賑やかなひと時

「そっか、今夜の集いに俺まで呼んで頂いたのは、こいつのおかげだったか」

 そう言いながら手を伸ばして、ソファーに座るレイの膝を占領している猫のパセリを撫でているカウリは、とても優しい顔をしている。

「僕がカウリ様もお呼びしましょうって言ったんです。ご迷惑でしたか?」

 ライナーの遠慮がちな言葉に、目を瞬いたカウリは笑って首を振った。

「とんでもない。お呼び頂いて嬉しかったですよ。しかし、まさかペパーミントの兄弟がどうしてるか知れるなんて、全く思っていませんでしたからね。驚きました」

「僕達も、パセリの兄弟のお話を聞くことが出来て嬉しいです」

 目を輝かせる少年達に、カウリも笑顔になる。

 楽しそうに彼らの話を聞いていたレイは、ふと思いついて指を折って数えた。

「えっと、生まれた子猫は全部で五匹、ペパーミントはカウリの所へ。パセリはゲルハルト公爵の所へ。ローズマリーはヴィゴの所で、タイムはマティルダ様がこのまま奥殿で飼うって仰ってたよね。じゃあ、残りのセージは、どなたの所へ行ったんだろうね?」

「ああ、確かにそうだな。こうなると最後の一匹の行方は気になるよな」

 レイの言葉に、カウリも指を折って数えて頷いた。

「僕達、最後の子が何処にいるか知っていますよ!」

 声を揃えて言う二人に、レイとカウリは驚いて振り返った。

 その際にレイが立ち上がりそうになったものだから、膝に乗っていたパセリが怒ったように小さく鳴いて膝に爪を少しだけ立てた。

「痛いって、ごめんごめん。お願いだから爪は立てないでください」

 笑ってパセリの前脚を押さえて謝る。

 機嫌を直したパセリは、またレイのお腹にもたれるようにして喉を鳴らし始めた。

「それにしても、人気者だねえ。レイルズ君は」

 からかうように笑って、レイの腕を突っつく。

「それで、最後の子は何処に行ったの?」

 カウリに小さく舌を出したレイは笑ってライナー達を振り返った。

「何処だと思います?」

「レイルズ様もご存じの所ですよ」

 得意気な少年達の言葉に、レイは目を瞬いて首を傾げた。

「僕が知ってる人?」

 揃って頷く少年達に、カウリも横で首を傾げている。

「ええ、そんなの分からないよ」

 困ったように眉を寄せるレイの顔を見て少年達が小さく吹き出す。

「レイルズ様、その顔はやめてください!」

「僕達を笑い殺す気ですか!」

 その言葉に、横で聞いていたルークとゲルハルト公爵まで一緒になって吹き出した。

「ええ、別に僕何にもしていないよ」

 またしても口を尖らせるレイに、大人達は堪える間もなく吹き出すのだった。




 夕食は、公爵特製の燻製料理が振る舞われ、とても楽しい時間になった。

「あの、ドワーフギルドから送ってもらったギルド特製の燻製用の組み立て室は、本当に素晴らしいね。お陰で仕込む量がどんどん増えて中々に大変だよ。そうそう、私が燻製作りにはまっているのを聞いて、何人かがやってみたいと言ってくれてね。今度倶楽部を立ち上げる事にしたんだ。題して、いぶし銀の会。どうだ?」

 得意気な公爵の言葉に、ルークが笑う。

「それ、絶対に名前を聞いて勘違いして入る人が続出しそうですよね」

「いぶし銀の会。うん、壮年の良い男の会ですかね」

 カウリの言葉に、大人達は揃ってまた笑った。

「まあ、どうせ顔ぶれはそうなるよ。要するに郊外で燻製を作って楽しんで、出来た燻製で一杯楽しむだけの会だよ」

「要するに飲み会ですね。それ、俺が入ってる独身主義と同じですよね」

「まあ、そうとも言うな。要するに堂々と集まって飲みたい奴らの集まりだよ」

 大人達は顔を見合わせて笑い合っている。

「まあ、倶楽部に関しては遊びみたいなものだからね。裏ではいろいろあるがね」

 含みのある言い方に、ルークとカウリは苦笑いしている。



 実際の所、青年会や鱗の会など、それぞれの身分や立場に関係する大手の倶楽部と違い、完全に趣味の繋がりになる多くの倶楽部にはもう一つの人脈作りと言う別の側面もあるのだ。

 音楽関係は比較的そう言った側面は少ないが、男性ばかりの趣味の倶楽部では、新たな人脈作りを願って全く畑違いの所に入る人も少なくは無い。

「まあ、倶楽部に関係する際にはその辺りも理解しておかないと、逆に思わぬ所で足を掬われますからねえ」

 にんまり笑ったカウリの言葉に、綺麗に盛り付けられた燻製肉を見て公爵が嬉しそうに笑う。

「良いねえ、きちんと理解してくれる人がいて私は嬉しいよ。これからもよろしく頼むよ」

 二人は顔を見合わせてまたにっこりと笑い合い、無言でグラスを上げて乾杯をした。

 燻製肉の乗った皿の縁では、ブルーのシルフが呆れたようにそんな大人達の会話を聞いているのだった。




 大人達の裏での会話を全く理解していないレイは、ライナーとハーネインの二人と一緒に、郊外の別荘で、今まさに食べている燻製を作った時の話を聞いていた。

「へえ、そうか。普通の人が燻製を作る時は、ずっと付きっきりで火の番をしないといけないんですね」

 蒼の森で作った時は、いつも最初の火入れの時だけで、後の火加減は火蜥蜴達が全部やってくれたので、レイ達は何もしなくても良かったのだ。

「僕達も、父上のお手伝いしてるんですよ」

「火の番は大変だけど楽しいもんね」

 楽しそうにそう言って笑っている二人に、公爵も嬉しそうだ。

 そこから、詳しい燻製肉の作り方の話になり、さすがにそう言った事は全く知らないルークとカウリは、ひたすら聞き役に徹して只々感心していた。

 レイも、自分達のやり方とは全く違う火の管理の大変さを聞かされて、何度も驚きの声を上げていたのだった。



 デザートは華やかなベリーのケーキが出されたが、レイはさっきから気になって仕方が無かった。

 夕食の時間になったので応接室での話が途中で終わってしまい、結局、最後の一匹であるセージが何処へ行ったのか聞かせてもらっていないのだ。

 もの言いたげなレイの様子に、少年達は気付いていたが、敢えて知らん顔で出されたデザートをお行儀良く平らげていたのだった。



「ねえ、さっきの話だけど、結局セージは何処へ行ったの?」

 デザートを食べ終えたレイは、我慢出来ずにライナーにそう尋ねた。

「何処だと思います?」

「レイルズ様もご存じの所ですよ」

 目を輝かせてさっきと同じ事を言われる。

「ええ、そんなの分からないよ」

 天井を向いて叫ぶレイに、少年達は笑って顔を見合わせた。

「こら、お前達、良い加減にしなさい」

 笑った公爵の言葉に、小さく笑った二人は揃ってレイを見た。

「あのね、ティミーの所なんです」

「僕達が父上にお願いして、父上から王妃様にお願いして頂いたんです。ティミーの所にもお友達をあげて下さいって」

「そうなんだ。きっと喜んだんだろうね」

 一人っ子のティミーなら、きっと新しく増えた家族を大事にしてくれるだろう。

 もしかしたら、猫はティミーと一緒に寝てくれるかもしれない。

 そんな様子を想像して、レイも笑顔になるのだった。



「今度ティミーに会ったら、どんな様子なのか詳しく聞かないとね」

 嬉しそうなレイの言葉に、ライナーとハーネインも笑顔で大きく頷くのだった。

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