第50話 合コン
今朝アラタに、なぜそのような事をしてしまったのか混乱したクロエは、部屋のソファーに突っ伏していた。
あんな事をするつもりではなかったのだ。
(わ、私が、アラタにキ、キスをーーーー?)
「ひゃー!」
思い出す度に恥ずかしくなり、身悶えして転げ回る。次、どんな顔をしてアラタに会えばよいというのか。
そして、そのままソファーに突っ伏した状態で数時間が経ってしまっていた。
冒険者の面倒を見るどころの余裕がなく、カナリンが、代わりに行く事となった。
そして、仕事に追われているカナリンは勝手に勇者達を休みにしてしまったのだった。
◆◆◆
【春風亭】で、冒険者ギルドの受付嬢との合コンが始まった。
サラはイズミが、アラタを呼ぶから出席してほしいという話に踊らされ、結局来てしまった。
しかも、気合いを入れて少し奮発して、エステにも行った。
さらに、自分のお尻に魅力を感じてるというイズミの発言を信じてしまい腰のラインが出るピチッとしたワンピースを着てきたのだ。
全てアラタのために準備してきた。
サラとしては、かなり積極的に動いたのだった。
だが、アラタは来なかった。
ジト目でイズミを睨む。
イズミはその視線から目を背けた。
(やはり、アラタさんが来るはず無かったわ。真面目な方だもの)
サラの中でアラタの好感度が上がる。
「取り敢えず自己紹介。俺は武内ツバサ。勇者で、元の世界ではタレントをやってる。こちらでは、演劇があるそうだから、それに近い仕事かな?」
「僕は設楽タカヒト。勇者で学生だ。父は議員。政治家だな」
二人とも無難に自己紹介を終えた。
問題は冒険者である盗賊のルスドだ。
ツバサもタカヒトも、何とも言えない顔でルスドを見ていた。
ルスドは、整髪料を塗りたくって、テカテカの七三のヘアースタイルにしていた。
何処から調達したのか、カラフルなスーツはまるでコメディアンだ。
普段通りでいいと言ったのに、一体全体どうしたら、そんな仕上がりになるのか。
「お、お、お、お、お、俺は、る、る、ルスド。歳は三十七歳。と、盗賊です!」
完全に舞い上がっていた。
かなり年が離れてるなと、サラは思った。
彼女の前に座っているルスドは、気持ちの悪い笑顔をサラに向けている。ルスドは生粋の盗賊で人に愛想をふりまくタイプではない。笑顔を作る表情筋は退化していた。
受付嬢は、冒険者とはある程度の距離を持って接するように教育されている。
だが、実際そこに、こだわっていると異性との出会いはなくなってしまう。
サラはその真面目な性格のせいで出会いがなく、冒険者ギルドの受付嬢を仕事にしてからは、異性との交際は遠のいているばかりである。
「じゃあ、今度は私達ね。私はイズミ。二十三歳。今日は楽しくお食事会しましょう」
「私はジュリ。二十二歳。イズミに誘われたから来ました」
「えっと、私はサラ。二十二歳。ジュリとは同期で。今日は人数合わせで来ただけなんで……」
サラはアラタもいないことなので、食事を終えたら、よき所で帰る予定であった。
乾杯して、食事をしながら会話をする。
イズミはツバサと。
ジュリはタカヒトと。
そして、サラはルスドと。
「さ、サラさんは、こぉいう席はあまりお好きではない?」
完全に挙動不審なルスドである。緊張のためか先程から酒を飲む手が止まらない。
「えぇ。苦手ですね」
サラはここは割りきって笑顔で答えた。
「お、俺もダメなんスよ。どぅでもいいですよねー。出会いなんて自然が一番スよ」
「はぁ、そうですか……」
サラはルスドの格好を見て、とてもそんな風には見えないなと思った。
◆◆◆
春風亭での合コンは、ルスドが緊張のため飲み過ぎ、泥酔したためお開きとなった。
ルスドを介抱するツバサとタカヒトだ。
「お、俺はよぉ。昔は恋人もいて友人もいて、楽しくやってたんだ。夢持ってやりたい事やってれば、彼女もずっと付いて来てくれるモンだと思ってたんだ。それがある日突然、貴方との未来は考えられないって振られたんだ。それで、あいつはお堅い商人の元へ嫁いで行っちまった。仲間もいい歳だからと冒険者を引退した。この年まで冒険者やってりゃあ潰しは効かねぇ。身体が動かなくなったら終わりだ。魔王討伐の旅に出れば、国からたんまりとまとまった金が支給されるんだ。俺はそれを元手に人生をやりなおすぞー!」
中年男性が、独身を拗らせていた。
ツバサもタカヒトも、ルスドが随分な年上だけに失礼な事も言えない。
二人ともまだ、十代でルスドの気持ちなど分かるハズもなかった。
若い時に恋人がいても、夢や希望に溢れた若者が彼女の為にそれを捨てて家庭を築く。
それがルスドには出来なかった。
結局、ズルズルと冒険者を続けてこの歳になってしまったのだ。
結局ツバサとタカヒトは肩を貸してルスドを宿まで運んだ。
「俺達も帰るか?」
タカヒトがツバサに聞いたが、ツバサはこの後用事があると言って、夜の町に消えた。
「あいつもよくやるよな」
そう言ったタカヒトは眼鏡のブリッジを上げた。
ちなみにツバサは、この後イズミと合流して朝まで過ごしたのだった。
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