第六〇話:アインの遺伝子は渡さない! 許嫁たちの決意
「これが戦争だ! ああ、人類史、それは闘争の歴史であり、闘争こそが、人類を人類たるものとしているのだ! 戦争は文明の母であり、闘争こそが全ての真実! その他すべての物はまがい物なのだぁ! ああ、神よ! 黙して示せ! 神よ、我が血塗られた運命を受け入れたまえぇぇぇ!」
エルフの千葉が隅っこで絶叫。しゃがみこんで、地面に向かって絶叫している。
コロコロとそんな千葉の前になにかが転がってきた。
血まみれのガチホモの頭だった。目玉が飛び出して、辛うじて視神経でつながっている。
この破壊の度合いからいって、おそらくはライサがやったものだろう。
「ひーひひひひ!! ホモ・ハビリスが手にした石が! 骨が! その後の人類を決定付けたのだ! ああ、進化! 闘争と文明という血塗られた呪詛! 進化が闘争とともにあるというのなら、その血塗られた、二重らせんの軛(くびき)は人類にかけられた呪詛なのだぁぁ――!!」
すでに、人類をお辞めになり、エルフとなった千葉君の地面に向かった演説は続いていた。
「もう、そろそろ、終わりかな」
俺は目の前に展開される血の惨劇を見ながらつぶやく。
もはや戦意を失ったガチホモが、俺の婚約者たちに狩られているという感じだ。
シャラートのチャクラムが次々とガチホモの首を切断していく。
サラサラと長い黒髪が宙を舞うたびに、ガチホモの命が消えて行く。
大きく柔らかく抜群の弾力を誇る俺専用のおっぱいがプルンプルンと揺れる。
痴女でサイコで姉で婚約者。でもって、生まれついての暗殺者だ。
「ああ、死に行くガチホモの血が、私とアインの遺伝子の結合を祝福しているのですね」
首を切断され、吹きあがる血飛沫の中、うっとりとした声で、病んだセリフをのたまうお姉様。
「この、パンゲアの魔女がぁぁぁ! 死ねぇぇ!」
横にずらしたふんどしから伸びるブロンズの槍。その根元を両手で握りながら突撃するガチホモ兵。
シャラートはふわりと突撃をかわす。すれちがった瞬間、ガチホモの首が吹っ飛ぶ。血飛沫の尾を引きながら、放物線を描いて飛んでいく。
「逃げてもいいです。かかってきてもいいです。どちらでも、殺します――」
両手に血まみれのチャクラムを握りしめたシャラートが言った。
その顔には発情と愉悦の混ざった笑みが浮かんでいる。
「あはッ! バーカ! 死ね! 死ねよ! 殺してやる! ブチ殺すぞ! ド畜生がぁぁ!」
左手で釘バットを振り回し、右手で拳を撃ちこむライサ。
彼女の進んだ後には、グズグズに破壊された肉塊が転がっているだけだ。
「ブンッ」と唸りを上げて空間を切り裂く釘バット。ガチホモの脳天を直撃し、そのまま股下まで突き抜ける。
ガチホモが豆腐のように破壊されていく。
元々、炎のように鮮やかな緋色をしていた彼女の髪は、赤い返り血で赤黒く染まっていた。
「あははははッ!! 死ね! 死ね! 死ね! ああ、ガチホモは醜く潰れて死ね! あはッ! 楽しいぃぃ! 楽しすぎる!」
緋色の暴風雨のように、突き進むライサ。暴力と死を大量生産する美少女の形をした殺戮兵器だ。
「ぐぉぉぉ!! この阿婆擦(あばず)れがぁぁ!」
追い詰められたガチホモ兵が、ふんどしからはみ出した槍で反撃する。長さ70センチ、直径5センチのブロンズの槍である。
魔法のリングが変形したガチホモ兵の武器。
ガッ!
「な…… なんだとぉぉ! 拳でぇ…… 俺の槍を……」
ガチホモが腰の反動を使い撃ちこんだ、ブロンズの槍は、ライサの拳に止められていた。
いや違う――
ガチホモの槍は高い音を残して、粉々に粉砕されていた。
ヘナヘナと崩れ落ちるガチホモ兵。
「あはッ! こんな貧弱な突きじゃ何にも感じない!」
ライサは、牙をむいたような獰猛な笑みを浮かべ、無慈悲な一撃を脳天に叩き落す。
釘バットが食いこみ、当たった場所を血と肉の混合物に変えていく。
「あはッ! アインの一突きなら、私は体の奥まで痺れちゃうけどね――」
超絶美少女が、うっとりとした表情で俺の方を見た。血より紅いルビー色の瞳が射抜くように俺を捉える。
俺には、彼女を突いた記憶が無い…… いや、本当に無いんだけど?
「ああん、天成君は、やっぱり、もう大人の階段を上ってしまったのね…… (ううん、でもいいの。若い娘(こ)にはない大人の女の良さを教えてあげたいの。ああ、この28歳の大人の体を捧げるのよ。いいでしょ。天成君。ああん、教師の私が教え子の生徒にこんなに夢中になってしまうなんて、うふ)」
この殺戮劇から一歩身を引いて、見つめている池内真央先生が、毎度おなじみの爛れた内面描写を垂れ流す。最近は、音声の方もだいぶイカレてきているきがするが。
波打つキンキンの金髪に角が生え、露出狂としか思えないボンテージ姿。
おまけに、背中の羽がパタパタいっているわけだよ。
さすがのガチホモも、あんまり先生には接近してこない。
女というか、牝フェロモン垂れ流しが、やはりガチホモよけになっているのだろうか。
「ひゃははははははは!! 殺すのよぉォ! もうね、こいつら殺してやるのよぉぉ!」
金髪ツインテールから光子を振りまき、禁呪のプリンセスが叫びを上げる。
「ワンワンワンワン! ワンワンワンワンワン!」
彼女の奴隷であった犬が吠える。元ガチホモだ。
エロリィとガチホモ犬の連携攻撃が続く。金色のツインテールがたなびき、血飛沫があがる。
禁呪の魔力で練り上げた刃が次々とガチホモを貫いていく。
エロリィの魔道具で奴隷から、犬へとなり下がった、捕虜だったガチホモ兵。
このガチホモ犬も、かつての味方の喉笛を次々と噛み千切っていく。
「ひゃははははははは!! もうね、セバスチャン! どうなのよぉぉ!? 当然、私がリードしてるのよぉぉ!」
甲高い笑い声とともに、エロリィがセバスチャンに訊いた。
ガチホモを葬った数が1番だった許嫁が俺を一晩独占できるのだ。この決定に俺の意思は一切介在していない。
「えー、現在のところ、シャラート様が3281人、ライサ様が3284人、エロリィ様が…… ああ、3196人で3位にございます」
セバスチャンが極めて事務的にデータを読み上げる。
しかし、本当か? 本当に確認しているのか?
「あびゃ―――っす!! もうね、なんでアイツら、そんなに殺すのよぉぉ!」
北欧の神秘の泉を思わせる碧い瞳を見開き、驚愕の声を上げるエロリィ。
「もうね、禁呪の大量殺戮解禁なのよぉぉ!」
ぼわーっと、全身から青い魔力光が立ち上がる。
すっと伸ばした両腕にリングのような積層魔法陣が展開される。
「ああん、コンコンきちゃうのよぉ、いきなり、魔力回路中に入ってコンコンしないでぇぇ、あああぁ、その中でドピュドピュされたら、デキちゃうのぉォ~ らめぇ、できちゃうぅぅ。ああ、熱い、熱いのがドピュドピュいってるのぉぉ、そんなに注ぎ込んだらデキちゃうっていってのにぃぃ。魔力回路の中がパンパンになって、壊れちゃうのよぉォ、ああ、来ちゃうのぉぉ。熱いのが上がってくるのよぉォ、すごく熱いのよぉォーー!!」
『クソビッチの分際で、自力で魔法を使うとか…… いつか、殺そうかしら』
サラームが俺の中で声を上げた。
本来、人間は精霊を介在しなければ、魔法は使えない。しかし、エロリィは「禁呪」という形で自力で魔法を使うことができる。
「ああああん~ らめぇぇ!! どぴゅどぴゅ出てるのよぉォ!」
握りこぶしくらいの大きさの火球が無数に生み出され、それが四方八方に飛び散っていく。
生き残り、逃走していたガチホモ兵が、次々と炎に包まれていく。
焦げ臭い匂いが、この空間に流れ出してきた。
エロリィはガクガクと震え、崩れ落ちている。
口の周りには逆流した、魔素がこびりついている。白濁した白い液体に見えるのだ。
そして、アヘ顔になったまま、ダブルピースを決める。
どうも、禁呪はこれをもって、完成となるようだ。
「ああん~ 大量殺戮禁呪は、動けなくなるから、使いたくなかったのよぉぉ~ ああん、でも、アインの赤ちゃんを孕みたいのよぉぉ」
アヘ顔でガクガクと震え、エロリィが言った。
「くーん、くーん(大丈夫ですか? エロリィ様)」
心配そうにガチホモ犬が、エロリィに寄り添う。
四つん這いのガチムチが亀甲縛りされ、乳首に洗濯ばさみをぶら下げている状態。
今や、犬として生きていくガチホモのなれの果て。
「おい、エロリィ、大丈夫か?」
俺は白濁した魔素で汚れているエロリィを助け起こそうとした。
今のエロリィの攻撃で、ガチホモ兵は全滅したようだった。
俺が近づくと、エロリィは「ヒュン―」と一挙動で立ち上がり、「パーン」と俺にしがみ付いてきた。
「ちょぉぉぉ! エロリィ、魔素が、魔素の臭いがキツイんだけどぉぉ!」
「ああん、もうね、アインの魔力を吸収しないと、立てないのよぉぉ、メロメロなのよぉぉ~」
そういうと、エロリィは俺の唇に吸い付いてきた。
その、細く嫋やかといっていい両腕が、俺の首にまきついてくる。
ニュルンと、高い体温のベロが侵入してくる。そして強引に吸い取ってくる。
俺の魔力回路が重低音で回転し、エロリィに魔力を流し込んでいくのが分かった。
俺の魔力を味わうように、エロリィのベロが俺の口の中をウネウネと動き回る。
チュポーン――
エロリィが俺の唇から離れた。
碧い瞳が潤んでいる。金髪の長いまつ毛がすっと瞳を隠すように沈む。
細めた目で俺のことを見つめるエロリィ。確かに、超絶的な美の結晶だ。
「もうね、アインの魔力でパンパンなのよぉ、このまま、私のことを孕ませてほしいくらいなのよ」
甘ったるい声で、俺にしがみ付いてくるエロリィ。
魔素のヤバい匂いが消え、幼女特有の脳を痺れさせる香りが俺を襲う。
「あはッ! なんだよ! クソロリ姫の攻撃で、終わりか? もう、生きてるのはいないのか?」
ライサが釘バットを肩にかついて言い放つ。
もはや、この空間に息をしているガチホモは存在してなさそうだった。
「ああ、アイン―― アインを一晩独占するのです。私の中に、アインの遺伝子を刻みこむのです――」
長い黒髪を揺らしながら、シャラートがやってくる。
呼吸が荒くなっている。戦闘で動きまわったからではなく、完全に発情して呼吸が荒くなっているのが分かった。
大きなおっぱいが呼吸に合わせ、上下に動く。
「もうね、なに、勝った気でいるのよッ! セバスチャン! どうなのよ!」
ピョーンと俺から離れたエロリィが、セバスチャンを碧い瞳で睨み付ける。
「えー、先ほどのエロリィ様の禁呪攻撃で、全てのガチホモが死にましたな。これで…… ああ、お三人とも、3291人ですね。同着にございます――」
セバスチャンが言った。
『出来レースだわ。これ、最初からこうなる予定だったんだわ!』
サラームが俺の中で結果に対して突っ込む。
つーか、三人が同じってことはどーなんだ?
「同じですか?」
「はい。同じでございます。シャラート様」
メガネの奥の黒い瞳がセバスチャンを射抜くように見つめる。
その氷の視線に全く動じず、言葉を返すセバスチャン。
「なるほど、そうですか――」
シャラートのメガネの奥の黒曜石のような瞳が、ライサとエロリィを捉える。
浅く腰を落とし、チャクラムを握りこむ。
「あはッ! そうかぁ…… じゃあ、続きをしなきゃな……」
ニィィーと口元に笑みを浮かべ、ライサが言った。
ギュンとメリケンサックを強く握りこんだ。
軽く首を振った。長い緋色の髪が躍る様に宙を舞う。
「もうね、分かってるじゃないの、脳筋アカゴリラ女……」
ゆらゆらとした青い魔力光が全身から湧き出てくるエロリィ。
金髪ツインテールが、フォントンに包まれ、光子の欠片をハラハラとまいていく。
「さあ―― 続きです。アインの遺伝子を賭けた。戦いはこれからです」
シャラートの言葉が氷点下の温度を伴い、風にのって広がっていく。
俺の遺伝子を奪い合う、許嫁バトルは、直接対決に移行しようとしていた――
いや、ここ敵地なのに? いいのこれ?
そんな、疑問が俺の頭をよぎった。
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