二人のおめでたい話
時間いっぱいまで、ガンディに教えられて、貰った資料に書かれた内容について詳しい話を聞き、それから少し休憩して巡行先で見た街の話をした。
ガンディはどの街にも何度も行った事があるらしく、懐かしそうに街の様子や神殿の様子を聞いていたのだった。
後半は、薬学の授業で最近見つかった新しい薬の効用と後遺症について詳しい話を聞いた。
「終わったあ……うう、今日の薬学の授業は難しかったです。全然知らない話ばっかりだったよ」
疲れ切って机に突っ伏しているレイの後頭部を突っついて、ガンディは笑っている。
「まあ、この辺りは知識として知っていておればそれで良いわい。医者になるなら話は別だが、其方が実際に患者を診たり薬を処方する事などありはせんわい。其方達に必要なのは、せいぜいが緊急時の止血の方法や応急処置くらいじゃよ」
それを聞いて、レイも小さく笑って頷いた。
だが実際にルークやマイリーの怪我があり、竜騎士隊では全員がガンディやハン先生から止血の仕方やいざと言う時の応急処置の方法などについて、実技を交えながら詳しく教えられている。
レイも、授業の中でそれらの事についてはしっかり覚えておくようにと言われて、必死になって覚えたのだった。
「だけど、何であれ覚えておいて損は無いよね。知識と技術、それから教養は、いくらあっても邪魔にならないもんね」
突っ伏したまま顔を横に向けて大きく息を吐いたレイが、笑ってそんな事を言う。
「其方、良い事を言うのう。その通りだ。知識と技術、教養は確かに幾らあっても邪魔にならぬな」
感心したようなガンディの声に、レイは小さく首を振って目を閉じる。
「これは、僕の住んでいたゴドの村の村長がいつも言っていた言葉なんだよ。あの時は、また言ってる、くらいにしか思わなかったけど……今なら分かる。本当にその通りだね……」
また俯いて机に突っ伏してしまったレイは、腕を机に上げて突っ伏している顔を隠すようにして
まだ外に出ていた光の精霊達が慌てたように周りに集まってきて、慰めるようにレイの真っ赤な髪を何度も撫でてキスを贈った。シルフ達も集まって来て、レイの髪をひっぱたりキスを贈ったりし始めた。
「ほら、顔を上げんか。ウィスプ達やシルフ達が心配しておるぞ」
ガンディの優しい声に、俯いたまま頷きゆっくりと顔を上げる。
少し赤い目なのには気付かない振りをして、ガンディは笑ってまた椅子に座り直した。
レイの様子が落ち着くまで、ガンディは素知らぬ顔で白の塔の職員達の面白い話をしてくれたのだった。
「ありがとうございました!」
助手と一緒に戻るガンディを見送ってから、レイも大急ぎで後片付けをして教室を後にした。
「お疲れさん。遅かったな」
階段横に置かれた休憩用の椅子に座っていたマークとキムが振り返って手を上げている。
「お待たせ。うん、ちょっとお話をしてたら遅くなっちゃった」
笑ってそう言い、三人揃って護衛の者達が待っている外へ出て行った。
「ディーディー達は?」
周りを見たが、彼女達の姿が無い。
「ああ、夕方のおつとめの時間があるからって、先に帰ったよ。またねってさ」
「そっか、じゃあもう帰ろう」
それぞれに預けてあったラプトルを受け取り、本部に戻った。
「お疲れ様、それじゃあまたな」
本部の入り口でそう言ってくれたら、もうここからは竜騎士見習いと竜騎士隊付きの一般兵士だ。
顔を見て頷いて、それぞれ厩舎へ向かった。
一礼して戻るマークとキムを見送り、レイはゼクスの世話をしてから本部へ戻った。
「おかえり。お菓子があるから休憩室へ来てね」
丁度廊下で会ったタドラに言われて、レイは元気に返事をして一緒に休憩室に向かった。
休憩室には、アルス皇子をはじめ、今ここにいないヴィゴとカウリ以外の全員が揃っていた。
「ただいま戻りました」
入り口で声をかけてから一礼する。持っていた鞄はラスティに渡してある。
「おかえり、お菓子があるぞ」
振り返った声の主はロベリオだ。
「戻ってたんだね。それで何があるの?」
いつもの席に座って机の上を見たレイは、歓声を上げた。
平らなトレーの上に置かれているのは、大きな蒸しパンだ。その隣にある丸いお菓子は、何かのパイのようだ。
「俺の妹からの差し入れだ。多分レイルズが一番好きなんじゃないかって話してたところさ」
マイリーの言葉に、レイは目を輝かせた。
「ありがとうございます。いただきます!」
その言葉に笑ったラスティが、全員分を切り分けてくれた。
カナエ草のお茶と一緒に、それぞれのお菓子を乗せたお皿が目の前に置かれた。
三角に切り分けられた大きなパイは、ベリーのジャムと甘くしたナッツがぎっしりと入っていて、一口食べたレイは目を輝かせて、後はもう夢中になって食べたのだった。
四角に切り分けられた真っ白な蒸しパンも、とても美味しい。
先程のパイは小さなのを一切れだったマイリーも、この蒸しパンは普通に食べているのを見て、レイは何だか嬉しくなった。
「まあ、それにしても今年はめでたい事が続くな」
パイを食べていたルークの言葉に、レイは顔を上げた。
「はい! そのお話、詳しく聞きたいです!」
目を輝かせるその姿に、ロベリオとユージンが揃って飲みかけのお茶を噴き出しそうになり、仰け反って避けたマイリーとアルス皇子から思い切り背中を叩かれていた。
慌てた執事が二人に綺麗な布を渡し、お茶がこぼれて濡れた机をすぐに綺麗にしてくれた。
口元を拭って笑って顔を上げたロベリオが、笑って誤魔化すように肩を竦めた。
「まあ、聞いたと思うけど、以前言ってたオルベラートに留学していた俺とユージンの婚約者が、二人揃ってティア姫様がこちらに来られるのに合わせて戻って来るんだよ。でまあ……」
「こら、ちゃんと言えって」
からかうようなマイリーの言葉に、ロベリオが顔を覆う。
「はい、そんな訳で結婚する事になりました! 式は七の月の末の予定です!」
「俺も同じく、結婚する事になりました! ロベリオとは日をずらして、式の予定は八の月の中頃の予定です!」
隣で片手を上げたユージンがそう言い、二人揃って真っ赤になった。
「おめでとうございます」
無邪気に満面の笑みでそう言うレイに、二人とも笑うしかなかった。
「あはは、ありがとうな。まあ、そろそろかなとは思ってたからな」
隣ではユージンも笑って頷いている。
周りでは、シルフ達が大喜びで二人の髪にキスを贈ったり引っ張ったりしている。
「嬉しい事、いっぱいいっぱいあると良いね」
また、綺麗な花嫁さんの衣装が見られると思い、レイは嬉しくて笑顔になって残りの蒸しパンを頬張るのだった。
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