第36話説得
「三七郎殿、もう諦めるのです」
「何を申されるのですか、母上。母上は私に剥げ鼠に頭を下げろと言われるのですか」
「ですが三七郎殿、もう城を守る者がいないではありませんか」
「まだ忠義の士が千人おります」
「三七郎殿を守ろうという者は、千人にまで減ってしまったのですね」
「母上・・・・・」
「先日この城を出ていく時は、二万五千もの者達が三七郎殿に従っていました」
「・・・・・」
「それが今では千人です。この事しっかり受け止めねばなりません」
「私にはまだ三法師がおります」
「恥を知りなさい。三七郎」
「母上」
「あれほど御前を可愛がってくれた三位中将様の御子を人質に取ると言うのですか」
「それは・・・・・」
「それとも御前は、最初から三法師様を弑逆して織田家を乗っ取る心算だったのですか」
「違います。そんな気持ちは全くありません」
「だったら三法師様を筑前殿に返し、降伏なさい。筑前も上様の御子を殺すような事はしないでしょう」
「母上は私に、剥げ鼠に命乞いしろと言われるのですか」
「ならばこのまま籠城して、三法師様を巻き込むと言うのですか。それこそ筑前の思う壺ではありませんか」
「え、それはどう言う事ですか」
「このまま戦になってしまえば、筑前が三法師様を弑逆することがあっても、御前がやった事にされてしまうのですよ」
「そんな」
「そして織田家は、三法師様の手から秀勝様のモノになってしまうのですよ」
「そんな事は許しません」
「許しませんも何も、筑前の思う様に踊らされているではありませんか」
「私が筑前に踊らされた・・・・・そんな馬鹿な」
「三七郎殿。筑前の思い通りにさせないためにも、三法師様を筑前に御返ししなさい」
「・・・・・分かりました」
「三七郎殿、生きていれば再起の機会が必ず来ます。今は辛抱するのです」
「分かりました」
織田信孝は、母の説得を受けて秀吉に降伏した。
秀吉との交渉にあたったのは、最後まで忠義の心を失わなかった太田新左衛門尉と小林甚兵衛だった。
美濃一国は秀吉の領国となったが、美濃に領地を持っていた信孝の与力と家臣は、そのまま秀吉の家臣に迎えられた。
ただ神戸具盛が神戸城三万石の大名に復帰するのに伴い、その家臣達の領地は入れ替えられた。
信孝は当主に復帰した神戸具盛に預けられ、幽閉されることになった。
神戸具盛は信長の命令で長年幽閉されていたので、その意趣返しとも言えなくない。
信孝の母親、正室の鈴与姫(神戸具盛の娘)、側室の板御前(小妻家の娘)は秀吉の人質となり、宝寺城に移された。
これで秀吉の領地は五十四万石増加し、柴田勝家の味方が減った。
しかも柴田勝家は、旗頭となる織田家の者を失ってしまった。
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