休日の時間の過ごし方

 食事を終えたレイは、一旦部屋に戻って、クレアの街の司令官が持たせてくれたお土産の包みを開いてみた。

「えっと、何が入ってるんだろうね」

 右肩に座ったブルーのシルフも、興味津々で覗き込んでいる。



 机にそのまま置かれていた大きな箱を開くと、中には、何冊もの本と一緒にぎっしりと小さな小箱が入っていた。

「本は、星に関するものだね。へえ、どれも読んだことが無いや」

 パラパラと本をめくり嬉しそうにそう呟いたレイは、ひとまず本を机に置いて、その奥に並んでいる小箱を一つ取り出して蓋を開いてみた。

「あ、これって……」

 それは、直径4セルテほどの少しだけ丸く湾曲したお皿状になった物で、銀細工で作られた天体盤の模型だった。

 裏側の上部に小さい輪っかが付いているので、どうやらこのままペンダントトップになるようだ。小箱の中には丸めた革紐が一緒に入っている。

 しかもよく見ると、真ん中の北極星の部分にはごく小さな透明の石が嵌め込まれていた。

「へえ、綺麗だね。それに小さいけどちゃんと天体盤になってる。しかも一枚目が動くよ、ほら」

 天体盤は二枚が真ん中部分で止めつけられて重ねられているが、季節によって見える星空を変える為に一枚目のお皿は動かせるようになっているのだが、これは、それと同じように、小さいながらも一枚目の部分が動くようになっている。

 しかし残念な事に、小さすぎてお皿の縁の部分に書かれているはずの日や時間の表示は無い為、これはあくまで天体盤を模した装飾品であって、正確に合わせる事は出来ないみたいだった。

『ほお、これは見事な細工だな。簡単だが星座が正確に刻まれているぞ』

 ブルーのシルフの言葉に驚いてよく見ると、確かに描かれた星座はかなり正確なようだ。

「もしかしたら、これを作ってくれた方も星系信仰の信者なのかもしれないね。本当に星空がとっても正確に描かれているね」

 何だか嬉しくなって、小さな天体盤をそっと抱きしめた。

「へえ、同じのが全部で十個も入ってるよ。あ、手紙が入ってる。ええと、この天体盤のペンダントは知り合いのドワーフの細工師の作品なんだって。お知り合いの方に、良ければ差し上げてくださいって書いてあるね。うん。じゃあどうしようかな。ええと……あ、ディーディーとニーカ、それからジャスミンにもあげよう。マークとキムは貰ってくれるかな」

 嬉しくなったレイは、自分の分も入れて六個取り出して、残りをどうするか考える。竜騎士隊の皆にあげるには数が足りない。

「そうだ。残りは森のお家に帰る時に持って行こう。アンフィーの分も入れたら、ちょうど四個あるものね」

 嬉しくなって、残りの箱は自分の引き出しの中にまとめて入れておく事にした。

 自分の分も引き出しに一緒に入れておき、お土産で渡すために取り出した分は、いったん机の上にまとめて置いておく。

「あ、ラスティ。あのね、朝練の時にマークとキムに会ったから、お土産を渡したいのでお仕事が終わってからで良いから本部に来てくださいって言いました」

 ちょうどお茶を用意してくれていたラスティは、それを聞いて笑顔で頷いた。

「かしこまりました。それならもうこちらからは連絡しなくても大丈夫ですね」

「そうだね。えっと、ちょっと質問なんだけど、マーク達が来たらこの部屋に来てもらうべき? それとも休憩室に来てもらうべきかな?」

「そうですね。それなら休憩室の方がよろしいでしょう。お話をされるなら第二休憩室をお使いください。準備しておきます」

 第二休憩室は、いつも使っている大きな休憩室の隣にある、それよりも少し小さな部屋だ。竜騎士達の個人的な来客の時などに使うことが多い。

「面倒な事頼んでごめんなさい。じゃあお願いします」

 申し訳無さそうなレイの言葉に目を瞬いたラスティは、笑って首を振った。

「お気になさらず、これは私の仕事ですから、どうぞ何でも遠慮なく仰ってくださいね」

「はい、ありがとうございます」

 満面の笑みのレイにそう言われて、ラスティもつられて笑顔になるのだった。

 レイの肩の上では、ブルーのシルフが座って笑顔で満足気に頷いてた。




 午前中いっぱい、レイはのんびり自室でもらった本を読んで過ごした。

「マイリー様は先程お目覚めになったそうですよ。午前中はベッドから出ない事にしたそうで、遅めの朝食はベッドでお召し上がりになったのだとか。その後、またお休みになったそうですよ」

 新しいお茶を入れてくれたラスティの報告を聞いて、レイは満面の笑みで拍手をした。

「ひとまず成功だね。お休みなんだからゆっくり寝てもらうのが一番良いよね」

 ラスティも大きく頷いている。

「そうですね、このところ少し体調も優れないようでしたからね。良い機会ですから、ゆっくり休んでいただきましょう」

 入れてもらった新しいお茶を飲み、またのんびりと本に目を落とした。



 昼食は、ラスティと一緒に食堂へ行き、午後からは本部の休憩室へ行って陣取り盤を前に攻略本を片手に過ごした。

 皆忙しいようで、休憩室には誰もいない。

『すっかり休みを楽しめるようになったな』

「本当なら部屋で本でも読もうかと思ったんだけど、ディーディーとニーカが来てくれるって言ってたでしょう。それならこっちに来ておかないとね」

 机の上に並んだ籠の中には、それぞれに彼女達やマーク達に渡すお土産が分けて入っている。

「えっと、ジャスミンの分はどうすれば良いかな? まだきっと訓練所だよね」

 ディーディー達の所に、ジャスミンの分も一緒に入れてある。

「夜になったら会えるかな。そういえば昨日はいなかったんだね」

 昨夜の夕食の時にジャスミンがいなかった事を思い出した。

『ルチルの主なら今女神の分所に泊まり込みで見習い巫女の修行中だよ』

 目の前に現れたシルフが教えてくれる。

「クロサイトだね。すごいや。彼女も頑張ってるんだね」

 笑ったレイが顔を上げる。

 陣取り盤の縁に座ったクロサイトのシルフは、レイを見上げて笑った。

『神殿での日々の務めも知っておくべきだって』

『彼女が言い出したんだよ』

『それで見習い扱いでしばらく勤める事になったんだって』

『ニーカが一生懸命教えてたよ』

「へえそうなんだ。ニーカも後輩が出来て嬉しそうだね」

『同い年の友達だからね』

『本当に嬉しそうだよ』

『あもう少ししたら来るからね』

『また連絡するよ』

 そう言って手を振ると、くるりと回っていなくなってしまった。

「そうなんだって。じゃあもう少し時間があるから出来るね」

 そう言ってブルーのシルフに笑いかけたレイは、攻略本を見ながら真剣に駒を動かしては戻したりしていた。

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