第65話一家団欒・遠距離兵器・年末棚卸

10月5日信濃諏訪城:義信視点


「九条よ産後の肥立ちは大丈夫か?」


「はい、乳母がよくやってくれています。毎夜よく眠れていますし、食事も美味しく豊かで、滋養が取れております」


「このように寝所(しんじょ)や厠(かわや)にまで、犬や狼が付いて回るのは慣れてくれたかい?」


「大丈夫でございます。以前も申しましたが、父が飯綱(いずな)を沢山飼っておりましたから、獣には慣れております」


「そうか、それはよかった」


 晩飯は九条・茜・楓・桔梗などの奥を束ねる者たちで、一緒にほうとうを食べる事にした。


 同じ釜の飯を食べる事が、1番の家内融和だと思っているから、城にいる時は極力皆で鍋物を食べるようにしている。


 俺用の鍋の出汁は昆布と干椎茸で取り、南瓜と椎茸・平茸・しめじ等の茸を多種入れて、南瓜が煮溶けるまで煮る。


 具材は少し歯ごたえがあったほうが好きなので、その心算で人参・南瓜・里芋・油揚げを加える。


 麺は塩を練り込まず、饂飩(うどん)に比べて薄く広い平打ち麺を生麺の状態で加える。


 味噌は大豆をベースに米麹と麦麹の両方を使って、仕込んで2年寝かせた物を溶かし込んで完成だ。


 他にも幾つものほうとうが作られていて、それぞれが好みの鍋を仕立てている。


 基礎になる味噌を麦味噌にする者もいるし、米麹味噌だけにする者もいれば、肉類を加える者もいる。


 桔梗ちゃんは肉食だから、ほとんど肉味噌鍋になっている。


 九条は大人しく控えている犬や狼に、猪肉や鹿肉を水煮して食べさせてやっている。犬と狼は、俺たちのために、最初に毒見をしてくれるのだが、それだけでは可哀想だと思ったのだろう。


 九条が動物好きで本当によかった。






10月15日甲斐躑躅城:義信視点


 今日は家族親睦と、信玄との戦略会議のために、躑躅城にまでやってきた。


 俺が諏訪城で独立して以来、毎日伝令で連絡を取り合っているとはいえ、やはり直接会って話す事が大切だ。


 互いの目を見ながら腹を割って話し合わないと、親子とは言え命を懸けた戦略謀略を行うことはできない。


 時には敵味方に対して、表面上は敵対関係を演じて見せねばならないかもしれないからだ。


「今川を攻め滅ぼすか!」


「今川を喰うために、御爺様や叔父上を見殺しにするかもしれませんが、それでよろしいですか?」


「皆戦国の武家じゃ、今川に行った時から、その覚悟はできておろう。だがまあなんだ、直前には鳩を使って、逃げるように伝えよ」


「承りました。計画通りの状態になった場合は、出羽と陸奥は後回しに致します。畿内の事も見て見ぬ振りを致します」


「将軍も困った御方じゃ! もう少し知恵が回ればよいものを。どうせ策を施すなら、お主に関東管領を任ずればよいのだ、さすれば嫌でも北条、今川、上杉と血みどろの抗争となる上に、武田を家臣に留める事もできように」


「義信が固辞してでもでございますか?」


「お主が固辞しても、度重(たびかさ)ねて就任の使者が来れば、将軍家に御恩ができてしまうわ。そうなれば、将軍家に弓引き難くなる。だが刺客を送ったと噂が立てば、反逆しやすくなる。こうなれば仕方がない、圧倒的な戦力を蓄えて、将軍家を殺し奉る。弑逆に成功した後で、今上帝から討幕の勅命を頂いていたことにすればよい。だから今は刺客を返り討ちにして、将軍家と今川義元の仕業と噂を流せばよい」


「承りました、ただ晴元殿への軍資金の支援額を減らそう思っています」


「それがよかろう。刺客に襲われたので、近習を大量に雇う必要になったので、支援金を減らすと伝えればいい。義姉上が亡くなられ、晴元殿と六角定頼の娘との間に嫡男も産まれている。椿と菖蒲が京にいる以上、完全な手切れにはできんが、徐々に兵力を鷹司、九条、三条の屋敷に引き抜いておけ」


「若狭の武田家を完全に取り込みたいので、出雲に逃げ込んでいる武田信実殿を、安芸郡分郡守護に担ごうと思うのですが」


「若狭武田家の現当主、武田信豊殿の弟で、安芸武田家を継いだのに滅亡させた、度し難い愚か者だったな」


「はい、ですが信実殿しか適当な神輿がおりません。武田信豊殿は六角定頼の娘を正室に迎えられ、晴元殿とは相婿になり油断できません。嫡男の武田義統は、先代将軍の足利義晴公の姫を正室に迎えており、これも油断できません。武田信高殿は、兄の信豊殿に忠誠心厚く調略に向きません」


「ならば仕方ないな。神輿は軽い方がよいとも言う、事が落ち着いたら信智か信実を養子にやって、安芸武田家自体を乗っ取ってしまえばよい」


「叔父上たちですが、養嗣子として他国に送ってもよろしいでしょうか? 上総の庁南武田家だけでなく、因幡武田家や比内浅利家へも、養嗣子を送り込む必要があると思います。そのために、駿河におられる信顕叔父上と信友叔父上も、養嗣子候補としたいのですが?」


「今回の今川と騒動が終わって、それでも信顕と信友が生きていれば、その手も考えよう。だが今は、我が息子である四郎、六郎、七郎、八郎の内、無事に育った者を送り込むことを考えよ」


「諏訪頼善(千代宮丸)ではいけませんか?」


「諏訪家は四郎に継がせたいのか?」


「四郎や諏訪御寮人には悪いのですが、諏訪を手放すわけにはいけません。詫びと言う訳ではございませんが、何れは四郎に1国任せたいと思っています」


「甘いな、だが分った、許す」


 躑躅城での晩飯は、信玄のたっての希望で、酒粕鍋になった。


 俺は下戸なので、生まれ変わる前から、酒粕鍋は苦手なのだ。だから仕方なく、具材だけ食べて汁は飲まないようにした。


 出汁は煮干しと干椎茸でとり、酒粕と味噌を溶き入れ、茸類・人参・葱・牛蒡・豆腐・油揚げを入れる。後は好みで猪肉・鴨肉・鹿肉・熊肉を入れて煮込んで食べる。


 母上は肉類が苦手なので、山女魚(やまめ)と天魚(あまご)を入れて食べておられる。俺が取り入れた武田家の新たな風習として、一族だけは男女同じ大広間で一緒に食事をする。


 最初は男たちから異論が出たが、家内の後継争いを未然に塞ぐため、日頃から交流すべしと押し切った。お陰で血縁内だけは、四郎や頼善への偏見がなくなって来た。






10月20日甲斐躑躅城:義信視点


「射よ!」


 移動組み立て式の、大型弩砲の一斉斉射訓練が行われたのだ。


 横棒付の竹槍が、地面に落ちた後は跳ね回りながら進む。やはり敵が鉄砲隊を密集陣形にした場合には、大型弩砲で迎撃する方法が有効だろう。


 火縄銃は高価な上に、続けて運用するには火薬代が馬鹿にならない。いや、寧ろ火薬代で、自国の経済が破綻してしまう。


 そこで色々と新式武器を研究開発してきたが、明国人偽倭寇との交易が活発になり、明国製の武器の輸入も行われた。その結果として、今手元にある武器の中で、何を今後量産化すべきかと言う、武器の選定試験を行った。


「やはり移動と組み立てが問題だな」


 俺は鮎川善信に話しかけた。


「左様でございます。他国に侵攻する場合は、大型弩砲を分解して、荷馬に背負わせねばなりません。大型十文字矢は、現地生産できればいいですが、敵との早期合戦も考えられますから、自領から運び込まねば大型弩砲を運んだ意味がなくなります」


「諸兵科を上手く複合運用できるかどうかが、勝敗の決め手になるな」


「はい? ショヘイカでございますか?」


「ああ、騎馬、鉄砲、弓、槍を上手く使いこなす事だよ」


「若殿が何時も指揮なされておられる、盾隊と槍隊で作った防壁の後ろから、鉄砲隊と弓隊で攻撃し、敵が怯んだ隙を突いて、騎馬隊や徒武者隊に突撃させる事ですか?」


「今まではそればかりだったが、今後は変わってくる。平野部での決戦となれば、騎射を繰り返して敵を死地に誘い込む、釣り野伏を行える練度の騎馬弓隊が必要に成る。さらに言えば、誘い出した敵を包囲殲滅するのに、最適の塩梅(あんばい)が取れた備(そなえ)も必要に成る」


「備(そなえ)の塩梅(あんばい)を変えられるのですか?」


「旗組、鉄砲組、槍組、騎馬隊、士大将、弓組、黒鍬荷駄を何時でも組み替えてられるようにする。そうすれば、臨機応変の陣が組める」


「遠距離・投射兵器」

火縄銃:狙撃距離50m

   :甲冑貫通100m

   :射程200~300m

   :普通1分射撃数3発

   :早合1分射撃数7発

和弓 :殺傷狙撃距離20~60m

   :最大直射程200m

   :最大曲射程400m

   :1分速射数12射

複合弓:曲射程600m

トルコ弓式:曲射程600m

弩  :狙撃距離50m

   :甲冑貫通100m

   :最大直射程200m

   :最大曲射程400m

   :1分4射

強弩 :狙撃距離100m

   :甲冑貫通150m

   :最大直射程250m

   :最大曲射程500m

   :1分1射

諸葛弩:10本の矢を装填

   :射程は35m

   :15秒10本

大型弩:単射型

   :3連射型

   :射程500m

印地(いんじ)打:殺傷射程50m

投石器:殺傷射程100~200m

   :1分3~5発.

投槍 :

ピルム:有効射程20m

   :最大射程30m

投槍器:

アトラトル式:殺傷射程100~200m


 軍備の基本は、敵と同じ武器を、敵以上の数揃えることだ!


 しかもできることなら、敵以上の性能があるほうがいい。


 今までは、元難民の籠城要員の婦女子用に、弩と強弩を量産配備して来た。


 印字打ちと言われる投石術も、投石器を使って訓練してきた。


 大型弩砲も、各城砦の防備用に、量産配備して来た。


 今までは、大型弩砲に使う大型矢を安価に量産する為、長短の竹を2本十文字に繋ぎ合わせたものだった。


 だが畿内では武田家貨幣が使用可能になり、莫大な資金を使えるようになった。


 だから今後は、投槍兼用の高価な大型矢を量産する事にした。


 今までは、外征軍用に火縄銃と和弓を量産配備し、絶間ない訓練を行ってきた。


 だが今後は、アトラトル式投槍部隊も配備していく予定だ。



『義信直轄力』


甲斐水田 :1100町(1万1000反)

甲斐畑  : 700町(7000反)

信濃伊那郡:11万石

信濃諏訪郡: 3万石

信濃木曽郡: 2万石

筑摩郡  : 4万石

水内郡  : 5万石

埴科郡  : 2万石

安曇郡  : 2万石

高井郡  : 2万石

飛騨   : 3万石

「影響下にある国」

佐渡: 1万石(鉱山開発最優先)

越中:35万石(一向宗以外は支配下)

越後:35万石(反抗的・独立心旺盛な国衆多し)

陸奥:山之内一族

出羽:20万石(表面的に従ってるだけ・最上・最上八盾・伊達は敵)


取れ高

玄米:30万5000石

雑穀:60万0000石


備蓄兵糧

玄米: 65万石

麦 :120万石


焼酎生産力

杜氏40人

杜氏1人当たり3石甕1000個前後

30×3×1000=12万0000石

12万石×(1合卸値18文)=216万貫文


艦船

戦闘ジャンク船:72艦

交易ジャンク船:72船

小早船    :48船

関船     : 8船


鉄砲  :  9011丁

三間槍 :2万9000本

三間薙刀:1万2000本

弓   :2万1000張

弩   :3万2000器

打刀  :4万1000振

太刀  :1万5000振

足軽具足:4万9000個

大型弩砲:   900基

移動大型弩砲: 400其


近衛足軽鉄砲隊:  1000兵

近衛足軽弓隊 :  6000兵

近衛足軽槍隊 :1万9000兵

近衛武士団  :1万1000兵

近衛騎馬隊  :  8000兵

近衛黒鍬輜重兵:  9000兵


繁殖牝馬:1811頭

訓練育成中の軍馬

0歳馬:1765頭

1歳馬:1516頭

2歳馬:1416頭

3歳馬:1276頭

4歳馬:1202頭

5歳馬: 702頭


繁殖牝牛:1382頭

育成中の牛

0歳牛:1382頭

1歳牛:1072頭

2歳牛: 897頭

3歳牛: 723頭

4歳牛: 664頭

5歳牛: 461頭


合戦・牛馬・武具・米麦・恩賞・裏工作費用など歳出

193万貫文


『軍資金』

畿内で使用可能になったな武田貨幣

金銀銅貨合計:1億0000万貫文

(半分は信玄保有)


使用可能な精銭・永楽銭

244万貫文

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る