アルヴァ2

「訳わかんないけど……お断りよ!」


 鉄の装備からスペードソードとダイヤアーマーに変換する。

 まだよく分からないけど……このアルヴァとかいう魔人は、強い。

 だから、私に出来る最強の備えをして……アルヴァが、目を見開く。


「今のは……空間収納? それだけじゃない、一瞬で換装を? フッ……面白い!」


 アルヴァの手の中に、黒い闇の塊みたいなものが生まれる。

 ゾワゾワと蠢くそれは「ダークバインド」という声と共に無数の黒い触手となって私に向かって伸びてくる。


「こんなもの!」


 一気に前へと走って、黒い触手を斬り裂いていく。そのままアルヴァの眼前まで近づいて一閃すると、アルヴァの身体がゆらりと揺らぐ。


「迷いのない、良い一撃だ。それに……フフッ、あのステータスは何かの偽装か?」


 揺らいで、消える。その場に蠢く、黒い闇の塊を残して。


「あっ……きゃっ!?」


 弾け広がるようにして現れた闇の触手の一本が私を掴み取り、空中へと伸びあがる。

 そのまま無数の触手が私を拘束しようとして……振るったスペードソードで、その全てを斬り裂く。

 眼下には、余裕の表情のアルヴァ。

 その手の中には、あのダークバインドとかいう闇の触手。

 私を捕まえようと、伸びあがる。


「なるほど、拘束からは逃れた。それでどうする?」

「こうするのよ!」


 私を捕まえようとした触手を足場に、跳ぶ。

 闇の触手は当然私を捕まえようと更に伸びあがって、アルヴァは失望したような表情になる。


「……愚かだ。翼もなければ、飛行魔法を使う様子もない。それでどう逃げる」

「言ったでしょ……こうするの!」


 2段ジャンプ。「アリス」に許された、空中を蹴る跳躍法。

 翼が無くても高く、そして……遠くへ。

 1度のジャンプでは届かない遠距離までの到達を2段ジャンプは可能にしてくれる。


「なっ……空を蹴る、だと!? くっ!」


 私を捕まえ損ねた触手を置いてきぼりに、跳んだ先の木の幹を私は壁にして蹴る。

 そうして、再度の跳躍。グワンと揺れる木をそのままに、私はアルヴァに向かって跳ぶ。


「自ら来るか……ならば受けよ、ダークバインド!」

「それは見飽きたわ!」


 闇の触手を斬り裂いて、私はアルヴァへと迫る。


「だろうな……! シャドウ!」

「えっ!?」


 アルヴァの足元から伸びあがった、黒い人型。

 これは何? アルヴァの影?

 斬り裂いて着地した先には、もうアルヴァは居ない。


「バインドチェーン」

「あっ!」


 足元、私の影から伸びた鎖が私を絡めとる。

 腕を、足をギチギチと締め付け、スペードソードを振るうことも跳ぶことも許さない。

 そして……目の前に、ゆらりとアルヴァの姿が像を結ぶ。


「やっとか……全く、手間をかけさせる」

「こんなもの……!」

「無駄だ。だが……誇っていい。貴様はこの俺に搦め手などというものを使わせた。真正面からでは捕獲を無理だと諦めさせ、策を弄させたのだ。ブラックメイガスたる、この俺にだ!」


 ……そういえば、さっきもこの男はそう言われていた気がする、と思い出す。

 ブラックメイガス。それは、何?


「……何なの、ブラックメイガスって」

「何?」


 私の疑問に、アルヴァは驚いた、というか……信じられない、といった表情を見せる。


「知らんのか? 闇の御子、尊き黒を背負う名を……最強の魔法使いたる、この俺を!?」

「知らないわ」

「……フッ、そうか。まあ、いい。勇者との戦いからすでに400年以上の時が過ぎた。そういうこともあるだろう」


 勇者との戦い?

 まさか私を巻き込んだアレじゃないわよね。

 先代勇者とか……そういうのかしら。


「だが、貴様はもう気にする必要はない。その身体、その魂……余すところなく、俺のものになるのだからな!」

「……変態」


 思わずボソッと呟くと、アルヴァは思わず怯んだような表情になる。


「へ、変態だと!?」

「変態でしょ? 拘束趣味の少女趣味。100人に聞いて99人が変態って言うわよ」


 残りの1人は、同じ趣味の人。居るか分かんないけど。


「違う! 貴様の身体を乗っ取って新たなるブラックメイガスとして……!」

「新たなるって……貴方、お化けなの?」


 空間魔法で逃げてるんだと思ったけど、お化けっぽく出たり消えたりしてたってこと?

 でも、私に触れてたわよね?


「アストラル……高度精神体と言っても分かるまい。そして残念だが、もう時間稼ぎには付き合わん。貴様が手の中に握りこんだソレ……気付かんとでも思ったか」

「あ、バレちゃったかしら」


 そう、この会話の中で……私は「ソレ」を手の中に生み出した。

 この世界でどんな効果を出すか分からなくて使えなかったもの。

 いざという時の、たった3回の切り札……その鍵、ボムマテリアル。


「ソレが何かは分からんが……使わせん!」

「それは無理よ」


 黒い霧の塊のような姿になって私に迫るアルヴァに、私は笑う。


「クローバーボム」


 視界が、光に包まれる。

 私の敵を消し飛ばす裂光が、世界を斬り裂いて。

 身体に入り込もうとしていた黒い霧が……アルヴァが、悲鳴一つ残さずに光の中に消え去っていくのが見えた。

 私を拘束していた鎖も、オーク達の死骸も、何もかもが消えて……残っているのは、私だけ。


「ね? だから言ったでしょ……無理だって」


 響くレベルアップの音は……私がソードマンの最大レベルである「レベル40」になった事を告げていた。

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