第53話_持てなかった望みと公園

 太陽が真上を過ぎた辺りから、ようやく街に人の気配が増える。それはゼロ番街も例外ではない。アシュリーは街並みや雰囲気が変わっていても、そのような文化については変わらないものだなと感じながら、公園の傍に立っていた。中では子供達が思い思いに遊んでいる。ゼロ番街にも、小さな子供は多く居る。タワーで働く多くの職員と共にその家族が生活をしているからだ。一番街より先の区画から通っている職員も居るけれど、それは全体の二割程度だった。その為、ゼロ番街でも、他の区画と大差ない形で、普通に生活を営む人々が闊歩する。

「アシュリー」

 子供達に目を取られている間に、イルムガルドが歩み寄ってきていた。アシュリーは目尻を下げて微笑む。

「イル、おかえりなさい」

「ただいま」

 と言ってもここは未だ彼女らの家ではなく、近くの公園。何にせよタワーでの仕事を終えて戻ったイルムガルドを労うつもりで、アシュリーはそう言うのだろう。そしてアシュリーの隣に立つと、イルムガルドは当然のように手を出して来た。アシュリーは少し照れ臭そうに眉を下げ、控えめにその手を握る。ゼロ番街では、イルムガルドはこうして時々、手を繋ぎたがる。

「行こう。今日はわたしも一緒だから、重いもの買っていいよ」

「ありがとう、うーん、何かあったかしら」

 これから二人で買い出しの予定だった。アシュリーは自身が専業主婦であることから、買い物なども自分の仕事の内と思っており、ほとんどの場合、イルムガルドが仕事に出ている間に買い物を済ませてしまうのだけど、イルムガルドが一緒に行きたいとよく言うので、今日は彼女の仕事が終わる時間に合わせていた。先程イルムガルドが言ったように、重いものなどは、一緒に行ける日に買ってほしいらしい。相変わらず甘い気遣いだとアシュリーは思う。

 大きな公園をぐるりと迂回するように、手を繋いだままで二人はのんびりと歩く。少しの風で揺れる木々の葉に、子供達の楽しそうな声。穏やかな昼下がりをアシュリーが心地よく思っていると、イルムガルドがぴたりと足を止める。同じく足を止めてアシュリーが窺えば、イルムガルドは公園の中で遊んでいる子供達を見つめていた。

「どうしたの?」

「んー、子供、たくさん居るなぁと思って」

 目を細めて子供達が遊んでいる様子を眺める横顔は優しい。イルムガルドは自分より小さな子供というのは今でも珍しいと思うようだ。故郷に居た子のことも一つ違うだけで可愛かったと言っていたし、最も身近な歳下であるフラヴィのことも心の中では可愛いと感じているそうなので、やはり自分より小さな子はそれだけで、彼女には可愛く思う対象なのかもしれない。

「さっきね、訓練所で一緒だった子と久しぶりに会った。その子も、わたしより三つ下で」

「そうなの。可愛い?」

「うん、甘えてくるところとか、故郷に居た子に、ちょっと似てる」

 そう話す時、目尻には愛おしさと喜びと共に、僅かな寂しさが混ざる。それを郷愁と呼ぶには、彼女は故郷を離れる際に色々とあり過ぎた。戻りたいと思う気持ちとは、形は幾らも違うだろう。それでも、愛おしく感じていた過去も、その想いも失くすことがイルムガルドには出来ない。アシュリーは「そう」と短く相槌して、イルムガルドの手を握り直した。

「そういえばイルは、公園で遊んだりしたことは?」

「あー、無いなぁ、遊ぶっていうのが、あんまりね」

 遊具をやけに物珍しそうに見ている様子にそう問えば、返った言葉がアシュリーには少し寂しい。生きていく為に物心付いた時から働いていなければならなかったイルムガルドは、食べていくことばかりを考えて、子供らしく遊ぶ意識はあまり持っていなかったと言う。

「じゃあ、遊んでみる? 私と」

 そう言ってアシュリーが微笑みかければ、イルムガルドは一瞬驚いたように目を丸め、そして何故かとても可笑しそうに頬を緩めた。

「アシュリーが言うと違う意味みたいだね」

「……その意図は全く無かったわね」

 眉を顰めて項垂れるアシュリーに、イルムガルドが楽しそうに笑っている。最終的に今の形に落ち着いたとは言え、その前の二人の出会いや関係を思えば、仕方が無いのかもしれない。

「楽しそうだけど、わたしが遊んじゃうと、子供達が遊べないから、いいよ」

 改めて公園を見つめたイルムガルドはそう答える。確かに今、公園の中は子供達で溢れており、どの遊具も次から次へと新しい子供達の相手をしていて暇そうにはしていない。

「なら、早朝にどう? この街の朝は、公園なんて誰も居ないわ。下町なら家のないおじさまが居るけれどね」

 厳しいIDチェックのあるゼロ番街では、そのような身分の者が歩いていることはあり得ない。もしそんな時間に誰かが居るとすれば同じ目的を持った大人か、巡回の警備くらいだろう。

「えー、でも、朝、アシュリーは眠いでしょ?」

「眠いけれど、楽しそうだわ」

 眉を下げてイルムガルドは戸惑っているが、嫌だと言う様子は少しも無い。落ち着きなく何度も公園の中へと視線を向け、アシュリーに促されるままに、最後には頷いた。


 翌朝、二人はいつもよりずっと早起きをして、朝六時に公園に着く。アシュリーが予想していた通り、そこには誰の姿も気配も無い。

「イル、どれで遊ぶ?」

「えー、たくさんあって迷うなぁ」

 表情や仕草はいつものイルムガルドと大きく違いは無いものの、声がほんの少し弾んでいる。僅かな変化に、アシュリーは嬉しそうに目尻を下げる。そんなことにも気付かないで、イルムガルドは公園を見回して遊具を確認していた。しかし二人には時間がたっぷりとある。気になるものから順に遊べばいいとアシュリーが提案するのに応じて、一番近くにあったブランコにイルムガルドは恐る恐る足を乗せた。

 そうしてブランコに始まり、鉄棒で遊んだり、ジャングルジムに二人で登ったりと、最初は躊躇いがちに遊具に触れていたイルムガルドも、次第に頬を上気させて楽しんでいる。またアシュリーも、横でイルムガルドを見ているのではなく、童心に返って一緒に遊んでいた。もしもイルムガルドが小さな頃ほんの少しであれ子供のように遊ぶことに憧れを抱いたことがあったとすれば、それは一人で遊ぶような夢ではなく、一緒に遊ぶ誰かも含めてのことだと考えたのかもしれない。

「アシュリー、これ何?」

「シーソーよ、これこそ一人じゃ遊べない遊具ね」

 首を傾けながら、ガタガタと板を上下に動かしているイルムガルドにアシュリーは笑う。

「それぞれ端に乗るのよ。重い方に傾くから、重い方が中心にずれると均衡になるのよ」

「……えー?」

「そうね、口で説明するのは難しいから、実際に遊んでみましょう。イル、こっちに座って――あ、まだ座らないで、私が乗れなくなっちゃう」

 逆の端に軽く腰掛けるアシュリーに対して、イルムガルドは座るのではなく平均台に乗るかのように板の上に立つ。「危ないから座って」と言い掛けたアシュリーだったが、身体を動かし慣れていないアシュリーよりも彼女に移動してもらってバランスを取る方が安全かもしれない。そのままイルムガルドにゆっくりと移動してもらえば、それに応じて傾く方向が変わっていく。勝手を理解したイルムガルドは目をきらきらとさせて板の上をうろうろする。座ったままでアシュリーも重心を変えればまた傾きが変わり、最終的には協力し合ってぴったりと釣り合わせ、成功した瞬間、喜んで目を合わせた。

「ふふ、ちょっと夢中になり過ぎちゃったわね」

「でも楽しかった、これ」

「私も」

 シーソーから立ち上がると、アシュリーは服に付いた砂を簡単に払う。イルムガルドは靴で上がったせいでシーソーに付いてしまった砂を手で払っていた。

「でも、どうして位置で重さが変わるのかなぁ」

「えーと、うーん、……理論の説明は私には出来ないわね、何度も言うけれど、私は賢くはないのよ」

「そうなの?」

 不思議そうに聞き返すイルムガルドへ、アシュリーは躊躇いなく頷く。何度そう言ってもイルムガルドはそう捉えてくれていない様子で、アシュリーには居た堪れない。知っていることを柔らかな表現で説明できるのは、年の離れた妹が居て、彼女に説明するのに苦労した経験があるのが理由であって、アシュリーが特別賢いというわけではないのだ。改めてそう話したが、やっぱりイルムガルドは納得したようではなく、曖昧に「うーん」と言った。

「そうだ、イル、お昼になったら図書館に行きましょうか」

「図書館?」

 この街の主な施設は昼の十二時に開くことが多い。スーパーマーケットですら、午前中は閉じている。それほどこの街の朝は遅いのだ。ともあれ、アシュリーは以前からイルムガルドと共に図書館には行ってみようと思っていた。下町では彼女と外で一緒に行動するようなことは考えたことが無かったが、今は二人で手を繋いで街を歩くことも出来る。そんな変化に応じて、イルムガルドを連れて行ってあげたいとアシュリーの心に一番に思い浮かんだのが図書館だったのだ。

ゼロ番街の図書館ならきっと、この国で一番沢山、本が置いてあるわ。さっきのシーソーの理論も、二人で調べたら分かるかもしれないわよ」

 アシュリーの言葉に、イルムガルドはまた嬉しそうに笑って頷く。図書館というものをきちんと理解したわけではないのだろうけれど、アシュリーがイルムガルドを想って色々と提案してくれることが嬉しいようだ。

「でもまだ時間はあるから、次は何で遊ぶ?」

「えーと、じゃあ、あそこ、砂場」

 砂場の近くには、バケツなど砂場で遊べる道具が綺麗な状態で並んでいる。遊んだ後、付き添いの大人や子供本人がきちんと洗って返しているらしい。流石、ゼロ番街は行儀の良いものだとアシュリーは密かに笑っていた。これが下町であれば置かれた翌日には一つも残されていないだろう。思いつつもアシュリーは何も言わなかったのに、バケツの一つを手に取ったイルムガルドはそれを弄びながら、微かに笑った。

「故郷だったらこんなの置いた傍から無くなってるなぁ」

「あはは!」

 ほとんど変わらぬことを考えていたらしい。イルムガルドの生まれ育ちはこの街の下町よりも治安が良くなかったようなので、無理もないだろう。アシュリーが笑いながら同じことを考えていたと話せば、イルムガルドも可笑しそうに笑い声を上げた。

「まだまだ子供は起きてこないわよ、この砂場ぜーんぶ、イルが遊べるわね」

「贅沢だな~」

 イルムガルドがどのように遊ぶかは分からないものの、選択肢を増やすようにしてアシュリーは少し水を入れたバケツやじょうろも彼女の傍に置いてみる。じっとその動向を見守っていれば、土を集めて山を作ったイルムガルドが、妙に慣れた手付きでその山を適度に濡らしながら、道具の背で形を整えて建物らしい造形を作り始めた。

「上手ね……どこで覚えたの?」

「んー、本物の建物の修繕する手伝いで、補修剤とか使ったからかなー」

 言われてみれば確かにその手付きは、壁の補修を行うためにこてを扱っている職人に似ていた。

「公園で遊ぶ代わりに、あなたは色んな経験があるわね」

「あはは」

 子供が子供らしく生きていれば知らないような知識を、イルムガルドは多く持っている。そうでなければ二人は関係を持たなかったのだろうと思えば、彼女の生きてきた道筋全てを悲しいとは、今この子の隣で幸せを得ているアシュリーにはとても言えない。何にせよ全て過ぎてきた時間だ。どのように思ったところで、変わるものではない。

 イルムガルドが作り上げる立派な砂の城の上に、アシュリーは土団子を乗せた。手伝うよりは邪魔をするような遊び方だが、イルムガルドは怒ることなく楽しそうに笑う。

「お団子上手だね、真ん丸だ」

「妹とね、何度も作ったから。こうして磨くと艶が出るのよ」

「あはは! ほんとだ、すごい」

 思い思いの遊び方ではあるが、二人はそれでも二人で遊んでいた。小一時間で、不自然に土団子が点在するお城が完成する。最後は全て崩して砂場を元の形に戻してしまったけれど、イルムガルドの通信端末には撮影機能があったので、記念撮影を行った。当然イルムガルドはその使い方を知らなかったので、アシュリーに教えてもらいながら。

「ふふ、どろどろになっちゃったわね」

「うーん、どうして髪にまで土が付いてるんだろう」

「無意識に汚れた手で髪を触ったんじゃないかしら。ああ、後ろも少し付いているわ」

 近くの水場で手を洗うも、服や髪まではどうにもならない。少しずつ街に気配が増えてきたのを感じながら、二人は一度帰宅した。そして家でシャワーを浴び、昼食を済ませてから、今度は図書館へと向かう。朝から出ずっぱりだ。公園でかなりはしゃいだことも考えれば、今日は二人揃って夕方早くに疲れて寝てしまうかもしれない。

 けれどアシュリーにとっては、隣のイルムガルドが共に出掛けることを楽しそうにしているだけで疲れていることなど忘れてしまう。到着してすぐ、案内係の人に図書館に訪れるのが初めてあることを告げてみると、優しく丁寧に館内の説明を受けた。イルムガルドが隣に居た為、奇跡の子とその家族であることがすぐに分かったのだろう。

「この建物の中、全部本なの?」

「ふふ、そうよ」

 中に入った瞬間からイルムガルドはずっと驚いた様子で本棚を眺めている。本が多く並んでいる部屋を見たことも無いような子が、この国で最大の図書館に来てしまったのだから、衝撃は当然だ。

「イル、多分一階には無いから、二階に行きましょう」

「ん、うん」

 いつまでも本棚を眺めているイルムガルドを促して移動する。アシュリーには探している本について大体の目星が付いていた。向かったのは、児童書が集められている一角。児童書と言っても絵本ばかりではなく、この国で使用されている教科書も揃っているし、小説や図鑑、科学に関する本なども多く置かれている。イルムガルドが以前興味を示した宇宙や星に関するものも多い。

「多分この辺りかしら。探してくるから、イルは気になる本でも見ていてね」

「はあい」

 返った声は生返事に近かった。並ぶ全ての本がイルムガルドには珍しいことだろう。目の前にある一つ一つの背表紙を食い入るように見つめ、恐々と手を伸ばしている。その様子に軽く目尻を下げてから、アシュリーは目当ての本を探す為にそっと傍を離れた。

 本を見付けてイルムガルドの傍へ戻ったのは十五分後のことだったが、イルムガルドは最初の場所から一歩も動いていなかった。手にしている本は変わっているけれど、本棚に置かれた一つ一つを手に取っていたのだろう。十五分では見終えるはずもない。

「イル、あったわ、多分これね」

 声を掛ければイルムガルドは目を瞬いてから、少し照れ臭そうに笑う。夢中になって本を見ていたことに、本人も今気付いた様子だ。アシュリーは彼女が閉じて戻した本の背表紙を横目で確認してから、再び移動を促す。今度は自由に会話をしながら過ごせるという三階の一角へ。許されている場所以外では、館内は極力静かにしなければならない。しかし二人で一つの本を見るにはそれは少し不便だ。

 その一角では、並ぶテーブルの所々に人が座り、みんな普通に会話をしていて程よくざわついている。これなら、気兼ねなく話せるだろう。二人も近くのテーブルに並んで座った。目当ての本を開き、該当しそうなページへ移動する。シーソーと同じ形をした図が幾つも描かれて、理論が易しい言葉で説明されていた。けれど。

「う~ん、分かったような、分かんないような?」

「そうね、私も今ほとんど『そういうもの』という理解になっているわね」

 実際に体験したのだから、中心からの距離と重さの乗算が左右で一致すればいいと言われたら「なるほどそれくらいの位置だったかも」と思うけれど、じゃあ何故そうなるのかと考えると、二人には分からなかった。しかし説明文を見ながら、ここが分かった、ここが分からない、などと言い合うだけでも二人には楽しいようで、あちこちのページに飛びながら、二人はいつまでもその本の上で話をした。

 気が済んでその本を返す時に、代わりにアシュリーは先程イルムガルドが読みかけていた本を棚から引き抜く。改めて確認すればシリーズになっている童話だった。

「それ、わたしがさっき見てたやつ? 何か変なところに返してた?」

「いいえ、そうじゃないわ。……えーと、ここにあるのは三冊だけね」

 三冊で完結しているのかは定かではないが、見たところ近くには置かれていない。首を傾けているイルムガルドに微笑む。

「借りていきましょう? 家ならゆっくり読めるわよ」

「あ、そっか、借りられるんだっけ」

 まだぴんと来ていなかったらしい。アシュリーに言われて初めて思い至った様子で目を瞬き、そして、すぐに目尻と耳を赤くしていた。表情はあまり変わらなかったが、どうやら、喜んでいる。一階で借りる手続きをする際には、来た時とは違ってイルムガルドも横でじっと見ていた。この様子なら、次からは一人でも本を借りてくるかもしれない。

「今日は沢山遊んだわね」

「うん、楽しかった。アシュリー疲れた?」

「少しだけね、でも私もすごく楽しかったから、気持ちがいいわ」

 仕事でくたくたになるのとは全く違う疲れだ。身体の疲労はあるけれど、心はむしろ元気になっている。昨日と同じくイルムガルドが手を伸ばしてくるのに応じて手を繋ぎ、のんびり歩いて帰路に就く。

「アシュリーは、何処か、行きたい場所ってないの?」

「どうしたの、急に」

「だって今日、二つもわたしが楽しい場所、連れてってくれたから」

 そう話すイルムガルドは、大切そうに借りた三冊を抱いている。そんな風に言うほど喜んでくれたことは、アシュリーにとってこそ、喜びでしかないことだ。気遣われるようなことではないと思えた。

「私も行きたかったから行ったのに。イルの我儘を聞いたつもりは無いわよ?」

 しかしそれを伝えても、イルムガルドが首を捻ってしまうから、アシュリーは改めて丁寧に、アシュリー自身も公園で楽しく遊んだこと、図書館でイルムガルドと一緒に本を読んで楽しかったことを伝える。付き合わされたような気持ちはアシュリーには少しも無いのに、そう思われてしまうのは悲しかったのだ。けれど、イルムガルドは眉を下げて、その点についてはちゃんと分かっているのだと笑った。

「だけどアシュリーが、わたしの好きなもの沢山考えてくれるから、わたしもアシュリーの好きなものが知りたいよ」

「……もう、すぐにそういうことを言うんだから」

 返った言葉がアシュリーには予想外で、思わずそう言って顔を逸らす。まだ夕方にもならない時間で明るいのに、染まった頬を隠す為に夕暮れが来てくれないかとアシュリーは一瞬、視線を空に向けた。

「そうねぇ、今は何だか好きが募って、あなたとベッドに行きたい気分よ」

「あはは、それは、わたしも大好きな場所だなぁ」

 半ば仕返しのつもりで返したけれど、こんな言葉でイルムガルドが照れるはずもない。むしろ嬉しそうに声を弾ませて、繋がっていた手が握り直される。アシュリーは小さく「もう」と言い、イルムガルドの顔を見られないままでその手を柔らかく握り返した。

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