第27話杜氏・鉱山技術者採用・鉱山開発

躑躅ヶ崎館:善信郭の善信私室


「若殿、壱岐の杜氏たちの件は、どういたしましょう?」


「飛影、どうして彼らは移住を希望しているんだい? 焼酎が高値を付けているんだ、固定給の武田より自分で商いした方が儲(もう)かるだろ?」


「壱岐は、肥前国松浦郡鬼子岳城(岸岳城)の城主・波多盛の支配を受けているのですが、その年貢があまりに重いのです。武田に移民した一門の手紙を読み、待遇の差に愕然(がくぜん)としたそうです。それで自分たちも、武田に移住する決意をしたようです」


「ふ~ん、そんなに差があるのかね? 家じゃ固定給で玄米100石だよ?」


「それは杜氏1人の扶持であって、働く皆に1人扶持から10石まで支給されております」


「当たり前だろ?」


「当たり前ではありません!」


「そうなの?」


「そうなのです! 酒蔵で働く者全(ものすべ)てが、老若男女の別なく1人の当主として扱ってもらえるのです!」


「そうなるのか? まあ、全員に俺から扶持する形をとっているからな」


「若殿、働く者全てが、小人から足軽までの身分を保証されて、長屋を与えられております。杜氏見習いになれば徒武者待遇で屋敷持ち、杜氏は騎馬武者待遇で郭の主となっております。郭も屋敷も長屋も、全て若殿が造られてお与えになられました」


「当たり前だろそれくらい。壱岐のような遠方からから、一族連れて来てくれたんだぞ。衣食住を保証しないと、優秀な人材は集まらん。まして彼らが稼ぎ出してくれる軍資金は、扶持に比べて莫大だから、歩合制にしないことを心苦しく思っているくらいだ」


「それはやり過ぎでございます。思い上がる者が出ては、彼ら自身のためにもなりません。武士ならば知行地や扶持の御恩にたいして、奉公でお返しするのは当たり前でございます。彼らも武士でございます、酒造りでお返しするのは当たり前でございます」


「そうか、奉公を否定するのは家臣を侮辱することになるかもしれないな。だが荷役には歩合を与えているから、杜氏たちにも規定量を設けて、それ以上の量を醸造したり利益を上げてくれたら、歩合を与えてもいいのではないかな?」


「左様でございました、申し訳ございません。我らの配下の中には、多くの歩合を頂いている者もおりました。若殿の御心(おこころ)のままになされてください」


「では壱岐の杜氏たちの件は、決して急がず安全確実に移住の手引きをしてくれ。万が一残った一族一門が罰せられてもいけないから、その可能性も伝えた上で、希望する全員を迎えよう。彼らを迎えるための郭や屋敷を用意してくれ」


「承りました。」


「次は?」


「は、以前探すように御命じになられました、鉱山技術者でございます」


「灰吹き法の技術者が見つかったのか!」


「はい、大内氏の石見銀山にて灰吹き法と言うものが行われていると噂があり、多数の手の者を鉱夫や遊び女として送り込みましたが、その1人が技術を習得した上に、灰吹き法技術者1人を招くことに成功しました」


「探っていた者は全員無事か?」


「・・・・・」


「亡くなった者や、不具廃疾(ふぐはいしつ)になった者がいるのだな!」


「1人が落盤で亡くなりました」


「家族は?」


「母と幼き弟がおります」


「俺の前に連れて来てくれ。役目を全うし亡くなった者に報い、関わった素破全てに褒賞(ほうしょう)を与えよう。けっして亡くなった者の代わりにはならんが、知行100石を与えて弟を当主に取り立てる。来られるようならこの件にたずさわった本人を、駄目なら家族の者を連れて来てくれ。俺が直接感状(ちょくせつかんじょう)と知行地を与える」


「有り難き幸せ! 早々に参上させるよう手配をいたします」


 さてどうする?


 度重なる山狩りで、甲斐領内だけでなく周辺諸国の鉱山候補地が見つかった。武田家の勢力圏内の鉱山は安全に採掘できるが、問題は他国の支配地内にある鉱山だ。


足尾銅山:北条領:銅

久根鉱山:今川領:銅・黄鉄鉱

峰之沢鉱山:今川領:金・銀・銅・鉛・亜鉛・硫化鉄

富士金山:今川領:金

梅ヶ島金山:今川領:金


 微妙な位置の鉱山も多いんだよな、信玄に報告して今川や北条と泥沼の戦争にはしたくなしな。木曽・飛騨・美濃・信濃の鉱山だけ報告するか?


 でもばれるだろうな。え~い、しゃ~ね~わ、正直に言おう!






躑躅ヶ崎館:信玄私室


 今回は、信玄、俺、山本勘助、飛影の4人で軍議することになった。


「で、これほどの鉱山の発見を、儂に内密にしていたのだな!」


 怖いよ父ちゃん!


「は、画期的な灰吹き法を手に入れるまでは、下手に開発しますと銅に金銀が残ってしまい、武田の富が流出してしまいます。それを解決するために、素破を使い探らせておりました」


「やむをえなかったと言いたのだな! 勘助、貴様はどう思う!」


「若君の仰る通りかと」


「で、どうするのだ!」


「以前も申しました通り、天下に武田の貨幣を流通させます」


「具体的には!」


「金貨は金9割、銅1割の品位で、京目一両の4匁5分(16・8g前後)とし、円形で淵に刻みを入れて、擦り切り量目を誤魔化すことを防ぎます」


「ふむ、それで」


「表には1両と1圓の2つ、私が提案しました数字の1と両・1と圓を刻み、裏には武田菱を刻みます」


「ほう、金は我が武田が支配すると知らしめるのだな、それは悪くない考えだ」


「同じく10銭と武田菱を刻んだ小さい金貨を作ります」


「従来の4進法ではなく10進法にするのは、武田領で商いを活発にして豊かにするためであったな。確かに善信が開設した市のお陰で、武田家は豊かになっておる」


「は、お褒めに預かり恐悦至極(きょうえつしごく)に存じます。次に銀貨でございますが、銀8割、銅2割の品位で、100匁、50匁、10匁、5匁、1匁の5種を造ります」


「同じく表に数字と匁、裏に武田菱、淵に刻みを入れるのだな」


「左様でございます」


「次は銭だな、これも金銀と同じにするのか?」


「こちらは従来の銭に近づけます。量目は銅1匁(3.75g)とし、表に武田通寳と刻み、裏は何もせず、中に四角の穴を空けます」


「ふむ、以上だな」


「いえ、10文銭を造ります。銅6割・亜鉛3割・鉛1割の品位で、量目は1匁(3.75g)とし、表に武田通寳と刻み、裏には天下安寧と刻みます、また淵に刻みを入れて中に四角の穴を空けます」


「ほう、これも軍資金として役立つな!」


「はい、しかし貨幣の鋳造には細心の注意が必要です。古(いにしえ)に朝廷が貨幣を鋳造されて以来、我が国では長らく真面(まとも)な貨幣が造られておりません。それを我が武田がやるのです! 貨幣の品位に偽りがあっては、天下の信を失い幕府を開くことの弊害(へいがい)となります。」


「武田幕府を開くか! 分かった、認めよう」


「それと、我が国の古き銅地金と鐚銭を吹き直します。上手くすれば新たに金銀を得られますし、得られずとも、鐚銭が最低8倍の永楽銭以上の値に成りましょう」


「認めよう、だが上納金は5割納めるように」


「御屋形様、若君も種々の費用が掛かっておりましょう、5割はどうかと思われますが?」


 山本勘助は俺に好意的なのか?


 勘助が推し進めた頼菊(よりきく)殿の輿入れを後押した礼の心算か?


「分かっておる。全ての費用を提出するがよい、儲けの5割じゃ」


「承りました」


「勘助、これだけの鉱山が見つかったのじゃ、人手がいるのう」


「は、年が明け雪が解けましたら、村上義清と小笠原長時を攻め、人と食料を集めねばなりません!」


「今から準備をいたせ!」


「は! 承りました」


 うわ~、テレビ観た悪代官そのものだよ!


 奴隷狩りと略奪の相談だ、まさかこんな席に同席する羽目になるとは思いもしなかったわ。


「善信、御前は一切係わるな! 儂が力と謀略で天下を盗り幕府を開く、そなたがその後の天下を仁徳で治めよ!」


「は! 有り難き幸せ!」


「儂亡き後に、苛斂誅求(かれんちゅうきゅう)な役割を担う者を育てておけ! 三条以外の腹から生まれた弟の中で、武田への忠誠厚き者を育てるのじゃ」


「有り難き幸せ! 善信、我が肝に銘じて御言葉に従う事を御誓い申しあげます」

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