晩餐会への参加と第一級礼装
ティア姫様を乗せたオリヴェル王子の竜が無事にオルダムに到着し、ティア姫様はその場で神殿が用意した竜車に乗って行ってしまった。
それは本当にあっという間の出来事で、頭全体を覆う長いヴェールを被っていた為、姫様がどんな方なのかを見る事は全く出来なかった。
「でも、小柄なお方だったね」
レイは、右肩にいたブルーのシルフに小さな声でそう言って、マイリーとヴィゴと話をしているオルヴェル王子を見ていた。
オリヴェル王子は、大柄な立派な体格をしておられる。その王子が横に立つと、ティア姫様は肩の辺りまでしかなかった。しかもヴェールを被っていてそれだと言う事は、実際にはもっと小さいのだろう。多分、身長はクラウディアと変わらない程度だ。
「今頃、ディーディーやニーカ、ジャスミン達と会ってるのかな」
馬車が向かった女神の神殿の分所がある方角を向いて、レイは小さく呟くのだった。
到着したオリヴェル王子は、そのまま城の中にある専用の部屋に結婚式が終わるまで滞在される。
聞いていた通りその場は解散となり、レイはルーク達と共に一旦本部に戻った。
この後に、今夜城で開催される晩餐会には聞いていたようにレイも参加しなければならない。当然第一級礼装だ。
「うう、大丈夫かなあ」
前回のオリヴェル王子が来られた際は、レイはまだ見習いとはいえ正式な紹介をされていなかったので、身内での会食以外は免除されていた。しかし今回はほぼ全ての歓迎式典を始め、様々な夜会などにも竜騎士見習いとして参加しなければならない。
『大丈夫だよ』
『私達がついてるからね』
『大丈夫大丈夫』
ニコスのシルフ達が現れ、笑ってキスをしてくれる。
「うう、よろしくお願いします」
小さな声でそう言いながら、到着した休憩室のソファーに倒れ込んだ。
「レイルズ緊張しすぎだって。大丈夫だよ。今回は主役はいるんだから、俺達は添え物程度だよ」
笑ったルークに頭を突っつかれたが、レイは無言で首を振るだけだ。
「まあ良い機会だから、しっかり見ておけって」
「確かにそうだよね。殿下の結婚式だもの。そう何度も見られるものじゃ無いよね」
「いや、今の皇王様の息子は、殿下お一人なんだから、そう何度もあってたまるかって」
横で笑うタドラの言葉を、カウリが真顔で混ぜっ返す。ロベリオとユージンは、出迎えの際は一緒にいたが、すぐにまた出かけてしまってここにはいない。
「ねえ、そういえばロベリオとユージンの婚約者の方は? 全然わからなかったけど、さっきはどこかに一緒にいらっしゃったの?」
顔を上げて目を輝かせるレイの質問に、ルークが笑って首を振る。
「あの場にはいらっしゃらなかったよ。おそらくオルダムに到着次第、迎えが来て実家に戻ってるんじゃ無いかな」
「そうなんだ。じゃあ、いつお会いできるかな?」
実は、噂の婚約者殿がどんな方々なのか気になって仕方がない。早く会いたくて堪らないのだ。
「さすがに今夜の晩餐会には参加されないだろうけど、明日の夜会には確実に来られるだろうから挨拶程度は出来ると思うぞ。まあその後はどうなるかは状況次第だな。会場では、ゆっくり話す時間はまず無いと思うけど」
「まあ、そのうちゆっくりお会い出来るんじゃない? 僕も楽しみだよ」
タドラの言葉に、ルークも苦笑いしながら頷いた。
「さて、そろそろ着替えかな」
ラスティ達が入って来たのを見て、レイもソファーから立ち上がった。
別室にて、用意された第一級礼装に着替える。
「うう、やっぱりこれを着るたびに緊張するって」
カウリが情けなさそうにそう呟くのを聞き、レイは着替えながらラスティから聞いた話をした。
「へえ、そっか、飾緒も使いまわすんだ」
「うん、ちょっと引っ掛けた程度だったら修理して使うんだって言ってたよ。ねえ」
最後は、脱いだ制服を畳んでくれていたラスティに向かって話す。
「はい、その通りですよ。ちょっと引っ掛けた程度なら簡単に戻せますので、直してそのまま使いますね。何度かお使いになって少し毛羽立ってくると丸ごと交換いたしますが、古い飾緒も分解して洗浄した後、また別の飾緒に作り直します」
「へえ、なるほどね。簡単に捨ててないと知ってちょっと安心したかも」
どうしても庶民感覚が抜けない見習い二人は、顔を見合わせて笑い合った。
「それじゃあ行きますか」
同じく着替え終わったルークの言葉に、全員揃って部屋を出る。
「おう、それじゃあ行こうか」
廊下には、同じく第一級礼装に着替えたロベリオとユージンが待っていた。
「殿下も今夜の晩餐会には参加なさるよ。それじゃあ行こうか」
「あれマイリーとヴィゴは?」
ロベリオの言葉に、レイが周りを見回す。
廊下で待っていたのは二人だけだ。
「ああ、二人は先に城へ行ってるからそのまま着替えてるよ、だから向こうで合流だ」
「そうなんだね。じゃあまずはいつもの部屋へ行くの?」
城には、竜騎士隊専用の部屋が幾つもあり、城で開催される夜会などの場合はその部屋を使う事も多い。
「いや、今夜は特別だからね。俺達にも控室が用意されてるから、まずはそこへ行くよ」
「ではご案内致します」
ヘルガーの声に顔を上げたルークが頷き、一同はヘルガーを先頭にそのまま城へ向かった。
渡り廊下を通り、城に入った途端に人が一気に多くなる。
あちこちから向けられる好奇心全開の目線に、レイは俯きそうになる自分を必死に鼓舞して、ひたすら胸を張って前を向いていた。
「今は虚勢でも良いから、とにかくしっかり前を向いて変に見られない様にする事」
自分に言い聞かせる様に小さな声でそう呟く。
『大丈夫だ。レイには我が付いているぞ』
いつもの右肩に座ったブルーのシルフの言葉に、小さく頷いたレイは嬉しそうに目だけちょっと横を見る。
笑ったブルーのシルフが手を振ってくれたので、安心して前を向いて少しでも落ち着く様に、ゆっくりと深呼吸をした。
案内された部屋には、すでに第一級礼装に着替えたヴィゴとマイリーが待っていて、何やら楽しそうに笑って話をしている。
「お待たせしました」
ルークの声に、二人揃って顔を上げる。
「ああ、来たな。それじゃあ行こうか。殿下はマティルダ様と一緒に来られるそうだからな」
そう言いながら立ち上がったマイリーの補助具は、新しいみたいで革に傷の一つも無い。それに、いつも使っている補助具よりも、全体の細工が細かくとても綺麗だ。
「ああ、補助具も第一級礼装になると変わるんですね」
気が付かなかったが、もしかして今までも第一級礼装の時は違っていたのだろうか?
思わずそう言って覗き込むと、苦笑いしたマイリーが膝を曲げて足を上げて補助具を見せてくれた。
「モルトナとロッカが張り切ってくれてな。第一級礼装の際には、やはりそれ専用のが必要だ! とか言って、これを新しく作ってくれたんだよ。凄いぞ。これ、全部ミスリル製なんだぞ。全部で幾ら掛かってるのか考えたら、ちょっと気軽には使えないよな」
革の覆いをずらして見せてくれたが、何と膝の可動関節が、そのままミスリルの輝きを放っている。
「うわあ、それってもしかして、金属部分全部ミスリルですか?」
「そのまさかだよ。さすがにこれは俺も驚いた」
「俺も見せてもらって驚いたよ」
隣では、ヴィゴもそう言って笑っている。どうやら先ほども、二人でこの補助具の話をしていたらしい。
「でも、すごく格好良いです!」
「はは、ありがとうな」
目を輝かせるレイの無邪気な言葉に、困った様にマイリーがそう答える。
「まあ確かに、格好良いな」
そう言って、ルーク達も苦笑いしつつ同意する様に頷くのだった。
『素敵素敵』
『綺麗なミスリル』
『素敵素敵』
『大事な補助具だもんね』
『素敵素敵』
『大切な補助具だもんね』
マイリーの周りでは、新しい補助具のミスリルに引かれて、シルフ達が時折現れては、嬉しそうにそう言って補助具に触れたりキスを贈ったりしているのだった。
「ありがとうな、だけどもう行くからそこをどいてくれるか」
笑ったマイリーは、目の前に現れたシルフにそう言って、そっとキスを返した。
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