで大きなアーチ状の屋根が続いている為、馬車から降りても濡れる事が無い。
出迎えた執事の案内で、そのまま屋敷の中に入る。
ここへ来るのは、竜騎士見習いとして紹介された時以来だ。
あの時はここへ来たら、クラウディアとニーカがいて驚いたが、残念ながら今日は彼女達は来ていないようで、代わりに応接室で出迎えてくれたのは、笑顔のディレント公爵閣下ともう一人、閣下によく似たやや痩せ型の青年だった。
「ようこそ。待っておったぞ」
「お招きいただきありがとうございます」
ディレント公爵閣下と笑顔で握手を交わし、隣に立つ青年を見る。
背はレイルズほどではないが、成人男性としては充分大きいと言っていい高さだ。年齢はおそらくルークとさほど変わらないくらいだろう。
「ユリウス・ダッカードです。初めまして。どうぞユーリとお呼びください」
笑顔で差し出された手を握り返す。大きな手は柔らかく、その中指には大きなペンだこが出来ていた。腰に剣は無く柔らかな手と大きなペンだこがある事を考えると、彼はお城の文官の方なのだろうと思われた。
「初めまして、レイルズ・グレアムです」
笑顔で一礼すると、ユーリ様も笑ってくれた。
「彼は公爵家の嫡男、つまり私の後継ぎでな。オルベラートに留学していたのだが、ティア妃殿下の輿入れに合わせて一緒に帰国してきたのだよ。帰国後ちょっと体調を崩しておってな。式の時以外は大人しくしておったのだ」
「ええ、大丈夫なんですか?」
驚いてユーリ様を振り返ると、苦笑いした彼は何度も頷いた。
「私はちょっと喉が弱くてね。油断するとすぐに咳が出て熱が出るんだ。でもそれだけだから大丈夫ですよ。しばらく元気だったからちょっと調子に乗ったみたいでね。おかげでせっかく帰国したのに、まだ友人達とも全然挨拶出来ていないんだ。結婚式の時に会えた何人か以外には、絶対帰って来てないと思われてるよ」
「そうだったんですね。どうかご無理なさらないでください。お大事に。是非、後でオルベラートのお話を聞かせてください」
見習いになってからの挨拶回りでは一度もお会いした事が無かったので、どうしてなのか不安だったレイはそれを聞いて納得した。
「あれ、ところでルークは一緒じゃあないんですか? 会えるのを楽しみにしていたのに」
レイとアルジェント卿と挨拶を交わしたユーリ様が、彼らの後ろを見て残念そうにそう言っている。
「ああ、彼は城から直接来ると言うていたからな。まあ、待っておればそのうち来るさ」
閣下のその言葉に、夕食にはルークも来るのだと分かってレイも嬉しくなった。
「夕食まではまだ少し時間もあるからな。まあ座ってゆっくりしていなさい」
執事に案内されたソファーに座る。
ここは初めてこのお屋敷にご挨拶に来た時に通されたのと同じ部屋で、ここでディーディー達やルーク、それから公爵閣下と一緒に演奏会をしたのだ。
「今日は、野郎ばかりで申し訳ないな」
レイの考えている事などお見通しとばかりにからかうような声で公爵閣下にそう言われて、レイは真っ赤になって必死で首を振って、三人から笑われたのだった。
その後、執事が入れてくれた紅茶をいただいているとルークが到着した。
「ああ、もう来ていたんだな。雨が止まないな。すっかりびしょ濡れになったよ」
苦笑いしながらそう言っているが、どこも濡れた様子は無い。
「シルフ達とウィンディーネ達に乾かしてもらったんだね。ご苦労様」
彼の周りを飛び回っているシルフ達に笑顔で話しかけると、彼女達だけで無くルークの足元に現れたウィンディーネ達までが、得意げに胸を張って笑っている。
「まあ、雨の日に外出すると彼女達のありがたみを思い知るよな」
そう言ったルークも、彼女達を見て手を振って笑っている。
その後はルークも加わり、紅茶を飲みながらユーリ様からオルベラートの大学での話を詳しく聞いて過ごした。
その際に聞いて驚いたのだが、ルークとユーリ様は一年違いでルークの方が歳が上で、実は二人は仲の良い友人同士だと言うのだ。
「父上とルークが仲違いしている事は当然私も知っていたよ。周りでは彼の事を好き勝手に悪く言う奴も多かったんだけれど、私は彼とどうしても直接会って話をしてみたくてね。それで卿にお願いして密かに会う機会を作ってもらったんだ。色んな話をしているうちに不思議な事に意気投合してね。それで父上には内緒でシルフを通じて連絡を取り合ったり、卿にお願いして密かに会う場所を借りたりしていたんですよ」
「密会って呼んでたよな」
笑ったルークの言葉に、ユーリ様も笑って頷いている。
「そうそう、あれはもう二人とも完全に隠れて会う事自体を楽しんでいたよね」
「でもまあ、おかげで人目を忍んでこっそり会う為の方法は色々と勉強させてもらったからな」
笑ったユーリ様がアルジェント卿を見ながらそんな事を言っている。
「そっか。お父上と仲が悪いルークと、そのご子息が仲良くするのは……良くないって事ですか?」
無邪気なレイの質問に、二人が顔を揃って見合わせて苦笑いする。
「良くないって事はないけど、まあ周りは当然私達も仲が悪いと思い込んで、父上の時と同様に公式の場では私とルークも会わせないようにしていたからね」
ユーリの言葉に、ルークだけでなくアルジェント卿と公爵閣下までが笑っている。
「息子とルークが十年来の友人だと知った時の、私の驚きを言い表す言葉を知らんな。全く、父親を差し置いて何をしおるか」
「父上、素直に羨ましかったと仰ってください」
真顔のユーリとルークの二人から全く同じ事を言われて、公爵閣下はソファーに置かれていたクッションに突っ伏し、部屋は笑いに包まれたのだった。
夕食は、オルベラートの郷土料理が振る舞われ、大好きな芋と小麦粉を練って作った団子もあり、濃い味のソースに絡められたそれをレイは大喜びで平らげたのだった。
笑顔の絶えない夕食会となり、レイも終始笑顔で過ごした。
主にユーリ様がオルベラートでの様々な話をしてくれ、レイはもう夢中になって知らない国の話を聞き入っていたのだった。
食事の後はまた別の広い部屋に通され、今度はお酒を前にしてゆっくりと今度はアルジェント卿や公爵閣下の武勇伝を聞いて過ごした。
笑顔で和やかに話す彼らの周りでは、勝手に集まってきたシルフ達が大勢楽しそうに一緒に話を聞く振りをしたり、レイの髪をこっそり引っ張ったりして遊んでいたのだった。
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