第48話 喫茶店での一幕
スズとヒナコは、王都にある【喫茶ヒナモリ】に来ていた。
ハーブティが、充実した国であるらしく、様々な種類があった。
「ねぇ、スズってアラタの事どう思ってるの?」
ヒナコはスズと少し深い話がしたいなと思って、カフェに誘ったのだ。
「どうって?」
スズはハーブティを一口飲んで、聞き返した。
「好き……とか?」
キョトンとしたスズであるが、「今のところは、気になる相手」と答えた。
「そ、それって男として?」
ヒナコは身を乗り出した。
スズは少し考える。
「……うーん、多分そうかな?」
そこまで確信があるワケではないようだ。
スズが異性に興味を持つイメージが無かった。大変めずらしい事である。
学校で男子生徒に告白されても、断るだけだったからだ。
ヒナコは照れるわけでもないスズを見て、
「ふーん、スズって目の付け所が独特よね。何でアラタなの?」
失礼な言い方だが、ヒナコは我慢出来ずに言ってしまった。
スズはもう一口、ハーブティを飲むと、
「私、昔から家の事情で色んな人に会う機会があった。だからアラタって今まで全然会った事の無いような人だから、気になった……のかな?」
ヒナコは、そりゃアラタみたいな普通の人は、宮森家には出入りできないからね、と思った。
宮森家は華道の家元で、格式が高く、そうそう敷居を跨げるものでは無かった。
財界の大物や、政治家、その子供といった人達が主に宮森家に出入りしていた。
もしかしたらスズって、人を見る目が無いのかな? と思ったヒナコだったが、流石にそれは口にできなかった。
現在【喫茶ヒナモリ】にはアラタと接点を持った別のグループも客として来ていた。
【草原のあかつき団】という駆け出しの冒険者パーティーである。
ミンファとロイズは二人共戦士である。そしてもう一人の戦士アルゲド。
武道家のホルン。女盗賊のギリ。女魔法使いのアンナの六人編成である。
「え? アラタと二人でクエストに行っていたって?!」
ロイズはことの成り行きを聞いて驚いた。
「にがっ」
ミンファは苦手なブラックコーヒーを注文して一口飲んだ。
「そうよ。だって、一人で行くって言うから」
「仲間じゃないだろ? 何でそこまで」
ロイズは納得いかない。
「仲間じゃなくてもキョウキから助けてくれたわ。逆に仲間の誰かさんは傍観してたしね」
ミンファはジト目でロイズを見る。視線が痛いので思わず目を反らす。
「そ、それは謝ったじゃないか。ミンファだって許してくれただろ?」
魔法使いのアンナは二人のやり取りを見て、
「あんたさあ? それで済むって思ってんの?」
と口を挟んだ。
「どういう意味だよ?」
ロイズはアンナを見た。その言い様に苛ついてもいた。
その様子に、こいつダメだな、とアンナは思ったが、
「分からないなら別に良いんじゃない?」
と手をひらひらさせて答えた。敢えて説明する必要はない。
謝った所で全てが元通りになるわけはないのだ。ロイズがミンファを好きなのは皆に筒抜けの事実である。キョウキからミンファのことを、ロイズは守らなくてはならなかった。その事に気がつかない程の疎い男に諭しても仕方ないのだ。
「それよりも問題はそこじゃない」
リーダーのホルンが声を上げる。二十三歳のこの男はパーティーでは年長だ。幼いころから武芸に励み、メンバーでは頼れる兄貴である。
「ミンファ、【草原のあかつき団】には幾つかの約束事があっただろ?」
「そうね」
「それは何だ? 言ってみてくれないか?」
ホルンは努めて冷静に話している。
「パーティー内の恋愛禁止。他の冒険者とメンバーの承諾無しにクエストに行かない。最低でも週に一度は必ず皆でギルドの依頼に参加する。だったかな?」
「そうだ。ミンファ、君はそのアラタという冒険者と我々の承諾なしにギルドの依頼を受けた。これは約束事を破ってはいないか?」
「……破ったわね。ごめんなさい」
「ミンファ。これは俺たち仲間内だけの決め事だ。だけど、これらが無かったら、この程度の事が守られなかったら、パーティーって存続できるものなのか? いずれ空中分解してしまうんじゃないのか?」
ホルンの言っている事ももっともである。
破るとどうなるのか。メンバー内でその手の罰則は特に決めてはいない。何故なら、守れない約束事でもなかったし、破るものもいないだろうと考えていたからだ。
あまり酷い場合は除籍処分になるだろう。
だが、今回の件はそこまでのものではない。
何よりミンファはパーティーの重要な戦力であった。
「だから、ここはミンファの奢りだ」
「そんなのでいーの? 分かった。私がここは奢るわ」
結局その程度でしかない。だが、リーダーであるホルンはさらに一言添えた。
「ミンファ、アラタとは今後クエストには行かないようにしてくれないか?」
「何故?」
「言った通りだ。君は【草原のあかつき団】のメンバーだ。無駄な体力は使って欲しくない。もちろんアラタがこちらのメンバーになるというなら構わない。だが、聞いた話によるとアラタは異世界召喚者だというじゃないか。異世界召喚者は勇者だろ? 魔王討伐の旅に出るのだから、我々の仲間にはならない。今後は適度な距離を持って付き合って欲しいな」
「出来ないかもしれないと言ったら?」
ミンファはそれでも納得出来なかった。アラタとまた野草の採取に行きたいと思っていた。
「パーティーを抜けてもらうしかないだろう」
「「え?」」
他のパーティーメンバーが驚いた。
「ち、ちょっとそれはいくらなんでも」
「そうだよ。ミンファが抜けたら」
「ミンファ、ホルンに約束しろよ。アラタに合流しないって」
みんな口々に騒ぐ。
「ミンファ、皆も聞いてくれ。俺はこの【草原のあかつき団】をもっとランクアップしたい。だが、正直言えばまだ大した依頼を受けれていない。力不足なんだ。安い依頼しか受ける事が出来ないから、結成して三ヶ月のこのパーティーは各々生活していくのでやっとの事だし、装備品の補充だってままならない。俺たちはもっと団結していかなくては先に進めない。キョウキからミンファを助けてくれたアラタは確かに良い奴だと思う。だけど俺達には他人に時間を使う余裕はないはずだ。そうだろ?」
「確かに……そうね」
それはミンファも分かっていた。一人の勝手な行動はパーティーを危険にさらすのものだと。
加えて、アラタは一人でも充分にやっていける力があった。
つまりミンファの力は必要ないのだ。
それでも力になりたかった。
何故かアラタの事を、放っておけない。
それが何故なのか、ミンファには分からなかった。
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