第六九話:俺の許嫁たち

∞∞エロリィ・ロリコーンの場合∞∞


「アイン、もうね、ちょっと歩くのが速いのよぉ」


「なんだ? エロリィ、疲れたのか?」

 

 振り向くアイン。銀色と黒の髪が揺れるのよ。

 本当は全然、疲れてなんかいなかったのよ。

 アインの魔素と魔力がいっぱい体の中に流れ込んで全然、疲れなんてないの。


 ただ、前を行く、アインの顔を見たかっただけ。


「ワンワンワン!!(ここは私が馬となります!)」

 

 魔道具で奴隷にしたガチホモ兵が媚びるように言った。

 今や、天才でプリンセスの私の従順な犬だ。


「もうね、ご褒美に乗ってあげるのよ~」


 楽できるに越したことがないので、ポンと乗ってやった。

 エルフがこっち見て、プルプル震えていた。

 エメラルドグリーンの髪が振動している。

  

「おい、千葉ぁ、いい加減諦めろって……」


「ああ、分かっている。俺は、俺はアインの婚約者として相応しい行動をとらねばらぬ。それも、またエロリィちゃんへの愛の形――」


 また、エルフがよくわからないことを言っているのよね~。

 王国への巡礼者の中には、このエルフと同じようなのがいっぱいいる。

 珍しくもない。


 犬に乗りながら、私は前を歩く婚約者の後姿を見つめる。

 アインザム・ダートリンク。アイン。

 黒と銀色の髪の毛をした私の婚約者――

 はっきり言って、カッコいい。

 もうね、凄くカッコいいと思う。


 初めて会ったとき、一目見てドキドキした。

 こんなふうになったのは初めてだった。


 話には聞いていたけど、こんなカッコいい男が自分の婚約者だと思うとうれしかった。


「きゃははは!! アンタが婚約者なのね! もうね! カッコいいわね!」と、大絶叫しようかと思った。

 けどやめた。


 胸の内の動揺を悟られないようにいつも通りに話したのよ。

 いつも冷静沈着な私らしい対応だったと思う。私はこれでも、神聖ロリコーン王国のプリンセスなのよ。

 

 私は禁呪の天才でプリンセスだ。もはや、この世界で最高の存在といっていのよ。

 そして美しい。もうね、美貌でも頭脳でも世界最高。

 超絶的と言っていいと思う。それが、私、エロリィ・ロリコーンなのよ。


 この世界は私という存在を生み出すためにあるのだと確信している。

 だから、私に釣り合う男なんていないと思っていたのよ。


 私の国には多くの男がやってくるのよ。

 神聖ロリコーン王国は、ある種の男にとっては聖地なのよね。

 もはや、王家の存在は崇拝の対象といっていいのよ。

 巡礼と称してそのような男が大量にやってくるのよ。


 ただ、私に釣り合う男なんているわけがないのよ。

 私を崇拝する下僕どもは山ほどいたのよ。でも、全然そんな奴らは男にみえないのよ。


 そんなときに、王国にやってきたのが、今前を歩いているルサーナだった。

 今は、私の義母になるわけだけどぉ。


「銀髪の竜槍姫」が直々に国にやってきた。超大国パンゲアの姫で、この世界を救った救世主の一人だ。

 

 その時は、王宮が、結構な騒ぎになったのよねぇ……

 だって、もうガチ※ホモ王国が戦争を始めていたし、パンゲアは同盟国だし、しかも、パンゲアには大量に借金していたし。


「これは、戦争が始まって、借金を一気に取り立てにきたのかもしれません」


 王宮の中にはそんなことをいう言う者もいた。

 でも、違っていたのよね。

 ルサーナが会いに来たのは私だったのよ。


 なんでも、敵に襲われ、異世界に転移した夫と息子を助けたいという話をもってきたのよ。

 もう10年以上前の話で、やっと転移先が分かったのよって。

 その「敵」ってのが何かよく分かんないけど。


「というわけで、異世界へ転移可能な、エロリィ姫の力をお借りしたいのです」


 伝説の救国の英雄の1人が頭を下げた。

「雷鳴の勇者」と「銀髪の竜槍姫」たちが恐ろしい「滅びの【シ】」という存在からこの世界を救ったのは、もう子どもで知ってる。


「もうね、ただじゃ、いやなのぉ~」


 いくら救国の英雄の頼みでもタダ働きはできないのよ。神聖ロリコーン王国の財政は火の車。破産宣告寸前なのよ。

 もうね、禁呪の研究にはすっごくお金がかかるのよ。


「そうですね。最高の報酬を用意してあります」


「ふーん」


「エロリィ姫は、私の可愛いアインちゃんの婚約者になれるというのはどうでしょうか?」


「はぁ? なんなのよ?」


 この女は頭がおかしいのよぉぉぉ! もうね、絶対おかしいのよ。

 このときは、そう思った。


 ルサーナは、自分の息子がいかに天才で最強で、可愛いかを語りだしたのよ。

 長い話は大嫌いなのよ。

 途中で禁呪を喰らわせたくなった。


「らめぇ……」

 

「エロリィ様…… 自重を」


 私の身の回りの世話をしているペドリーノが私を止めた。

 止めなければ、禁呪をぶち込むことだったのよ。

 このとき、止めてくれたペドリーノには感謝しているのよ。


 ペドリーノは見た目15歳くらいの清楚な少女に見える。

 そもそも、私の国の女性は成人しても、大きくならない。


 ペドリーノは私のママの御付きもやっていたのだが、今もその姿は美しいと言っていい少女なのよ。

 神聖ロリコーン王国の女性はだいたい8歳から17歳くらいの外見で成長が止まるのよね。

 王家に近い血筋のものほど、外見が幼いままなのよ。


 私は禁呪の詠唱を止めた。

 ちょっと逆流してきた魔素が口の中に溢れてきた。

 それを飲み込む。苦いのよぉぉぉ!!


「それとは別に金銭的報酬も出します」


 ルサーナに付き従っていた男が平べったいなんの感情もこもらない声で言ったのよ。

 その金額は、悪くなかった。

 私は了解した。

 星の配置をみると、向こうが言う異世界に転移できるのは3か月後くらいだ。

 

 で、私はルサーナの屋敷に行った。

 そのときは、婚約になるって話は別どうでもよかった。


 ただ、そのアインという存在には少し興味がでてきた。


 精霊を目視して自由自在に操り強力な魔法を放つ――

 2歳の時に巨大なカオスドラゴンを一撃で倒した――

 5歳で魔神が棲んでいるダンジョンを制覇した――


 本当だとすれば、人間じゃないって思っていたのよ。

 でも、本物はそれどころじゃなかった。

 

 私たちが3人ががりで苦戦した魔物を一撃で倒すし。

 15万人のガチホモ兵を一撃で葬り去るし。

 宇宙に飛び出したパンゲア城を自由に操るし。

 

 夜は本当に鬼畜で無敵だし……

 この私の幼い身体でも容赦なしなのよ。



 もうね、凄いのよ。

 絶対にアインの遺伝子が欲しいのよ。赤ちゃんを産みたいのよ。


 あの時、ルサーナに呼ばれて屋敷に行ってよかったのよ。

 断っていたら、アインに会えなかったし、婚約者にもなれなかった。

 

 でも…… 


 私は奴隷の犬に揺られながら、視線を一人の女に送る。そして、もう一人の女に移す。

 その屋敷で会ったのが、この二人なのよ。

 この目の前を歩く、赤ゴリラ女とデカ乳メガネだったのよね。


 長い緋色の髪が揺れている。無駄に長い髪なのよ。色からして暑苦しいのよ。

 でもって、左右非対称。なんのよ。このセンス?


 そして、メガネのデカ乳女。ホルスタインみたいな胸して。アインの腹違いの姉なのよね。

 もうね、今のところ、最大の敵ね。もうね、いつか殺してやるのよ。

 もう絶対に。


 だから、私以外に殺されるのは、許せないのよ――




∞∞ライサ・ナグールの場合∞∞


「あはッ! 早く登って、ガチホモ四天王を皆殺しにしようね! アイン」


「お、おう」


 私が見つめるとアインは照れたように顔を赤くした。

 可愛い。でも、アインは強い。とても強い。


 初めて見たときは、優男と思ったけど。

 ダンジョンの中で、壁を切りぬいた時は驚いた。


 で、その後も凄く強い魔物を1人で簡単に倒した。

 私が負った深手も治してくれた。優しい男なんだ。強くて優しい。


 とにかく滅茶苦茶強い。こんな、強い「男」は、自分のオヤジ以外では初めてだ。

 多分、なんでもありの戦いだったら、私のオヤジでも危ないと思う。


 私も一応、ナグール王国の王女だ。

 ナグール王国は、多くの国民が傭兵となっている。

 主に、自国と同盟国が仕事場だ。

 ナグール王国では、幼少期から徹底した体術訓練を受ける。


 魔力回路から流れ出す、魔力を全身の経絡に流し込みパワーや耐久力強化する王家秘伝の技もある。

 ナグール王国の中でも、私より強いのはオヤジくらいだと思っていた。


 そして、ガチ※ホモ王国と戦争が始まって、私はパンゲア王国に派遣された。

 ナグール王国にとって、最重要な国だ。

 だから、オヤジを除けば最強の私が行くことになった。


 パンゲアはでかい国だ。私らの国なんか問題にならないくらい大きい。

 かといって、風下に立つ気なかった。

 戦争は、腕だ。

 強さこそが全てだ。


 パンゲアの軍隊も全部私の傘下に入れようと思ってた。

 

「ま、出来る物なら、やりたまえ―― ただ『銀髪の竜槍姫』には手を出さん方がよいな。ライサ」


「あはッ! もうババアだろ?」


 そんな私の言葉を苦笑をうかべ、オヤジは見ているだけだった。


「銀髪の竜槍姫」は有名だった。救国の英雄だってのは知っている。

 同じく世界を救った「雷鳴の勇者」と結婚して子どもがいるって話だったが、なんでも敵の襲撃を受けて、旦那と息子は行方不明だって話だ。

 子どもは、私と同じくらいの歳だってことだけど、行方不明じゃ関係ない。


 舐められる気はなかった。

 だから、血の気の多い、パンゲア兵とも何度もやりあった。

 全員叩きのめしてやった。


「あはッ! パンゲアで一番強い奴を出して来い! しめてやる! 舐めるなよパンゲア」


 味方をぶちのめし、敵をぶち殺し、私は戦場を駆け巡って、どんどんパンゲアの天辺に近づいた。

 そんで、出てきたのが、ルサーナだった。今は私の義母だ。


「素手が希望なのかしら?」


 銀色の髪をなびかせ、ルサーナは言った。


「あはッ!別にいいよ。槍でもなんでも使えば。どっちにしてもぶちのめすから」


 確か、槍使いと聞いたが、まあ味方同士だ。武器を使っての戦いは無い。

 今までも素手で叩きのめしてきた。

 ただ、相手には自由に武器を持たせていた。

 まあ、持つ奴もいたが、素手で挑んでくる奴もいた。

 どっちもぶちのめしたけど。


 それにしても、私と同じ歳の息子がいるとか信じられない。

 私と同じくらいの歳に見える。なんなんだ?


 でもって、殴り合いが始まった。

 ボコボコにぶん殴られた。

 何度も頭の中から意識が吹っ飛んだ。


 とんでもなく重くて速い蹴りが、お腹のど真ん中をぶち抜いてきたときは、背中に足が突き抜けたと思ったくらいだ。

 それでも、私はなんども、向かって行った。


「あはッ! 殺してやる!! ぶち殺してやる! パンゲアとか、関係ねぇぇ!! ド畜生! 殺す! 死ね! 殺してやる!」


 抑え込んでいた殺気がブチブチと体の中の鎖を引きちぎって表面に出てきそうになった。

 やばい。

 こうなったら、もう私自身でも止められない。

 ぶちのめすだけじゃすまない――

 あんまり、私を追い詰めるから……


 多分、その時の私は、紅い瞳が殺意を帯び、全身から放電するような殺気をまき散らしていたと思う。

 殺気で自分の髪の毛が逆立ってくるのが分かった。


「勝負なしです――」


 ふっと、間合いを開けて、ルサーナが言った。

 その顔には優しげな笑みさえ浮かべていた。


「なんだとぉぉ! 勝負なし?」


「そうです。引き分けでもないです。勝負は一時中断です――」


 その一言で、私の中の殺気がすっと消えた。

 全身から力が抜ける。いいようにやられたのは私だ。

 確かに、殺す気で、殺気を込めて戦ったわけじゃない。

 でも、そうしたといって勝てるかどうかは分からなかった。

 さすが、救国の英雄は強かった。


「アナタは、強いです。ライサ」


「こんな、状態で言われてもね」


「いえ、本気を出されたら、分かりませんでした」


「まあ、そういことにしてくれると嬉しいです」


 自然に言葉が丁寧になっていた。


「そこで、アナタに、ご褒美でーす!! アナタのように強い女の子は、私のアインちゃんの許嫁になる権利があります。どうしますか?」


「はぁぁ?」


「超可愛いアインちゃんは、今は異世界に言ってます。私はとってもさみしかったのです。でも、もう行く方法は分かりました。連れ戻します!」


「いや、それは…… いったい?」


「ちなみに、アインちゃんは私より強いです。2歳でカオスドラゴンを一撃で倒し、5歳で魔神のいるダンジョンを制覇しています」


 キッと真面目な顔でルサーナは私を見つめた。

 本当かよ?

 そんなのいるのか?

 すげぇえな、おい。


「ああ、なる! なるから」


 反射的に私はアインの婚約者になることをOKした。

 

 で、今は一緒に戦っている。

 全然後悔していない。

 戦いも強いし、アッチも凄く強かった。

 3人ががりで、やっとって感じだからね。


 しかし、コイツはどー思ってんだろうね?

 婚約者が増えてさ…… 


 私はまるで足音をたてず、塔を登る女を見た。

 胸がやたら大きく、目つきの悪いメガネをかけた女だ。

 

 コイツも強い。頭は完全に狂ってやがるが、戦闘力は尊敬に値する。

 ああ、いつか本気で命を懸けて、マジでやってみたいと思う。

 普段のじゃれ合いなんかじゃなくて……


 シャラート・ダートリンク。

 アインの腹違いの姉で、最初の婚約者だ。


∞∞シャラート・ダートリンクの場合∞∞


「あのさ、シャラート、また『ふー、ふー』言ってんだけど」


 アインが言った。ああ、また呼吸が荒くなってしまっている。

 まずい……

 最近は、頻度が上がっている。

 頭が、頭が凄く痛くなる……


 あの爆発で目をやられた。

 その傷の影響なのかもしれない。

 戦った後、凄く痛くなることがある。

 まるで、頭が割れそうになる。

 

 でも、アインに心配させられない。それに、アインに触られると少し楽になる。

 アインに胸を揉まれるのは大好きだ。キスされると溶けそうになる。


 だって、私はアインが大好きだから。大好きだから。大好きだから。大好きだから。大好きだから。

 ああ、痛い。頭が痛い。

 あああ、アインの遺伝子を体に入れてもらえば、頭痛は消えてるのかもしれない。


「アイン、また胸を…… 胸を揉んで欲しくなってきました」


「いい加減にしろ! 自重しろ少しは! 発情ホルスタインが!!」


「もうね、このデカ乳メガネはどうにもならないのよ。パンスケ以下なのよぉ」


 2人がなんか言っている。まあ、どうでもいい。

 ただ、この2人がいることで、何かアインとの関係が凄く刺激的でいい感じなる。

 あのエルフの言っていた「NTR」という考え方は分かる。

 考えただけで、体の芯が痺れてきて、少し頭痛が治まってくる。


「アイン」


「なに? シャラート」


「ガチホモ四天王を倒し、ガチホモ王を倒し、王族を救い出す―― そうです、この戦いに勝ったら」


「勝つだろ? 普通に」


 アインは自信たっぷりだ。当然だろう。私の最愛で、最強の弟で、恋人で許嫁で良人となる男なのだ。

 その銀色の髪の部分がキラキラと眩しい。


「そのときは、私と遺伝子を混ぜ合わせ、赤ちゃんを作ります」


「てめぇ! なに言ってんだ! 私だって作るぞ!」


「もうね、私なのよ! 私がまずは孕みたいのよ! アインに孕ませてほしいのよ!」


「む、俺も…… 俺も覚悟はできているぞ。アイン……」


「いいよ! お前は黙れよ! まずは、波動関数を集束させろよ。安定的に!」


「ああん、どうなの? 大人の女…… 年上はダメかしら(ああん、どうしましょ。いきなり、赤ちゃんが欲しいなんて…… ううん、正直になるのよ。真央。私だって、天成君の子どもが欲しい…… 女として、愛する男の子どもを孕みたいの。ああん、それは本能。28歳の熟れた卵巣が、本能的にうずいてくるのよ、うふ)」


「あのさぁ……」

 

 アインがグンニャリした顔で私たちを見つめている。その顔も可愛い。私の弟。そして最愛の……

 だから、絶対に守る。

 私が絶対に――

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