第5話 パーフェクトダンス。

 ザワザワ


 ザワザワ


 エルネスティが会場入りしてから、ずっと周りがザワザワしてる。


 そして、ものすごい数の視線を感じる。


 こんなにも多くの視線を感じたのは、男だった時に拳聖として駆り出された戦争で潜り抜けた死線の時以来だな。


 あの時は本気で死ぬかと思ったぜ。


 まあ、それはそれとして、あまり目立ちたくないのでさっさと壁の花になろう。


 そして、そそくさと壁と同化する。

 ふふ、こんな時は隠蔽スキルは役に立つな。


 音楽が流れ初め、中央でダンスが始まっていた。

 皆さん、楽しそうで何より。

 チラリと窓の外を眺めながらグラスのドリンクを煽る。


「お?これ、うまいな」


 感動していると突然、頭に衝撃を受けた。


「痛!」


 な、何だと!

 この俺が不覚を取られた…だと!

 一体誰が…。


「誰!……誰?」


 すると、また彼から頭上にチョップをくらう。


「あ痛っ!酷いわ!2度も叩いたわね!お母様にも叩かれた事ないのに!」


「叩かれる事、言うからだろ!エルネスティ。まさか淑女院の長期休暇の度に連れ回していた婚約者の僕の事を本気で忘れていたのかな?」


「え、えーと」


{アルベルト・ザッケローニ。ザッケローニ伯爵の次男坊さんで婚約者ですよ?馬鹿なんですか?}


〈……ガウ〉


「あ、アル…(いや、背ぇ伸びすぎだろ!本気でわからんかったわ!)」


「正解。……とこでエルネスティ?何故、君は1人で此処にいるのかな?」


「え?えーと…」


「僕が迎えに行くって伝えておいたよね?迎えに行ったら君は居なくて屋敷は騒然としていたよ?」


「あ〜。その、すっかり忘れていまして1人で車で来ちゃいました。えへ」


「えへって。……君のデビュタントなんだからエスコート役が付くくらい思いつこうよ。全く入口で余計な恥をかいたよ」


「それは大変申し訳ございませんでした。…でも良く私が先に会場入りしている事が分かりましたね」


「そりゃね。君の昔からの行動パターンは把握しているよ。それに君の母上からもエルの事を頼まれているからね」


「それは、いつもご苦労さまです」


「ねぇ?本当に悪いって思ってる?ハア。全く、あのお転婆エルがそうそう変わるとか思って無かったけど君はいつも僕の予想の斜め上を行くよね?」


「あら?私、これでも淑女院は卒業したのよ」


「手に負えなくて追い出されたとかじゃないの?」


「酷い言いようですわね」


「自分の過去を振り返って見てもそんなこと言えるわけ?」


「ゔっ」


「自覚はあるんだ。ハア。まあ、いいや。じゃあ、お詫びの印に1曲、この私めと踊って頂けますか?エルネスティ」


「わかりましたアルベルト様」と唇を尖らせてぶうたれてみる。


「ふふ。君は変わらないね。お手をどうぞレディ」


「あら?本当に変わらないとお思いで?アルの知らない私のパーフェクトなダンスを披露致しますわ」


「そりゃ楽しみだ」


 そして、曲の変わり目で一気にダンスの集団に紛れる。


 踊っている最中に周りから今まで踊っていた人達が1組、また1組と去っていた事に気が付かないまま、アルベルトと軽口を叩きながら軽快なステップを刻んでいた。


「凄く上手になってる。驚いたよエル」


「あら?こんなものではなくてよ。いっその事、私がアルをリードしちゃおうかしら?」


「ふふ、僕も負けてられないな」



 最後まで一進一退の駆け引きをしながらパーフェクトダンスは最高潮を迎え、最後のロールを熟し、完璧な礼を持ってダンスを終えた。


 その瞬間、大量の拍手喝采が起こりアルベルトとエルネスティは何事かと顔上げると周り全てが拍手していた。


「ブラボー」


「素晴らしい」


「素敵でした」


 周りを囲まれて次々と挨拶してくる。


 特にお嬢様方からのチヤホヤ具合が凄い。

 思わず、顔が緩みっ放しになる。


(やべー。俺氏のモテ期到来かも)


{同性に好かれても生産性ないと思うけど}


〈ガウガウ〉




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