第三五話:禁呪で跳べ! パンゲア王国へ!

「日本に帰る方法? あるの? 50年とか100年後とかじゃなく?」

 俺はエロリィに言った。

「なくはないのよ。古代魔法文明の技術に、魔力をブーストさせるものがあるのよ」

「そんな、アイテムがあるのか?」

「あるというか、作るのよ」

「作る?」

 エロリィの説明をみんなが聞き入っている。

「ふふん」という感じで、話しを続けるエロリィだった。

「神聖ロリコーン王国では、古代魔法文明の禁呪技術の研究が進んでいるのよ。そこで、禁呪を刻み込んだ、『聖装衣』が研究されているのよ」

「聖装衣って?」

 俺は訊いた。

「古代魔法文明で使用された、禁呪と紋様を刻み込んだ服なのよ。着た者の魔力をブーストさせるのよ」


「そんなものがあるのですか」

「あはッ、ほんとかよ? ロリ姫の国で?」

 シャラートとライサも驚きの表情で食事の手を止めた。


「試作品はできてるのよ! もうね、これが完成すれば星の並びとか関係なくなるのよ!」

「そうなのか?」

「そうなのよ! 『聖装衣☆エローエ』が出来れば、私の魔力回路は、いつもパンパンで溢れそうになるのよ」

「それが出来れば、戻せるのか? コイツらを」

「できるわね。私は天才のプリンセスだから! きゃはははははははは!」

 椅子背もたれに寄りかかり、のけ反りながら高笑いするエロリィだった。


「戻れる、可能性はあるんだな…… で、それはいつできるんだ?」

 野口はすがりつくような目をして言った。

 他の奴らも、同じような目をしている。


「完成間近って聞いていたから、1年以内にはできるんじゃないのぉ~」

「一年か……」

 野口がつぶやくように言った。

 後ろのクラスメイトがざわついていた。

 1年というのも微妙だ。通算で50歳に近くなっている俺の1年と高校生の1年では考え方も違うだろう。

 ただ、最初に50年、100年と聞かされて、1年だ。

 ギリギリ我慢できない感じはないでもない。どーなんだろ?


「なあ、エロリィ」

「なによ?」

「それが出来たら、コイツらを日本に帰してやって欲しいんだ」

 俺は言った。

 クラスメイトが異世界に転移したのは俺の責任ではない。

 サラームのせいだ。断じて俺のせいではない。

 しかし、望まずここに来たやつらは帰してやりたいとは思うのだ。

「それは、いいのよ」

 エロリィは碧い瞳で俺を見つめた。キレイな吸い込まれる様な瞳だった。

 金色のまつ毛は瞳に影ができるくらい長い。


「なあ、野口、それまで待ってくれないか」

 俺は馬のような野口の顔を見た。

 人類とどこかで進化の枝分かれが違っているかのような顔のはずだった。

 それが妙に人間ぽく見える。いや、人間なんだけどね。


「1年か…… 俺たちが帰るのに1年……」

 野口はその言葉を噛みしめるように口にしていた。


        ◇◇◇◇◇◇ 


「さて、パンゲア王国に向かうわけだが……」

 エルフの千葉の緑の髪の毛が風に舞った。

 サラサラと強い陽光の中で揺れる髪を手慣れた感じで押さえる千葉だった。

 男子高校生だったとは思えない洗練された仕草だった。

 肩からはノーパソ、ハードデスクの入ったカバンをぶら下げている。

 でかいカバンだ。

 

 俺とエルフとなった千葉、シャラート、ライサ、エロリィ、シュバイン、ルサーナが宿の屋上にいた。

 布団がたくさん干してある。洗濯物干場になっているのだろう。日当たりが良い。

 

「結局、クラスの奴らは、全員残るのか」

「まあ、先生がいれば宿賃もいらないようだしな」

 千葉が言った通り、この温泉村でなぜか池内先生は商売繁盛の魔王として、崇められていた。

 先生がいれば、宿が存在する限り居座ることもできるのだろう。

 宿と飯は確保できたし、なんとかなるだろう。


「そろそろ、行くのよ! 忘れ物はないわね?」

 直上から降り注ぐ日差しの中、エロリィが言った。

 金色のツインテールが光を反射しキラキラと輝いている。

「ああ、エロリィ」

「しかし、見送りもなしか……」

 吐き捨てるように千葉が言った。


「まってくれぇぇ」

 野太い声が響いた。

 俺は声の方向を見た。

「佐倉か? 柔道部の」


 柔道部の佐倉だった。ニキビ顔で、完全にカリフラワーの典型的な柔道耳。

 岩石のような顔をしたデカイ男だ。身長は190センチ近く。体重は100キロを軽く超える。


「行くなよ! 千葉! 残ってくれ! なあ、俺たちと残ろう」


 コイツは確か、エルフになった千葉に一目ぼれして、玉砕したのだったな。ああ、思い出した。

 まだ、引きずっているのか?


「私は残らん」

「なんでだ、千葉! エルフになったからか? いいじゃないかエルフでも! 俺は…… 俺はお前を」

「その先は言うな。私は、アインの婚約者だ――」

 スパッと切り裂くような言葉だった。

 美しく幻想的な容姿のエルフが言い切った。

 なんか、嫌なんだけど。今でも。


「私のことは諦めるんだ――」

 神秘的な光を湛えたエメラルドグリーンの瞳が、クラスメイトを見つめている。

 佐倉は崩れ落ち、背中を丸めて泣いていた。

 ワンワン泣いている。


『クライベイビー・佐倉……』

 サラームが俺の脳内で言った。

 まあ、どうでもいい。


「いやよ、天成君、いかないでぁぁ、ああん、先にいっちゃいやん」

 真昼間の陽光の中を、淫靡なセリフとともに登場。

 池内真央先生だ。

 相変わらずの黒のボンテージ姿。

 巨大なおっぱいがプルンプルンと揺れる。


「ああん、天成君、行ってしまうのね、先生をおいて、行っちゃうの? 分かってるわ…… 私は教師で天成君は生徒…… でも、私だって女よ。同じ部屋で2晩も過ごした男と女…… 私を捨ててしまうの? やっぱり若い娘がいいのかしら……(ああん、天成君たら、私を散々もてあそぶのね、いけない生徒だわ、ダメ。こんな別れはダメなの、真央は天成君と別れたくないわ。もう、教師じゃなくていいの。そう、私を牝にしたのは、天成君なのよ、うふ)」

 意味不明なダダ漏れセリフを垂れ流す先生だった。

 真昼間から、フェロモンをまき散らし、陽光の下の健全な空気を一気に淫靡に染めていく。

 先生の存在する半径3メートルが淫靡空間になっていくような感じだった。


「いや、先生は残らないとまずいでしょ…… 生徒を残していなくなるのは……」

「あん、もう私は教師の前に女なの、いいえ、牝だわ。天成君が、私を牝にしたのよ、うふ」

「いや、先生を牝にした覚えはないんだけど……」


 先生、同じ部屋にいたけど、すぐ寝るので、なんにもなかったよね。

 お風呂で洗いっこしただけだよ。まあ、これも生徒と教師の間でどうかと思うけど。


「天成――」

「ん? なんだ千葉」

 千葉が昔のように、俺のことを天成と呼んだ。

 真剣な眼で俺を見つめる。

 神秘的な宝石のような深い緑の瞳だ。


「俺のおっぱいを揉むんだ――」

 一陣の風が吹き、エルフとなった千葉の長い緑の髪の毛がふわりと持ち上がった。

 そして、サラサラと舞うように落ちていった。

 スローフィルムのような、その光景を見つめる俺。

 なにそれ?

 千葉の一人称が元の「俺」に戻っていた。

「俺っ娘」は萌えないという理由で一人称を「私」に変更しているはずなのに。


「俺のおっぱいを揉むことで、俺が、オマエの婚約者であることを、教えるのだ。眼前に揺るぎない俺とお前の絆を示すことで、先生と佐倉に諦めてももらおう」

「おい! そんなんで諦めるのかよ! 佐倉、先生それで……」


「ああ、分かった千葉。俺はそれなら諦められそうだ」

「ああん、先生よりも千葉君を選ぶのね…… でも、それが天成君の結論なら仕方ないわ(いいの、ここは大人の女として、2人の仲を祝福したいの。ううん、でも天成君のことをあきらめたわけじゃないのよ…… いつか、きっと、ああん)」


 真剣な顔で俺と千葉を見つめる佐倉。耳が潰れている。何年柔道やるとあんな耳になるのだろうか。

 池内先生はなに言っているのか分からないので、もう仕方ない。


「もうね! なにやってるのよ! 早く済ますのよ! 転移禁呪、唱えるのよ!」

 エロリィが痺れを切らしたように言った。

 

「さあ! 揉むのだ! 俺のおっぱいを! 俺だって許嫁だ! 1日20回揉んでいいのだ。吸ってもいい…… ただ、あまり強くはするな…… この体、敏感だから」

 顔をピンク色に染めながら、上目づかいで俺を見つめるエルフちゃん。

 でも、中身は出席番号18番の千葉君。俺の友達の男子高校生。

 エルフの柔らかく繊細な指が俺の指に絡みつく。

 そのまま、自分の胸に持っていった。緩やかで芸術的なカーブを描く双丘だった。

 頭が痺れて、現実認識できないまま、俺の手がその双丘の上に着地した。

 優しい弾力と、ほのかな体温が掌に吸い込まれてきた。


「ああああん~ じ、自分で揉むのと全然違うぅぅ~ いい、アイン、凄くいい~」

 エルフが言った。

 俺の手を自分の胸に押し当て、ガクガクと震えている。

 ブンブンと首を振っている。サラサラした緑の髪が俺の顔にも触れる。


『キターー!!! 千葉×アイン! やれ! もっとやれ!』

 精霊様は大興奮。


「もうね、転移禁呪いくのよ!」

 エロリィが言った。そして、腰を沈め、両手を広げ、掌を上にする。

 手首に、何層ものリングのように積層魔法陣が展開さていく。青白い光に包まれる。

 光りの圧力の中、金色のツインテールがふわりと持ち上がり、ゆるゆると揺れる。


「あああん、らめぇ、魔力回路がピクピクしちゃうのぉぉ。もっと魔素が欲しいっていってるのにぃ~。いいから、思い切り魔力回路の中にドピュドピュ出していいの。魔素が溢れてこぼれるくらい出してもいいのぉぉ~ もっとぉぉ、もっとなのぉ、私のちいさな魔力回路の中がパンパンになっちゃうのよぉ~ らめぇ、コンコンしちゃらめぇぇぇ、魔力回路の入り口をコンコンしないで、真っ白になっちゃうのよぉぉ、らめぇ、ああん、もう行っちゃうのよぉぉぉ~」


 俺はエルフとなった千葉のおっぱいを揉みながら、転移禁呪の青い魔力光に包まれていった。

 転移の先は、パンゲア王国であった。

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